第15話

「カズト、おはよう!ねぇ、身体の方、今日は大丈夫?」(早乙女)

「ああ、おはよう。もう問題ないよ」


「そうなんだ、良かった!心配したんだよ〜。じゃあ、日曜日、楽しみだね!」

「ああ、そうだね」


「うん?なんか、まだ元気無さげだぞ?」

「いや、だって、早乙女が可愛い過ぎるから」


「やだー!!」

 オレの背中を叩く。

「ゲフッ!」


 そうだよ、これだよ。

 なんか、思い出して来たぞ。

 早乙女は、とにかく、叩いて来たよな、小5の時も。


 それと、あの頃は、たしか、紫苑と親友とかじゃなかった?

 だったら、アレから仲良くなったって事?


 うん?

 そうか!

 これから早乙女と恋人同士となるけど、オレが紫苑に取られるって筋書きはどうよ?


 親友の絆にヒビが入るぞ。

 いいね、お前ら、これからよろしくな、あはははは!


 オレは、心の中で、大いに笑った。


「なに、なに、なに?何か、スイッチ入っちゃった?顔が不気味に笑顔なんだけど?」


「いや、早乙女の強いスキンシップに感動したんだよ!」


「えっ?やだーー!!」


 バシッ!!

 今度は肩かよ!

 コイツ、容赦なくスナップを利かせたな!

 オニいてーじゃねーかよ!


「あっ!紫苑、おはよう!」

「おはよう、えっと、カズト君もおはよう!」


「ああ、おはよう、白藤」


「あっ!護道君、おはよう」

「ああ、紫苑、おはよう」


 護道、お前、後ろに居たのかよ!


 と、護道がオレに小声で言った。

「ちょっと、つきあえ」


 オレも小声で言った。

「いやだ」


 護道は、オレの肩を揉むふりをしてチカラを両手に込めて来た。


 なんだ、朝から、オレの肩をみんなが壊そうとしてるぜ!


「ああ~~、良い気持ちだ、護道。お前、マッサージ上手だな。ちょっと付き合えよ!」


「最初から、頷けば良いものを、こっちだ」


 オレは、護道について行った。


「どこまで行くんだよ」

 って言った途端に、オレの胸倉を掴んできた。


「おい、お前と紫苑、どういう関係だ?」


 なにコイツ、怒ってんのか?

 どうする、オレ?


 紫苑が、護道の前で、オレの名前を呼ぶからだけど、まあ仕方ない。


 度胸だ!

 オレは、これからの事を為すべき為には、まず度胸だ!


 できる、できる、できる!

 護道など、だ!


「護道、手を放せって。あのな~、なんか勘違いしてるみたいだけど、彼女とは中学時代に塾で一緒だったんだよ。あの早乙女と一緒にな。で、早乙女がオレのこと、名前で呼ぶから、親友の紫苑も自然と名前呼びになったって感じだな。オーケー?」


「そうなのか?」


 ウソ、成功!

 後で、紫苑たちと口裏合わせしとこう。


「ああ、わかったなら、もう手を放せよ」


「お、おう。悪かったな。このことは、紫苑には内緒な」


「ああ、その代わりと言っちゃーアレなんだが、放課後、一緒に野球部に連れてってくれないかな?オレ、野球部に興味あるんで」


「えっ?別に構わんが、お前、野球してたのか?」


「いや~~、全然」


「だったら止めとけ。素人が通用するほど、甘い世界じゃねーから」


 コイツ、甘い世界・・・世界だって言ってるぜ!

 プロにでもなろうってんじゃねーだろうな!

 それなら、ズブの素人の怖さを思い知らせてやるぜ!


「そうなんだ~。でも、体験入部とか言うヤツでしょ、最初の頃は。一応、どんなものか、知りたいし。オレ、野球、大好きだからさ~。護道が中学時代にものすご~く活躍してたの、知ってるし。マジで、すごかったよね、君」

 ああ、全然知らねーよ、お前のことなんか。

 中学時代、オレは、暗黒時代だったからな!


「そ、そうか。じゃあ、仕方がねーな。案内してやるよ。ついでに、先輩たちにも紹介してやるから、まあ、見るだけだろうがな」


「おう、ありがとな」


 コイツは、おだてに弱かったのか。

 そんな事、小学生の時にわかってたら・・あっ、ムリだわ。

 こんなに頭が回るはずねーよ、ガキの時は。


 こうして、放課後、野球部へ行く段取りが出来たのだった。


 そして、オレはトイレへと駆け込んだ。

 ああ~~、ビビった!

 昔は、ゴリラ顔だったからめっちゃ怖かったけど、イケメンになったアイツは、そんなに怖くなかったから冷静でいられたぜ。


 そう言いながら、オレは、ファスナー(チャック)を開ける指が震えていた。






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