Tale2:ここははじまりの街です

 ふわっと地面に足を着くと、固い感触が伝わる。

 同時に、行き交う人々の姿が目の前を流れて、人混み特有のざわざわとした喧騒が耳に届いた。


「すごい……」


「ぷにゅ?」


 思わず、私は感嘆の声をあげる。

 石畳の広い道が左右に延びていて、その両サイドには落ち着いたトーンだがカラフルな煉瓦造りの建造物が並んでいる。

 まるで、おとぎの国のようだ。


 私とその胸に抱いたスラリアは、大勢の通行人の邪魔にならないようにするためなのか、道の端に立っていた。

 この人たちは、全員がゲームのプレイヤーなのかな?

 きょろきょろしてみるけれど、私と同じような服装をしている人は見当たらない。


「あのぅ……」


 意を決して、私たちの隣で建物にもたれて立っていたお姉さんに声をかけてみる。


「ん? あらぁ、可愛いスライムね」


「ぷにゅー」


「うふふ……あらっ、よく見たらこっちも可愛い女の子じゃないのっ」


「えっ、えと……」


 お姉さんの、飛びかかってきそうなぐらいに前のめりな勢いに、私は及び腰になってしまう。


「その格好は冒険者ね? まだ駆け出しってところかしら。郊外の村から冒険者ギルドを訪ねるために、はるばるやって来たんでしょ? こんなに可愛らしいのに、ずいぶんと偉いじゃない!」


 うぅ、言われ慣れていない“可愛い”っていう称賛が恥ずかしい。

 リリアに届けるための仲介をしている、そう思い込んでおくことにしよう。


 それよりも、いまお姉さんは冒険者ギルドって言った?

 お茶をくれた男の人も言っていたやつだ。


「あの、冒険者ギルドって……」


「場所がわからないのね? 私が案内してあげるわ、ついてきて」


 私の返事を待たずに、お姉さんは歩きはじめた。


 このお姉さんも、NPCなのかな?

 そのわりには、せっかちすぎないかしら?

 そんなことを考えながら、私はスラリアをぷにゅぷにゅと揺らしつつ、お姉さんの後をついていくのだった。



 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 冒険者ギルドは、街の中心部にあった。

 円形に築かれた街の城壁、その東西南北には城門が造られていて、どこからも等しい距離の位置らしい。

 街の中では、神殿を除けば冒険者ギルドが一番の権力を持っているんだって。

 だから、他の建物よりもはるかに大きな外観なのね。


 ここまで案内してくれたお姉さんは、私のお礼を聞くのもそこそこに、頑張りなよなんて言って去ってしまった。

 

「……せっかちさん、名前も聞けなかったね」


「ぷにゅにゅぅ」


 お姉さんの遠ざかる背中を見ながら、私とスラリアは残念がった。

 まあ、この街を活動の拠点にすれば、また会うこともあるだろう。


「よしっ、スラリア、行こうか?」


「ぷにっ!」


 スラリアの勇ましい雄叫び――雄叫びでいいのかな?――に勇気をもらって、冒険者ギルドの中に足を踏み入れる。

 開けっぱなしの大扉をくぐると、建物に響くことで外よりも喧騒が大きくなった。


「あれ?」


「ぷにゅ?」


 でも、私が入った瞬間、大きくなった喧騒が今度は一気に収まる。

 なに? みんながこっちを見て……なんか、注目されてる?

 やっぱり、リリアな見た目のせい?

 そんなことを思っていると、またがやがやと喧騒が戻ってきた。

 しかし、なんだか視線は感じたままだ。

 気のせいかもしれないけどね。


 できるだけ目立たないように、いくつかある窓口の中で人が並んでいないところに向かう。


「あのぅ……」


「……なんの用だ?」


 おー、強面のおじいちゃんだ。

 頬の大きな傷が、より迫力を出している。

 失礼だけれど、この人の顔が恐すぎて誰も並んでいなかったのではないだろうか。


「冒険者になりたいのですけれど」


「とっとと帰りな。お嬢ちゃんみたいなむすめがなるもんじゃない」


 ぎろりと、おじいちゃんは、その三白眼で私を睨みつける。

 ふむ、顔だけが原因ではなかったみたいだ。


「ぷにゅにゅっ!」


 私が威圧されているのを助けるように、スラリアがぷにぷにと身体を膨らませる。

 いや、嬉しいけど、それ意味あるのかな?


「スライム……? 珍しいな、テイマーか」


「はい、たった1%しか選ばれないテイマーです」


「ぷにゅにゅぷっ」


 私の受け答えを聞いて、おじいちゃんは怪訝な表情を浮かべた。

 あら、NPCには、この種の冗談は伝わらないようだ。


「本当に、ダメですか?」


「ぅっ、いや……ダメだダメだっ!」


 念を押してみると、おじいちゃんは自分に言い聞かせるようにかぶりを振った。

 あれ、なんだかイケそうな感触ね。


 ちなみに、私は恐いおじいちゃん耐性のスキルを持っている。

 母方の祖父が剣道の師範で迫力が常軌を逸していて。

 その祖父に小さい頃から接してきたため、このぐらいのおじいちゃんはむしろ得意だ。


「うーん、困ったなー……」


「ぷにゅっにゅー……」


 そうつぶやきながら、私はチラチラとおじいちゃんに視線を送る。

 スラリア、あなたはやらなくていいのよ?


 おじいちゃんは初めは無視していたが根負けしたのか、大きくため息をくのだった。


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【名前】リリア

【レベル】3

【ジョブ】テイマー

【使用武器】スライム:習熟度2


【ステータス】

物理攻撃:5 物理防御:25 

魔力:20 敏捷:5 幸運:15

【スキル】スライム強化、なつき度強化、勇敢

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