間話70話後 風と雷の結末

「……アイツら、どこに行くつもりだ?」


 竜男との戦闘中、テイマーの男を抱えて、茶白男が走って行くのが見えた。

 まさか、助けに来た仲間を見捨てて逃げるとは思えない。

 ならば、考えられるのは途中までやって来て、警戒して停止している騎士団との合流だ。

 人数を増やせば、どうにかなると考えているなら、まったくの無駄だ。


「まあいい。予定とは違うが、お前を連れ帰った方が組織の利益になる。お前は幸運だ。人類の進化の為の生贄になれるんだからな」

「グゥルルルル!」


 貴重な実験材料を抱えて、追いかけっこをするほど暇じゃない。

 邪魔な虫がワラワラと増える前に、終わらせる事にしよう。

 唸り声を上げている竜男の向かって、金剛鉄アダマンタイトで作られた戦鎚を向けた。


 コイツの潜在能力は十分に観察させてもらった。

 ただの8級冒険者が薬を使って、一日で2級クラスの実力になれたのは大したものだ。

 だが、上には上が存在する。1級になれたとしても勝てない相手はいるものだ。


「ここから先は一方的な支配だ。〝デウス・エクス・ライトニング雷神の召喚〟」


 竜男にそう言ってから、向けていた戦鎚を今度は空に向けて、呪文を詠唱した。

 その瞬間、身体に纏っていた稲妻が地面に飛び散って、草の地面に金色の魔法陣を浮かび上がらせる。

 次に起こる事は分かっているが、何回やっても慣れないものは慣れない。

 すぐに上空から戦鎚の先端に向かって、巨大な落雷が落ちてきた。


「ぐぅおおおおおお!」


 魔法陣の中で落ちた落雷が全身を包み込み球体に変わった。

 その雷球の中で身を焼かれ、血を沸騰させられ、消えた血の代わりに雷の血が流れ始める。

 そして、この激痛を伴う儀式に耐え切れた者だけが、一時ひとときの時間、超越者としての力を振るえる権利が与えられる。


「ヒュゥゥゥ……」

「はぁっ?」


 儀式が終わり雷球から出ると、ゆっくりと七メートル程離れた所に立っている竜男を見た。

 竜男が口を開いて、直径百二十センチ程の強大な風の力を収束させて待っていた。

 竜と時の四倍程の大きさだか、威力は軽く二十倍近くはありそうだ。


「無駄だ。やめておけ」

「グゥオオオオーー‼︎」


 一応は教えてやったのに、確かに無駄だったようだ。

 言葉を理解できない相手に、言葉で教えるのは無駄だ。

 収束させた風の力が一気に解き放たれて、直径百二十センチの風の壁が迫って来た。


 こんなものは避ける必要もない程のそよ風だ。

 右手の手の平を向かって来る風の塊の前に置いて、黒焦げにする事にした。


「〝シュヴァルツシルト黒い盾〟」


 樹木を直線上に百メートルは薙ぎ倒すだろう強力な一撃も、右手が宙に作り出した六角形の盾に触れた瞬間、熱風へと変わって消失していく。


(コイツが暴れるたびに押さえるのは面倒だな。今後の実験の為にも複数のテイマーが必要になりそうだ)


 まぁ、その必要がないように、この状態になった。

 圧倒的な力でキチンと暴力的な躾をすれば、一度の躾で分かるはずだ。

 それは人間でも魔物でも共通して言える事だ。


「グゥロ⁉︎ グゥオオオオーー‼︎」

「だから、無駄だって言ってるだろう」


 黒い盾を構えたまま、風の咆哮に向かって、平然と暴風を押し退けて歩いていく。

 竜男は更に風の咆哮を吐き出し続けて、力比べがしたいようだ。


 悪いが黒い盾を通ってくる風はまったく感じられない。

 左手の戦鎚を軽く振り上げると、まずは竜男の右足を砕く事にした。

 両手足を砕いてやれば、逃げたくても、逃げられなくなるだろう。


「ハァッ!」

「グゥカアアッ!」


 右膝を狙って、軽く戦鎚を振り回した。

 竜男は戦鎚に右膝を砕かれると、風の咆哮を止めて、代わりに叫び声を上げる。

 そして、右足の支えを失った竜男はバランスを崩して、右腕を地面に付くように右横に倒れていく。

 その倒れていく竜男の隙だらけの左肩に、更に戦鎚を振り落とした。


「ヒュッ!」

「ヴゥガアアアアッ~~‼︎」


 竜男は右手を地面に付くと同時に左肩を砕かれて、叫び声を上げながら背中から倒れていく。

 残り二箇所だ。さっさと砕いて、研究所に運ぶとしよう。


「ガァフゥー! ガフゥッ!」

「何を言っているか分からねぇが、安心しろ。俺達の家に着いたらキチンと治してやるからよ」

 

 右肩、左膝を砕き終わると、倒れている竜男は怯え出した。

 言葉は通じないが、人間の姿で人間の顔をしているなら、表情と仕草でだいたい分かる。

 これなら、何とか意思疎通が出来そうだ。

 助けてくれとお願いしなくても、最初から殺すつもりはない。

 戦鎚の先端に雷を集めると、竜男の胸に押し付けた。


「グゥガァッ~~‼︎ ラッ、グゥガガァ~~‼︎」

「どうした? 早く気絶しないと肉が黒焦げになるぞ」

 

 悲鳴は聞き慣れている。気絶させるには、まだまだ威力が足りないようだ。

 少しずつ電撃の威力を上げていく。やり過ぎて心臓が停止しても、また生き返らせる。

 だから、さっさと死ぬか、気絶するか選ぶんだな。


 ♢

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