第51話

「お初にお目にかかります。

 私(わたくし)、メアリー・クロスと申します。

 ポジタット王国王族直轄近衛兵団騎士で現在はリザベル・マリア・ボジタット様の近衛騎士となっております。」


ヘルムを被ったままではあるが声の色と名前からして女であることは間違いないと思われる。

王女付きの騎士とのことだったのでそう言ったお世話も兼ねていると考えられる。

前回に居た騎士にはここまでの実力者は居なかったことから今日は本気でここに交渉しに来たのかもしれない。

気になったので盗賊の兄ちゃんに小声で聞くことにした。


「なんかまともそうですね。」

「ああ、前回は住んでいるところを確認するところまでが目的だったんだが結局発見できなかったこともあってな。

 それにあの姫さんもお転婆だろ。

 しかも王の末っ子でな。」


なんとなく察した。

末っ子は可愛がる親が多い。

ボジタット王国の王やその妃もその例に漏れなかったようだ。


「ねえメアリー彼は何を話しているの?」

「姫様には伝えなくても良いことです。

 それよりも姫様、今回の要件を言うのが先では?」

「あ、そうだわ。

 えっと命の恩人さん。

 あなたを私のお家に招待したいのだけども良いかしら?」

「お断りします。」

「え?どうして?」

「姫様。いきなりこちらに来いと言っては相手側も何も準備も出来ていないですし本来こちらから謝礼の品を渡すのが礼儀です。

 王宮にお招きするのは相手の生活に影響しない場合のみです。」


この騎士は他の人の生活をよく見ている。

辺境の方にも従軍か遠征にでも行ったことがあると見た。


「お金を渡せばいいんじゃないの?」

「姫様、都会で生活をしているモノにはそれでいいでしょう。

 ですが田舎の生活はそんなに甘いものではありません。

 もしもの時のために備蓄を常に作りモンスターに畑や食料を取られないようにするための罠を作成したりすることは幾らでもあるのです。

 それにこの土地のような大変物流が薄い賢者の深淵大森林には戦闘商人しか訪れません。

 ですので完全自給自足の生活を送っていると見られます。

 服も上質な御召し物をご着用していることから技術は何から何まで職人クラスと見受けられることから

 もし王宮に起こしいただ行くようなことが有ればボジタット王国オリハルコン貨幣を持ち出すかもしれないほどの損失を起こす責任があるんですよ。」


「ご、ごめんなさい。」


この騎士凄い勘違いしている気もするがそれだけ調べていることの証拠でもあるからそのまま勘違いしていただこう。

実際俺も面からシャツを作ることくらいのことは俺もできるので後で設備を整えないと面倒だなと思いつつこの場をそのまま乗り切れと思っていた。


「で、でもあなたにお礼をしたい気持ちは本物ですのでどうかお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか。」


名前を聞くと来たか。

名を名乗るというのは相当なリスクだ。

特にこの世界では名前を知られると呪われる可能性のある呪術師なる職業が存在しているらしく用心深い人はほとんど偽名を使って生活をしているらしい。


「名前くらいいいと思うなかれですよ。

 お嬢様。

 申し訳ございませんが賢者の深淵大森林にすむ御方。

 偽名で構いませんの御教えお願いできませんでしょうか。」

「何故名前を聞くのが行けないのですか?」

「メアリー上官俺も気になるんだが?」

「名前を知られるということは呪術師に呪われる可能性を秘めています。

 だからそれを知っている人物はおいそれと名前を教えたりしないのです。

 私ども貴族はそれらに屈しないという意味も込めて名を大々的に公表します。

 ですが呪術師に名を知られる恐れがある以上一部の傭兵団などは貴族に名を明かすときは偽名でいることもあるそうです。

 今では呪術師の数も減っており警戒する必要のないと言われてきていることですが先ほどからずっと我々の警戒している範囲を遥かに上回る規模で把握している御仁がこのことに気が付かないわけがありません。

 元盗賊の彼からも聞きましたがこの賢者の深淵大森林には我々の予想を遥かに超える存在が数多く存在します。

 隙をみせるような真似をすれば死ぬようなところに生きることを望んだ方々の誇りを汚さぬようにお願いします。」


誇りも何もないのだが。

まあ常時戦闘脳であることには変わりない。

元々いじめが過激化してきたころにはいつ暴力的なモノが来ても良いように身のこなしで対策をしていなければ当の昔に命を絶っていた状況であった。


「そうだな、名はドウジとでも言ってくれ。」

「……私…は…ミウス…でいい……。」


ミウスさんはそのままで通すようだ。

まあ神に近しい存在のようだし呪いごときにやられるような人ではないということだろう。


『お前も俺らがいる限り他の呪いにはかからねえがな。』

『餓鬼か。』

『俺様たちの呪いは人間どもの使うちんけなもんとは違う。

 あのクソ牛に浄化されかけたが俺らの怨念は甘くねえ。』

『そんなふうに喋れたんだな。』

『っけ!俺はてめえの身体を乗っ取ることしか考えてねえよ。』

『それ言っていいのか?』

『どうせその牛が気づくからな。』


餓鬼と会話をしていると姫様は目を細めてこちらを注視していた。


「ミウスさんは実名なのにドウジさんは偽名なのが解せませんが名乗ってくれてありがとうございます。」

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