Tale28:正義は揺らぐ、振りかざすな
私が臆病風に吹かれて逃げ出さないように、シキミさんはこの二人を寄越したのか。
「でも、シキミさんが直接言いに来ればいいのに」
わざわざ伝言でなくとも、直接の方が脅しになるだろうに。
あの笑顔を思い出すだけで、まだちょっと恐いのだから。
「いま顔を見たら殺したくなっちゃうからじゃないかな?」
「えぇ、こわっ……」
あっけらかんと言うチャラ赤髪。
いや、PKは悪いことだと思わないって
変態サイコパスに狙われてるんだよ!?
当事者になったら恐ろしくて仕方ないよ!
「で、どうなの? 出場するの?」
ナンパをするぐらい気軽に聞いてくるが、私に選択肢はないんでしょ?
それに、リリアがいろいろなルールをねじ曲げてまで用意してくれたリベンジの舞台だ。
恐ろしかろうが、逃げ出すつもりなんて元からまったくない。
「もちろん出場する。シキミさんに伝えておいて、首を洗って待ってろって」
この言葉は意外であったのか、チャラ赤髪はきょとんとした顔を浮かべている。
「ふはっ……あっはっはっはっは!」
うわっ、びっくりした……!
いままで黙っていたハゲハンマーが急に笑い出す。
スラリアはそのまるっとした頭をキッチンから持ってきたタワシで磨いていたのだが、突然の奇行にびくっと身体を跳ねさせた。
「ちょっと、なによ? そっちが売ってきたケンカを買っただけでしょ、なにがおかしいの?」
豪快に肩を揺らし続けるハゲハンマーを、私は睨む。
驚かされて悔しいのだろう、スラリアも可愛く睨んでいる。
「いや、小娘、シキミは強いぞ? また痛めつけられて、結果、醜態を晒すだけだと思うが」
「小娘ではなく、リリアよ。それに、私たちは痛めつけられたりしない」
だって、そもそも痛くないからね。
苦笑を止めたハゲハンマーは、私の自信を訝しむように眉間に皺を寄せる。
「この後ろの小娘は、スライムが人型を真似ているのだろう?」
「小娘じゃなくて、スラリアだよ!」
怒ったスラリアがタワシの動きを激しくしたことを気にも留めず、ハゲハンマーは言葉を紡ぐ。
「二対一になって、愚かにも勝機を見つけた気になったか? 弱者たちでも徒党を組めば強くなる、そんな甘い考えで――」
「ねえ、あなた、私を脅しに来たんじゃなくて、偵察しに来たの? そんなに弱者が恐い?」
ハゲハンマーの言葉を遮り、私は語気を荒げた。
何よりもスラリアを馬鹿にすることだけは、許さない。
睨んでくる私を眺めながら、なにやら考えているハゲハンマー。
その視線に、嘲りとか罵りのようなものは感じない。
「ふむ、なるほど……いや、そんなつもりではない、非礼を詫びよう」
頭も下げずに、そんなことを言ってきた。
うーん、態度はでかいけど、別に悪い人ではなさそう。
なんとなくだけど。
「いいから、早くなにか頼んで。他のお客さんもいるんだから」
「スラリア、だったか? 好きなものを頼め」
私の言葉を聞いて、ハゲハンマーがスラリアにメニューを渡した。
不思議そうな顔をしながら、スラリアがそれを受け取る。
「毎回頭を擦られたら敵わないからな」
ああ、別にどうでもいいわけではなかったのね。
お姉様なんでも好きなものを好きなだけ頼んでいいだなんて夢のようなこととはいえ敵からの施しを受けていいのでしょうか、とスラリアが目で聞いてくる。
期待に輝くスラリアの目を、曇らせるわけにはいかない。
「ふふっ、くれるものはもらっておこうか」
そう告げると、スラリアは嬉しそうに笑った。
「わーいっ、おハゲさん、いい人だったんだね!」
ついでに、ハゲハンマーにぎゅっと抱きつく。
ちょっと! 簡単に男の人に抱きついたらダメでしょ?
スラリアに抱きつかれても、眉ひとつ動かさないハゲハンマー。
はぁ!? このハゲ、スラリアにくっつかれてるのにデレデレしないなんてふざけてるの?
「スラリアちゃん! おっ、俺もなにか奢ってあげるよ……?」
チャラ赤髪が下心丸出しの台詞を吐く。
マジで、本当に気持ち悪い。
こいつは悪い人でなくとも、確実に気持ち悪い人だ。
「……おハゲさんがくれるから、いらなーい」
ハゲハンマーの後ろに隠れながら、スラリアは冷たい目でチャラ赤髪を見下す。
うんうん、ちゃんと人を見る目がある。
この子は賢くて良い子だ、誇りに思おう。
「スラリア、おハゲさんの隣で休憩しててね。チャラ赤髪に近づいたらダメだからね」
元気よく返事をするスラリアを置いて、私はお手伝いに戻る。
俺の名前はチャックだよぉ、そんな風に嘆く声が、店内に響くのだった。
私の耳は意図的にそれを聞こえないようにしていたけどね。
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【名前】リリア
【レベル】10
【ジョブ】テイマー
【使用武器】スライム:習熟度5
【ステータス】
物理攻撃:25 物理防御:44
魔力:35 敏捷:15 幸運:25
【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢
知恵の泉、魅了、同調、不器用
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