第1期β終了
完全に手詰まりだ。
ゴエモンさんの話では、4層で倒されたプレイヤーは、誰も自分を倒した敵の姿を見ていない。
何かしらのトラップかと思ったが、倒される場所はランダムだ。
レベル5の索敵スキルにも反応がなかったと言う。
俺の索敵スキルはレベル3なので、お話にならない。
「魔法で倒されたのか、武器で斬られたのか分からないんですか?」
「魔法を食らった感触も、斬られた衝撃もない」
「行ってみるしかないですね」
「ああ、頼りにしてる」
ダンジョンの入口の魔法陣に乗ると、現在攻略が進行中の階層まではワープ出来る。
現在4層の攻略中なので、1〜4階の任意の階層に移動できると言う事だ。
今回は臨時でゴエモンさんのパーティに参加した。
臨時パーティの場合は、プレイヤーハウスには影響が出ない。
俺達のホームもゴエモンさんのホームも広くなる訳ではない。
メンバーは、ゴエモンさん、アステリアさん、凛、俺の4人だ。
マップに従い奥に進む。
ゴエモンさんが先頭で、凛とアステリアさんを挟むように俺が殿(しんがり)についた。
途中でエンカウントする敵は、オークとリーパーだった。
オークは、身長2mを超える大型の魔物で、力任せに攻撃してくる。
棍棒を持った日本の鬼に似たヤツも混じっている。
リーパーは、それ程大きくない。
脚はないが、上半身の大きさから推測して、身長換算で170cm位だろう。
フード付きの黒いマントを頭からすっぽり被っている。
フードの下の顔は、骸骨のそれだ。
大きな鎌を振り回して攻撃してくる。
オークもリーパーも、強くはない。
索敵にも引っ掛かるので、脅威にはならない。
サクサク倒して先に進む。
「鬼やらリーパーやら、ここってギリシャ神話の冥府って訳じゃないですね」
「単純にあの世ってイメージなんだろうな」
(えっ!?)
ゴエモンさんと話していると、身体が落下して行くような感覚に襲われた。
その感覚は直ぐに収まったが、気付くとアムダスのホームにいた。
直ぐに凛もポップして来る。
「る、流生?」
「凛もか?」
「私達、倒されちゃったの?」
「そうみたいだ。ダンジョンに入る前にログインし直してなかったから、戻って来ちまった」
「仕方ないよ。あの2人、急かすんだもん」
「急いで戻る事もないな。少し考えよう」
「そうだね」
リビングのソファに座り、何があったのか思い出してみる。
予想通り探索スキルに反応はなかった。
攻撃を受けた実感もない。
即死系のスキルか?
いくら考えても分からない。
凛が飲み物を用意して、俺の横に座ろうとした。
『カリンちゃん、2人きりなんだから、彼氏さんの膝に座って良いんですよ』
ウィンディは、相変わらずだ。
「流生、良い?」
凛は随分、ウィンディに流されやすくなったな。
そんな上目遣いで言われたら、断れないだろ。
「良いよ、おいで」
「えへへ」
凛が嬉しそうに、膝の上に座った。
暫く凛と寛いでいると、ゴエモンさんからメッセージが来た。
臨時パーティを組んでいるので、メッセージのやり取りが出来るようになっている。
『何処にいる?』
「ヤられて、アムダスのホームまで飛ばされました」
『早く戻って来い』
「戻るまでに即死回避のスキルかアイテム持ってる人、探してくれませんか?」
『分かった、探してみる』
メッセージのやり取りをしている間中、凛が頬を突いたり耳を擽ったり戯れついていた。
「ゴエモンさんなんだって?」
「戻って来いってさ」
「行く?」
「その前に、あの杖装備して見て」
「分かった」
凛がアスクレピオスの杖を装備した。
「何か魔法増えてない?出来れば、バフが掛かるやつ」
「コクーンて言うのがある」
「繭か、防御力アップか?」
「1回だけ物理攻撃を完全防御だって」
「よし、それで試そう。行こうか」
「お出かけの前に…、ね、して…」
凛がクルリと向きを変え、膝の上で俺と向き合う。
「…ん」
目を閉じて、顔を上げる。
俺は指で凛の顎を軽く持ち上げ、唇を重ねた。
「ぁむ、ちゅ♡」
顔を離すと、凛がへにゃりと相好を崩す。
「夕べと同じ感触だ。流生はどう?」
「ああ、同じだ。ちゃんと覚えてたよ」
『彼氏さん、やりますね。カリンちゃん、顎クイはどうでした?』
またウィンディが割り込んで来た。
「幸せ〜♡」
『もうカリンちゃん、デレデレですね♪』
「ほら、ふざけてないで行くぞ」
「は〜い」
再び、馬を2人乗りしてデュッヘルンに向かう。
今度は凛が後ろに乗り、背中から抱きついている。
これだとスピードも上げられる。
デュッヘルンには直ぐに着いた。
広場でゴエモンさんが手招きしている。
「すいません。遅くなりました」
「随分ゆっくりだったな」
「それより、即死回避持ってる人いました?」
「いなかったよ」
ゴエモンさんが聞いて回ってくれたようだが、見つからなかった。
「ダンジョンで調べてない宝箱とかにないですかね?」
「持ってても隠してるヤツがいるかも知れないしな」
「ケルベロス倒したら、ドロップしないかな?」
「その可能性もあるけど、即死回避のアイテムがあるとは限らねぇからな」
「それもそうですね。取り敢えず凛に魔法をかけて貰って、行ってみましょう」
俺達は一度ログインし直した後、凛にコクーンを掛けてもらい、転移の魔法陣に乗った。
第4層を進みながら、コクーンの効果を説明する。
「まあ、相手の攻撃が魔法かスキルなら、これも空振りなんですけどね」
「仮に1回防いでも、その後戦って勝てるかも怪しいな?」
「まずは攻撃の正体を見極める事です」
「確かに、そこからだな」
いきなり倒される他は、厄介な敵はいなさそうだ。
途中の小部屋等を確認しながら、奥に進んで行く。
そろそろ、マッピングが進んでないエリアに出る。
キィィン
俺の頭上で、金属がぶつかり合うような音がした。
背後から、襲われたようだ。
コクーンが砕け散った。
振り向いたが、何もいない。
目の前に、緑色の糸のような物が舞った。
(俺の髪か?)
直後、落下する感覚に襲われる。
(またヤられたのか?)
ログインし直した広場にリスポーンした。
立て続けに他の3人もポップして来る。
「ルイス、見えたか?」
「いえ、髪の毛を斬られた事しか分からなかったですね」
「2人はどうだ?」
「私も流生と同じです。ヤられる前に髪の毛が落ちて行くのが見えました」
「私も同じよ。相手は見えなかったわ」
「全員髪の毛を斬られただけか?」
ゴエモンさんが考え込んでいる。
剣で髪の毛を切るのって、やっぱりタナトスだよな。
「ゴエモンさん、このダンジョン、やっぱり部分的には冥府をなぞってますよ」
「何か分かったのか?」
「俺達のを倒したのはタナトスですよ」
「タナトスって死神だっけか?」
「そうです。死期の近い人間の髪の毛を剣で一房切って、ハデスに届けるんです」
「それが即死攻撃か?」
「多分」
「それが分かった所で、相手が見えなきゃ戦えないだろ?」
「戦わなくて良いんじゃないですか?髪の毛を切られなきゃ良いんなら、やりようは有ります」
「…おまえ、まさか」
「はい、みんなスキンヘッドにしちゃえば良いんですよ。凛やアステリアさんは試しにローブのフード被ってみましょう」
ゴエモンさんの呼び掛けで、多くのプレイヤーが広場に集まった。
俺の説明を聞き、後衛の魔法使いは、全員フードを被っている。
前衛でもタンクは、鎧に付属する兜を被り対策している。
そして、剣士や槍使い等のダメージディーラーは、……全員スキンヘッドだ。
「……」
アステリアさんが、声にならない笑い声で、ゴエモンさんをバシバシ叩いている。
「お前、笑いすぎだ!」
「…ププッ、似合う、ゴエモン超似合うよ、ププッ」
「ルイスだって、スキンヘッドだろ?!」
「ルイ君は可愛いじゃん。イケメンって得だよね。カリンちゃんも、そう思うでしょ?」
「はい、てるてる坊主みたいで可愛です」
「「……」」
他の場所でも、アバターをスキンヘッドにしたプレイヤーが揶揄われている。
「ルイス、これで効果なかったら、分かってんだろうな?」
「真っパで、吊るすからな!」
「……」
(真っパにされても、モザイクが掛かると思うが…)
3日後、スキンヘッド部隊はマッピングを終え、4層のボスに辿り着いた。
しかし、ボスを倒す事は出来なかった。
第4層のボスが、ダンジョンボスのハデスだったからだ。
第1期βは、一つもダンジョンを攻略出来ずに終了した。
敗因はレベル不足。
火力も防御力も全く足りなかった。
第2期βでの再会を約束し、廃人達は去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます