第39話
「まずなんですけども、その土地の資産税は誰が払っているんですか?」
「…旦那様です。また、贈与税に関しては全て旦那様名義で執り行われていますので今現在のところはかかっておりません。」
「じゃあ引越ししてもらうことは無理か……。」
「奥様に働きかければ話は別ですが……。」
「今は海外、結局そこに行き着くのか。」
嘆いてもしょうがないと思いつつも現実から逃避したい心理に駆られていた。
もうどうでもいいやと思いながらミウスさんから貰った暫定ホルスタイン生産性牛乳を口にする。
「凄く疲れが吹っ飛ぶんだけどこの牛乳はどこから?」
「…野生……。」
「野生!?」
ある意味でほっとしたけど野生で牛が住んでいるところな口之島に居る在来種しか聞いたことは無いが…。
「…………カモシカ……と…家畜…逃げ…た……牛…。」
「カモシカってウシ科だっけ?まあ良いけど逃げた家畜なんて聞いたことなかったけど……。」
「一応私どももこのあたりの生物について調べましたが最近3つほど山を越えたところに前の台風で逃げた牛が住み着いたのが報告に上がっております。」
「ちなみに種類を聞いても?」
「スイギュウだそうです。尚、子育てをし始める時期で気が荒く見かけても警察に連絡しても対処できないそうですので近づかないようにとの通達がございましたがご存じありませんでしたか?」
うちのじいちゃんは野生動物を脅威とは思ってないから報告しないんだよね。
町内会の議題には上がっていたんだろうけどそこは元傭兵でマタギ兼農家兼修行中のおっさん。
慢心はしてないけど孫にも教えて欲しいっす。
「じいちゃんが脅威に思ってないのなら多分伝えてこないと思う。」
「確か現在の保護者である。刀赤 根々(ねね)さんは元傭兵で数十の戦場を生きて生還したある種の伝説的存在でしたね。確かロシアの方の我々の業界とコネクションを御持ちと聞き及んでおります。」
「うん、でもスイギュウね。」
「……眷属……済…み………。」
「眷属化、使い魔として使役するのではなく?」
「……肯定…。」
「そうですか。方法は聞かないでおきます。あなたを敵に回したくはありませんからね。さてそろそろ着きましたよお嬢様の家に。」
何となく数奇屋づくりの邸宅か森にたたずむ西洋の洋館をイメージしていたが案外普通の家で間取りは3LDKぐらいが妥当な1階建ての平屋建築だった。
「奥様の最後の抵抗でございます。」
顔に出ていたのか詩さんが説明してくれる。
しかし、明日香さんが一向に起きないのが不思議だ。
やはり目に見えない手刀は気絶したらなかなか目覚めない仕様なのだろうか。
「ああ、お嬢様は今狸寝入りしていらっしゃいますよ。
ほら先ほどから刀赤さんの方によりかかるように寝ているでしょう。
お嬢様は病院で面倒な人に会いたくないように眠る振りだけは達人クラスなんですよ。」
「え?」
きちんと五覚を見て感じていたため狸寝入りとは考えられなかったが鑑定してみると……
戸籍名義 加藤 明日香
真名 神問 明日香
神々に魅入られやすい神問一族の中でも血筋が濃い人物。
今まで生きることを諦めていたせいか情緒不安定ではあるが現実、世間を理解しようとはしている。
少なくとも自分中心に世界が回っていると思っているようなざまぁされるヒロイン的な思考は持っていない模様。
最近は刀赤 幹のことをなんでも知りたがっている。
尚現在はスキル《神をも欺く寝たふり》によって完全な狸寝入り状態。
個体名 葛西 詩が判別していることに気が付かなければ鑑定結果は無効になっている。
人生を振り回されそうな確率 現時点51% クラスに一人は居そうな人気者レベル
良い奥さんになってくれそうな確率 現時点15% 赤点です。このままではお見合い結婚ですらあって半年で離婚したくなる可能性大
ヤンデレ率 現時点42% まだ自覚はしていませんが時間の問題です。換金される前に姿を消すことをお勧めします。
ミウスさんが良い奥さんになってくれそうな確率 現時点100% さあ今すぐに式を上げましょう。この人ほどあなたにふさわしい奥さんは居ません。ささ、ここにハンコを押してください。押すだけで幸せになれるんですから押さないって選択肢はありませんよね。詐欺ではありませんよ。鑑定は他ならぬあなた自身の深層から感じていることを話しているですから。ささ白いタキシードを着ましょう。
最後のはイタズラされたのがバレバレだったので無視することにした。
「…………む………………。」
ミウスさんは無視されたことに怒りを覚えたのか頬を冬眠前に備えているリスのように膨らませていた。
ツンツン
「~♪~~」
ミウスさんの頬をツンツンすると機嫌を取りもしたのかほんわかした笑顔を出している。
コテッ……
「ん?」
明日香さんが首をこちらにさらに寄らせている。
こっちにもやれと言わんばかりに頬部分を晒しだしていく。
「詩さん、明日香さんがご所望だそうですよ。」
「はい、駐車も終わりましたし運び出しますね。」
「ふんす!」
今度は掴んで離さんばかりの強い力で抱きしめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます