第26話 護道く〜ん!


「はいはいはい、さあ、次は投打交代してくださーーい!早くしてね!!また、時間オシてるよ!」

 ちょっと、翔子さんは怒ってる?


 さあ、次は、オレが投げる番だ。

 もちろん、三振しか考えてない!!


 お前のスプリットにはびっくりしたが、バッティングにはそんな種類なんかねーからな。


 オレが次の勝負の主導権を握ってるってことだ!


 もう、シオンのことは、訳が分からんから考えずに、シンプルに護道をただ三振に取るだけだ!

 まずは、目の前の敵!

 コイツを倒す!!

 オレは、シオンの笑顔に護道への怒りが鎮火され、心のたぎりが弱まったのを感じていた。

 もう一度、熱くなれ!

 オレの魂!!

 護道を潰すことが出来るチャンスなんだ!

 こんな事、出来るはずが無いと思ってきた事が、今、起ころうとしてるんだ!

 いや、起こすんだよ、このオレが!

 護道!

 お前はもう、終わってるんだよ!


 あっけなく三振させて、みんなの前で無様をさらせよ、コノヤロー!!


 オレとすれ違いざま、オレは護道に言った。

「お前の敗因は、初級のスプリットだ。アレを最後まで温存されると、厳しかった。まあ、結果論だがな!」


「違う。勝負は結果が全てだ。だが、まだ終わっちゃいない。このまま勝つとか思うなよ、藤堂!」


 コイツ、まだ勝つつもりでいるのか?


 ってか、オレ、ホームラン打ったんだけど、それ以上があるの?


 負け犬の遠吠えって言葉、コイツにはわからねーよーだな!

 バカだぜ、コイツ!


 ヤツには、もう、手札などないぞ。


 でも、ヤツの目は死んでねー。


 そういうところは、敵として褒めてやる。


 褒める?


 はあ?


 オレ、いま、何を言った(心の中で)?


 忘れるなよ、オレ!!


 消去したことが、蘇る。


 いや、もう消去できてないのだがな。


 あの時、あの場面、お前、オレを見て笑ってたよな。

 勝手に自分ででっち上げた事を、さもオレがしたように言って、みんなを誘導して、自分の思い通りに事が運んで行くのを見て、楽しかったんだろうな。


 他人を踏み台にして、他人の事など、他人の心の事など何も考えず、全ては自分が良ければ後はどうでもいいって生きているお前、お前が生きていること自体が害悪なんだよ!


 お前、まずはお前の大好きな野球で恥をかきさらせ!



 キャッチャーは、田辺中の佐山だ。

 オレの全力の球は、取れないけど、まあ大丈夫だろう。



 オレは、練習無しでいつでも良いと言ったが、この佐山の為に、2,3球軽く投げる。


 うん?

 マウンドから投げるって、ちょっと感じが違うな。

 オレは、更にもう2,3球と投げる。

 コツがいる。

 この坂になってるマウンドってのは、これを味方につけて投げるんだろうけど、素人で初めてのオレには、取っ付きにくかった。


 ここから見る景色も違うし、バッターの時には気にしてなかったが、意外と、その他のギャラリーの姿が見えてしまう。


 これは、オレの目が知覚できる領域が能力向上と共に広がっているのは勿論だが、視力も良くなっているのだ。


 田辺中野球部だったヤツ等が居る。

 早乙女もシオンも久美子も、早苗ちゃんも居る。


 みんな、口々に声援を送っているのがわかる。


「護道ー!挽回しろ!」

「護道く〜ん、今度こそ!お願い!」

「護道ーー!お前もホームランだぞ、このヤロー!」

「藤堂ー!がんばれー!」

「護道ー、テメー、ゼッテー、打てー!」

「藤堂くーん、ステキー」

「カズトー、カズトー」

 早乙女、お前、名前の連呼は止めろ!


「護道く〜ん、ファイト!」

 あれっ?

 シオン?

 はっ?


 護道が、ニタリと口の端を上げた。


 なんで?

 そう言えば、はじめだけは、さっきも護道を応援してたな。


 ってことは?


 って考えるのは止そう!


 投球に専念だ!


 クソ護道のヤローーー!!


 笑うんじゃねーよ、お前、さっき負けただろうがーー!!


「もういいよね!藤堂君、さあ、早く始めましょう?」


「はい」


「プレイ!!」

 殆ど、翔子さんが仕切っているけど、キャプテンが審判の仕事をしたぞと言う感じで、声を張り上げた。


 まずは、アイツより少し速い球を投げて、びっくりさせてやるぜ!


 サインは、オレから出す(ほぼフォーシームしか投げられないので、コースだけのサインだけどな)。


「護道、行くぞ!」


「・・・・・」


 無視かよ!!


 いいか、護道よ、お前はもうお終いなんだよ!


 オレは、振りかぶるとヤツの内角低めへフォーシームを投げ込んだ!


 思ったよりも速い球を内角低めに初見で投げられると、まずは良くてファールだろう。

 しかし、当たるハズが無い!!


 オレは、自信を持って、投じたのだった!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る