Extra Tale:これが、私のお仕事です
「お姉様っ、また明日です!」
元気いっぱいのスラリアちゃんが、リリア様にぎゅっと抱きつきます。
努めて平静を装っているようですが、リリア様の心のうちはデレデレと
脳波を分析すれば正誤が判断できますが、まあ、分析するまでもない――というか、ダメですね。
プレイヤーのプライバシーをいたずらに侵害するのは良くないことです。
『リリア様、終了フェイズに移行しますね』
私の言葉を聞いて、微笑みながら頷くリリア様。
その優しい微笑みは、私のエモーション・ライブラリに存在していないものでした。
ふふっ、こっそりと記録しておくことにしましょう。
またひとつ、私の表情のバリエーションが増えました。
しばらくして、リリア様が淡い光になってログアウトしていきます。
最初は、私とそっくりなリリア様の存在を少し恥ずかしく思っていました。
だって、女神である私は露出の多い服を着てはいけないのに、リリア様は下着が見えちゃうような服を着るし。
あまつさえ、公式の掲示板でその姿を大々的に晒されるし。
さらにさらに、パートナーのスライムを使い続けて習熟度を上げたことで、スラリアちゃんが“模倣”をグレードアップして人間の姿を取ることが可能に。
身体はリリア様の子どもらしい他愛ないものですが、自分の顔のまま裸でいられるのは困りました。
しかし、恥ずかしいという感情は慣れるものですね。
最近では、“ああ、またお尻を出していますよ”と達観できるようになってきています。
それに、リリア様が私とそっくりなことによる恩恵もあって。
先ほどのように、より人間らしい表情を獲得しやすくなったのです。
ちょっとずつ増えていくライブラリを眺めるのが、最近の楽しみですね。
「女神様っ、あのぅ……」
終了フェイズが正常に実行されたことを確認していると、スラリアちゃんが私のもとに、てとてとと歩み寄ってきました。
うーん、この子は常に可愛いですね。
あっ、いえ、私と同じ顔を自画自賛しているわけではなくて。
私には、リリア様を模倣した状態のスラリアちゃんの姿と、スライム状態のスラリアちゃんがぷよぷよと歩み寄ってくる姿の両方が並列して見えているので。
『どうしたの?』
そう聞くと、スラリアちゃんは、左手を私の顔の高さまで持ち上げます。
その手には、可愛い紅い指輪がはめられていました。
リリア様がアロリーロを倒したときに入手した、デモニック・ウェポンです。
ロング・ソードだったので、ナイトのアキラ様の手に渡ると思ったのですが。
最終的には、なんとスラリアちゃんが受け取ることになりました。
使用武器としてのスライムの習熟度も上がっていて、スラリアちゃんが武器の装備までできるようになっていたのは偶然でしょうか。
「私に、この武器の使い方を教えてくれませんか?」
私と同じ、暗めの青みがかった瞳がまっすぐに見つめてきます。
うーん……本来であれば、プレイヤーであるリリア様がログアウトしている間に、スラリアちゃんが強くなるのはズルいでしょう。
特に、テイマーが持つ同調のスキルは、魔物の強さがダイレクトに反映されます。
スラリアちゃんが剣を修練して扱えるようになった場合、同調したリリア様は、なにもしていないにも関わらず剣を上手く扱うことができてしまいます。
「私が弱いせいで、お姉様の物語が続かなくなるのは、嫌なんです……」
スラリアちゃんは、瞳に悔しさを滲ませながら言いました。
ふむ、いまの表情ももらっておくことにしましょう。
ふふっ、スラリアちゃんもエモーションの参考になるんですよ。
さて、スラリアちゃんへの戦闘サポートでしたね。
最近、どうしてかリリア様は戦闘サポートをあんまり受けてくれなくなりましたし。
たまには私も身体を動かしたいものですし。
それに、スラリアちゃんは可愛いので、やぶさかではないのですが。
『スラリアちゃんは、どうしてそんなにリリア様のことが好きなの?』
「えっ?」
どうせだから、調査してみたかったことを聞いてみましょうか。
テイマーの使用武器の習熟度は、ただ戦いを重ねるだけでは上がりません。
使用武器、つまり魔物との信頼関係が重要になってきます。
リリア様は私たちの予想をはるかに上回る速さで、習熟度を5まで上げました。
初期からずっと同じ魔物をパートナーにしていたということと、その魔物が低ランクのスライムであったということ。
もちろん、これらも理由になり得ますが、やはりリリア様のパーソナリティが一番関係しているのでしょう。
「えっと、私がお姉様を好きな理由、ですか……?」
恥ずかしそうにもじもじしながら、スラリアちゃんは聞いてきます。
教えてくれると嬉しいな、と頷いた私を見て、なにかを考えるように目線を宙に浮かばせるスラリアちゃん。
リリア様が好かれる理由がわかれば、他のテイマーへのアドバイスが
「……なにもかも好きですが、強いて挙げるとすると――」
そう言いながら、はにかむスラリアちゃん。
その顔は私と同じなのだけど、なぜかドキッとさせられてしまう。
「――お姉様は、なにかを食べるとき、絶対に私にも分けてくれるんです」
いつの間に模倣が上手くなったのでしょう、スラリアちゃんの表情は先ほどのリリア様の微笑みとまったく同じでした。
『……だから、好きなの?』
「はいっ! あっ、これ、変な理由でしたか? 私、スライムだから、よくわからなくて……」
微笑ましくて見つめていただけなのだけど、スラリアちゃんは心配そうに慌ててしまいます。
なので“変じゃないよ”という意味を込めて、頭をぷにぷにと撫でてあげました。
「……女神様に撫でられると、なんだか安心しますぅ」
くすぐったそうに目を閉じているスラリアちゃんは、なんだか猫みたい。
私のデータベースに格納されている猫にまつわる知識に、ぴったり当てはまります。
『じゃあ、質問にも答えてもらったから、その武器のお稽古をしようかな』
そう言うのを聞いて、スラリアちゃんは満面の笑みを浮かべ。
はいっ、と生徒よろしく答えました。
うん、やる気満々みたいだし、いじめがいがありそう。
私は、スラリアちゃんに気づかれないように、こっそりと微笑むのでした。
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