第46話 死霊骨ブラックナイト

「ふぅー、頑張って倒したんだから、一本も忘れずに回収しないとな」


 屋根の上や地面の上、家の中に白い骨が落ちていないか調べて回る。

 お父さんと対決しているから、拾いながら数えていく。

 合計三百二十六本とやっぱり三百体を超えていた。


「もう生き残りはいないみたいだから、お父さんの手助けにでも行くとするか」


 正確には確実な勝利の為に妨害に行く。

 あと一、二時間もすれば暗くなってくるから、試合終了だ。

 合流場所の荷物を置いた家で、ただ黙って待つよりはいい。


「ん?」


 そう思って移動しようとしていたけど、まだ一体残っていた。


「クッケケ」

「骸骨ナイトか……でも、メチャクチャ汚いな」


 五十メートル程離れた階段の上に真っ黒な骸骨ナイトが立っていた。

 身体の骨だけじゃなく、持っている剣と盾まで黒く汚れている。


 ま、倒せば綺麗な白い骨になるから問題ないと思う。


 両手の爪を最大三十五センチまで伸ばして、ゆっくりと近づいていく。

 骸骨ナイトも右手の剣を回して、ゆっくりと階段を下りて近づいて来る。

 余裕があるようだけど、その剣じゃ、俺の爪牙で覆われた白い手を傷付ける事は出来ない。


「クッケ!」


 距離五メートル程。

 剣の間合いに入ったのか骸骨ナイトが急加速して、心臓を狙って骨剣を突き出してきた。


 悪いけど、トカゲ人間の槍攻撃に比べると少し遅い。

 右手を素早く動かして、向かって来る骨剣の刀身を掴んで、左方向に強引にねじ曲げた。


「ケッ⁉︎」

「終わりだよ」


 骨剣を右手で掴んだまま接近して、左手を腰骨を狙って力尽く突き出した。

 まずは腰骨を掴んで切断して破壊する。下半身とはお別れしてもらう——


「ぐっ!」

「クッケケ!」


 予定だったけど、左手の突きは骨の丸盾によって防がれてしまった。

 少しはやるようだけど、終わりは終わりだ。

 骨剣を掴んだまま離さずに、右足の爪を少しだけ伸ばした。

 こっちは両手両足、四つの武器がある。

 右足を爪牙で覆って強化して、骸骨ナイトの左足のスネを蹴り抜いて破壊する。


「ハァッ!」

「クッケ……ケッ!」


 渾身の力を込めて右足を振り抜いた。

 その蹴りを骸骨ナイトはその場でジャンプして躱すと、そのまま左手に持った骨の丸盾で顔面を横殴りしてきた。


「っう~~!」

「クッケケケ」


 慌てて左手を上げて前腕で受け止めたけど、盾は鈍器だから結構痛い。

 そして、俺の気が少し緩んだ瞬間、骸骨ナイトは右手から骨剣を引き抜いて脱出した。


「ケッケケケケ!」

「舐めやがって。こっちは疲れているだけだってぇーの」


 五メートルぐらいの距離を取って、骸骨ナイトは骨剣を回して様子を見ている。

 自分では平気だと思っていたけど、予想以上に疲労が溜まっていたようだ。


 考えてみたら二日間も歩きっぱなしだったし、三百二十六体も倒したばかりだ。

 お腹も空いてきたし、多少動きが落ちても仕方ない。

 最初の一体目みたいに簡単に倒せないから油断せずに行こう。


(槍みたいに剣か盾のどっちかを奪い取るか? いや、普通に戦った方がいいか)


 作戦が決まった。強敵でもないんだから、普通にパパッと倒してしまおう。


「シャァァ!」


 攻撃を見逃さないように目を見開くと、一気に走って間合いを詰める。

 突進して来る俺に対して、骸骨ナイトが骨剣を振り上げて、左斜めから右下に振り下ろしてきた。

 それを左手の爪で受け止めて、そのまま右手を手刀の形にして頭部を狙って突き出した。


「くぅっ!」

「ケッケッ」

 

 全力で走ってからの突進突きだったけど、また骨の丸盾に防がれた。

 爪の先端が盾の前で止まっている。剣もそうだけど、盾の強度も高い。

 足爪は岩にも切り傷を付けられるのに、盾には傷一つ付いていない。


 でも、素早い連続攻撃を続けていけば、いずれは反応が追い付かなくなるはずだ。

 左手の爪で頭部を横から突き刺そうと素早く振り回した。


「フゥッ!」

「グゥケケ……ケッ!」


 その攻撃を骸骨ナイトが後ろに軽く飛び上がるように回避する。

 そして、そのまま宙に浮いた状態で、左腕の二の腕を狙って骨剣を振り下ろしてきた。


「ぐぅがああ!」


 回避も防御も間に合わなかった。

 刃が二の腕の中央を縦に切り裂いた。

 肉が深く抉れて大量の血が噴き出していく。


「くぅ、ぐぅっ、油断した」


 痛みを堪えて、一旦距離を取る為に高くジャンプして屋根の上に着地した。

 そして、急いで右手の爪を引っ込めると、アイテムポーチから回復薬を出してガブ飲みした。


「ハァ、ハァ、ハァッ……アイツ、異常に運と勘が良いな」

「ケッケケケケ!」


 屋根の上から、こっちを見上げている骸骨ナイトを見た。

 追いかけて来ないようだけど、歯を打ち鳴らして笑っているように見える。

 マグレで当たっただけなのに実力だと思っているみたいだ。


(痛ぁ~、しばらく左腕は使えないよ)


 左腕は骨まで切れてないから、そこまでの重傷じゃない。

 一日あれば治るはずだ。まあ、本当に危ない時は使うけど。


 問題は剣よりも盾が異常に厄介な事だ。

 盾が無ければ、もう二回は倒している。

 何とかして奪いたいけど、片腕だとかなり難しいと思う。


「もしかして、運とか勘とかじゃないんじゃないのか?」


 盾で攻撃を二度も防がれた理由を考えていたら、ある事に気付いてしまった。

 頭部の攻撃も背骨を狙った攻撃も完璧に防がれた。

 理由は簡単だ。そこが急所で破壊されたら困るから、異常に警戒してしまう。

 つまり、それ以外の場所への攻撃は警戒が薄いと思っていい。


 そして、最後にアイツはよくジャンプで攻撃を避けてから攻撃してくる。

 多分、足蹴りは躱されたんじゃなくて攻撃してきただけだ。

 最初は盾、二回目は剣で攻撃してきた。

 ジャンプしたら確実に攻撃が来ると思った方がいい。


(フッフッフッ。お前の攻撃はもう見切った。もう一撃も喰らわない)


 屋根から飛び下りると地面に着地した。

 そして、素早く右手の爪を伸ばすと戦闘準備は終わりだ。

 あとは倒すだけだ。


「待たせたな。すぐに仲間と同じ場所に送ってやる」

「グゥケッ?」


 アイテムポーチを右手で叩きながら、目の前の骸骨ナイトに教えてやった。

 骸骨ナイトは意味が分かってないようだけど、すぐに倒されるから分からなくてもいい。


「行くぜ!」


 気合を入れて全速前進した。相手が反応できない速さで突撃する。

 まずは右腕を大きく後ろに引いて、骸骨ナイトの胸目掛けて突き出した。

 反射的に盾で防御してもいいし、避けてもいい。

 もうお前の動きは見切っている。


「クゥケッ!」


 俺の渾身の突きに対して、骸骨ナイトは丸盾を正面に構えて、骨剣を水平に振り払った。

 防御と攻撃を同時に行なってきた。


 無防備な左側を狙ったみたいだけど、無駄だ。

 右手の突きが盾に防がれたように、俺も左手を剣の軌道上に構えると、強烈な一撃を受け止めた。


「ぐぅぅ! お前の思い通りになると思うなよ!」

「グゥゲェ⁉︎ グゥケケケケッ⁉︎」

「うおおおお!」


 痛む左腕を無視して、骨剣を握り締める力を強めた。

 骸骨ナイトは右腕を振り回して、掴まれた骨剣を引き抜こうとするけど、やらせるはずがない。

 刀身を滑らせるように左手を骨剣の柄近くまで移動させると、至近距離で左足を狙った二度目の右足蹴りを繰り出した。


「ハァッ!」

「ケッ……」


 ほぼ一度目と同じ状況と攻撃に骸骨ナイトは素早く反応した。

 その場でジャンプすると丸盾を振り被った。


(胴体ガラ空き)


 同じ攻撃が通用しないと学習した方がいい。

 振り払った右足が地面に付いた瞬間、右腕と両足に力を入れて、右腕を振り上げた。


「オラッ……ぐぅはぁっ!」「クカァ……グゥゲエエエ!」


 ほぼ同時にガラ空きの頭と股下にお互いの攻撃が炸裂した。

 俺は頭部を丸盾で激しく殴られ、骸骨ナイトは股下から胸部までを爪で切り裂かれた。

 意識が吹き飛びそうになったけど、骨剣を握った左手は離さなかった。


「っう~~~! あぁー、くそぉ……流石にこれは効く」


 頭の中が強烈な痛みと夢でも見ているような朦朧とした感覚で溢れている。

 もしかしたら、殴られたと俺が思っているだけで、実際には無傷かもしれない。

 そんな感じさえしたけど、殴られた右耳を右手の手のひらで触って見ると、しっかりと血が付いていた。


(うん、鼓膜が破けているみたいだ)


 右耳は何も聞こえないけど、怪我の状況は分かった。

 少しずつだけど朦朧としていた身体の感覚が現実に戻ってきた。

 あとはトドメを刺して終わりだ。


「ケッケケ、ケケ」


 胸部から下を失った骸骨ナイトが地面に仰向けに倒れている。

 左手には丸盾を持っているけど、右手には骨剣を持っていなかった。

 攻撃を喰らった時に離してしまったようだ。

 俺の左手はまだしっかりと骨剣の刀身を掴んだままだ。


「まったく俺が疲れてなかったら瞬殺だったからな」

「グゥゲェ、グゥゲェ、グゥガァ!」


 骸骨ナイトの左手を右足で踏ん付けて防御できないようにした。

 これで終わりだ。左足で頭部を何回も踏んで粉々にして倒した。

 骸骨ナイトが煙になって消えていく。

 その間にアイテムポーチから回復薬を取り出してガブ飲みした。


「うぷっ……今日の晩ご飯は要らないかも」


 回復薬四本、一リットルも飲んだ。

 もう何も食べずに今日は明日の朝まで眠りたい。


「んっ? どういう事だ? 死んでないのか?」


 骸骨ナイトの身体は綺麗に消えたのに、地面には剣と盾がそのまま残っている。

 つまりはどこかに本体が残っているという事だ。


「くそぉ……倒したと思ったのに」


 右手の爪を急いで伸ばすと周囲を警戒した。

 隠れているのか、逃げたのか分からない。

 全然気配がしない。右耳が聞こえない所為かもしれない。


(駄目だ。全然襲って来ない。とりあえず剣と盾を持って、家の二階から様子を見るしかない)


 十五分待ったけど、何も起こらなかった。

 肉体に続けて、今度は精神的に消耗させるつもりのようだ。

 だったら下手に逃げるよりは、待ち構える方がいいと判断した。

 骨剣をアイテムポーチに仕舞うと、盾を左手に持って近くの家に避難した。


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