第39話 二度目の従魔契約と10級クエスト

 エイミーの家に到着して、お父さんにまずは入院していた事情を話した。

 そしたら、二人っきりで話したいと言われて、眼鏡と赤髪に二匹の魔物を貸してくれた。

 朝稽古ではないけど、お試し稽古はつけてくれるみたい。


 槍を構えた眼鏡が、同じく槍を構えたトカゲ人間と戦っている。

 盾と棍棒を持った赤髪が、斧を持った巨大熊と戦っている。

 クエスト前に二人が戦闘不能にならない事を祈る事しか出来ない。


「さて、結論から言うと簡単に強くなる方法はない。無謀な策で犠牲者を増やしてどうする?」


 二階の仕事部屋に連れて行かれると、一つしかない机の椅子に座らされた。

 机や本棚だけの質素な部屋だけど、壁に沢山のバッグが掛けられている。

 使わない物はバッグの中に収納されているようだ。


「それは分かっています。でも、俺の責任なんです。それに何もしなくても狙われる可能性があるんです。どんな方法でもいいので、短期間で強くなる方法を教えてください!」


 説得なら、さっき酒場でされたばかりだ。

 もう何を言われても決意は変わらない。

 目の前に立つ無表情なお父さんに頭を下げてお願いした。


「どんな方法でもか……言うのは簡単だが、それが出来る人間は少ない。元々、努力の積み重ねが出来ない人間は強くなれない」

「次からはそうします。そこを何とかお願いします!」


 今は時間がないので、お説教はいいです。

 お父さんに頭をもう一度下げてお願いした。


「簡単な方法か……一つだけある」

「本当ですか⁉︎ どんな方法ですか?」


 やっぱりあった! 勿体振らずに早く教えてほしい。


「ルディはエイミーと従魔契約を結んでいる状態だ。つまりエイミーが強くなれば、ルディも強くなる」

「つまり、エイミーを鍛えれば、俺も強くなるんですね?」

「そこまで期待するような大きな変化はないぞ。少なくとも一人でやるよりは、早く強くなれるというだけだ」

「そうですか……」

 

 話を聞いた感じ、一日で何倍も強くなれる方法じゃないみたいだ。

 それに簡単な方法だと言われたけど、思っていたような方法じゃなかった。

 なんか地道に頑張る感じがするし、いつも通りにクエストをやれと言われている気がする。

 結局、最初にお父さんが言ったように、簡単に強くなる方法はないという事かもしれない。


「ルディ、強くなる気があるのなら、まずはエイミーの従魔に戻れ」

「エイミーの従魔にですか?」

「ああ、そうだ。一緒にクエストを受けて、エイミーを8級に昇級させる。その後は四人でクエストをやればいい」

「えっーと、そんな事が出来るんですか? 俺、人間で8級ですよ?」

「問題ない。チャロの方の冒険者カードは、まだ10級のままだ」


 別の方法がないかと考えていたら、お父さんが具体的な方法を教えてきた。

 何だか受付女性から聞いたような不正方法に聞こえるけど、手段は選んでいられない。


「分かりました。エイミーにお願いしてみます!」

「ああ、それと俺とも従魔契約をしてもらう。そうすれば、5級クエストに連れて行く事が出来るからな」

「へぇっ?」


 椅子から立ち上がって、エイミーの部屋に行こうとした。

 でも、それをお父さんに肩を掴まれて止められてしまった。


「力を抜いて、受け入れろ。そしたら、すぐに終わる」

「えっ、ちょっと、お父さん? やるとは言ってませんけど? ちょっと苦しんですけど?」


 首を腕でしっかりと締め付けられて、逃げられないようにされた。

 従魔契約とは契約中に酷い激痛が伴う。

 エイミーとの契約では、胸に抱かれて、オデコキスをされていた。

 お父さんにそれは絶対にやってほしくないけど、出来れば優しくお願いします。


「ああぁぁぁぁ~~‼︎」


 駄目だった。痛いものは痛い。

 暴れながらも、無理矢理に契約させられた。

 痛みと引き換えに強くはなれたけど、人として大切なものを失った気がした。


 ♢


「ルディ、じゃなかった。チャロ、行くよ」

「うん。でも、本当によかったの?」


 ゴツゴツした荒い岩洞窟の中を盾とランプを構えて、エイミーは進んでいく。

 場所は街から近い山の中の天然洞窟だ。

 内部は枝分かれした縦横二メートル程の楕円形の道が続いている。


「ちょうど用事があったから、別にいいよ。チャロは見ているだけでいいから」

「うん。頑張ってね」


 誘拐された友達を助ける為だとお願いしたら、何とか協力してくれた。

 現在、二人で10級クエストの岩齧り栗鼠という魔物を倒しに来ている。

 クエストの内容は、岩リスが落とす鉱石集めだが、実際はエイミーは従魔契約に来ている。

 だから、岩リスを見つけ次第、俺に倒されたら困ってしまう。


 テイマーの能力は、基本的に魔物の強さによって、契約できる数が変わるらしい。

 エイミーの実力なら、岩リス十五匹ぐらいと契約できるらしい。

 現在、俺と契約しているから、その余裕があるのか分からないけど、挑戦中だと言っている。


(普通のリスじゃないと駄目なのだろうか?)


 クエスト証明書の説明では、岩リスの体毛は硬いらしい。

 絶対に触り心地は良くない。

 その辺の森にいるリスを捕まえて来るから、それで我慢してほしい。

 岩リスは盾で殴って倒して、さっさと9級に昇級してもらいたい。


「ピヨヨヨ。ピヨヨヨ」

「しぃー。ルディ、静かにしてね」

「うん」


 小鳥のような鳴き声が聞こえてきた。

 エイミーはエプロンから丸いクッキーを取り出して、鳴き声に近づいていく。

 余程集中しているのか、チャロとは言わなかった。


(どうして、女の子はあんなの飼いたいんだ? あんなのネズミと一緒だろ?)


 エイミーに直接言ったら、盾で殴られてしまう。

 俺の目には、体長二十五センチの黒っぽい身体の岩リスが見えている。

 身体の体毛は短く、丸まった太い尻尾はフサフサしている。

 でも、尻尾を隠して見れば、ネズミと一緒にしか見えない。


「ほらほら、美味しいよ!」

「キュル! ピヨヨヨ?」


 岩リスはエイミーが放り投げたクッキーに一瞬驚いて逃げた。

 でも、しばらくすると、恐る恐る戻って来た。

 そして、地面に落ちているクッキーの匂いを嗅ぎ始めた。


(あっ! 食べた!)


 クッキーを岩リスは齧りまくっている。

 やっぱりネズミと一緒で雑食だ。農家の敵だ。

 檻に捕まったネズミは容赦なく水責めの刑で処刑される。

 

「ほらほら、まだまだあるよ」

「キュルキュル!」


 まだ一枚目を食べている途中だけど、エイミーは二枚目のクッキーを見せながら近づいていく。

 岩リスは一枚目を地面に落として、エイミーに近づいていく。

 村のネズミの方がまだ警戒心は強い。


「捕まえた!」

「キュー⁉︎ キュー⁉︎」


 あぁーあ、予想通りに食い意地の張った岩リスは捕獲されてしまった。

 背中を押さえ付けられて、地面にうつ伏せに倒されている。

 ジタバタと暴れているけど、力の差は明らかだ。


「痛くないから、楽にしててね」

「キュー、キュー!」


 それが嘘なのは、昨日のお父さんとの契約で知っている。

 エイミーは岩リスと従魔契約しようとしているみたいだ。

 岩リスが痛い、痛いと鳴いているように聞こえる。


 契約が成功すれば、大人しくなり、契約が成功しなければ、いつまでも暴れ続ける。

 とりあえず見ているだけでいいけど、三分過ぎても暴れ続けている時は、ほぼ失敗だ。

 その時は次を探した方がいいと、エイミーが教えてくれた。


(無理そうだ)


 三分経過したのでエイミーには悪いけど、岩リスを倒した方がいいと思う。

 自分で出来ないようなら、俺が代わりにやるしかない。

 出来れば、自分で倒してもらって、強くなってほしいけど、流石にそれは酷だ。


 そう思って近づいていく。

 でも、余計なお世話だったみたいだ。

 突然、エイミーが声を上げて、立ち上がった。


「もう疲れた! 限界! テヤッ!」

「キュー!」

「えっ?」


 そして、岩リスを右手に掴んだまま、岩壁に激しく投げつけた。

 岩リスは壁に激突して、地面に落ちて、グッタリと大人しくなった。

 多分、契約成功ではないと思う。


「時間がないから、力尽くで契約しないと」


 そう言って、エイミーは地面の上で痙攣している岩リスを持ち上げて抱き締めた。

 気絶している相手や瀕死の相手だと契約しやすいのかもしれない。

 岩リスは全然暴れていない。むしろ、暴れる力は残っていない。


 一分後——


「ふぅー、何とか契約できたみたい。早く回復薬を飲ませないと」

「えっ? エイミー、契約できたの?」

「うん、出来たよ」


 あれを契約と言っていいのか分からないけど、契約できたみたいだ。

 どう見ても半殺しにして、意識の無い相手に無理やり契約行為をしたようにしか見えない。

 魔物が人間だったら、強制契約罪で逮捕されそうだ。


「そうなんだ……おめでとう」


 それでも、契約できたのは事実だ。

 素直に祝福した。


「ありがとう。意識を取り戻したら暴れるから、チャロが持っていて。私はクエストをやらないといけないから」

「うん、持っていればいいんだね」


 回復薬と呼ばれる緑色の薬草ドリンクを飲まされた岩リスを渡された。

 笑顔で受け取ったけど、エイミーが後ろを向いた瞬間に笑みを消した。

 アイテムポーチに布袋があるから、そこに入れておこう。

 手袋越しでも、ネズミを触り続けるなんて嫌だ。


 ♢

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る