62 師匠と弟子
「では弟子よ、あれから成長したところ見せてくれ」
怒涛のごとく過ぎた伯爵との面会から数日後。俺はアイヴィーと共に訓練場へとセプティムから呼び出しを受けた。ちなみに暇だという理由でアドリアとトニーも同行している。
訓練場にはセプティムが一人で待っており、訓練用の刃を落とした
「は、はい」
アイヴィーが緊張した面持ちで
「あのセプティムってオジ様……素敵ですわね……」
アドリアがセプティムの顔を見て、蕩けそうな顔をしている。心なしか少し頬も赤いようだ。
「なんというか……独特の迫力がありますな」
トニーがセプティムを見て、そう評する。そうだろうなあ……昨日解放された後に部屋に戻ったけど、俺少し漏らしてたもん。あれだけの圧力は過去感じなかった。8歳の頃に
セプティムはニコリとアイヴィーに笑いかけると彼女の武器に合わせて
「打ち込んでいいぞ」
「たあああっ!」
アイヴィーが裂帛の気合と共に踏み込み、突きを繰り出す。その突きを紙一重で交わすと、
「もう少し前に脚を出せ、踏み込みが少し足りない」
「は、はい!」
「いやああああっ!」
アイヴィーが体勢を整え、再び突きを繰り出した。先程と違い、体重の乗った一撃。しかしその一撃もセプティムは
「うん、いい踏み込みだ。先程の様子だと突ききれない時があったろう? 腕の力だけでなく、自らの体重を乗せて突く」
そうだったな……
セプティムによる剣術指導はそれからも続いた。とにかく無駄がないというか……セプティムの剣術は完全に人を殺すために最適化されている、と感じる。はっきりいえば貴族が習うような剣ではないかもしれない。相手の動きを止めるにはどうすればいいのか? 相手の脚を切るための動作、剣を引くタイミングで手首を切る動作、など最小限の動きで致命傷となる一撃を与えるのか? ということを話している。
アイヴィーはそれでも真剣に、そしてどことなく楽しそうにセプティムに学んでいる。少しキラキラした様子があって、ああ、本当にこの子は剣術が好きなのだな、と思った。なんていうかスポーツに打ち込んでいる人のする顔に近いかな。
「この辺でいいだろう」
「あ、ありがとう……ございます」
息を切らせて倒れ込むアイヴィー、そしてそれとは対照的に息も切らさずに、アイヴィーへと水筒を渡すセプティム。役者が違いすぎるのかもしれない。
「よく鍛錬している。君はいい剣士だよ」
優しい笑顔でアイヴィーの頭を撫でるセプティム。少し顔を赤らめて嬉しそうに微笑むアイヴィー。そしてその行動を見てアドリアが何故か悶えている。
「ああああ……素敵なオジ様に私も撫で撫でされてみたい……」
だめだこいつ早くなんとかしないと。
セプティムとアイヴィーがこちらに戻ってくる。
ひたすらに悶えているアドリアは、まあ放置しておくとして、このタイミングでセプティムがアイヴィーに稽古をつけている、というのはどういう理由なんだろうか?気になったので聞いてみることにした。
「セプティムさん、このタイミングでなぜ稽古なんですか?」
「ん? ……まあ虫のしらせ……かな。それと成長を見たかった」
セプティムは水を飲みながら、俺の疑問に答える。そして何か思うところがあるのか、俺に向き直って話し始めた。
「この先どういうことがあるかわからないし、僕は帝国貴族としての役目もあるからね。弟子が可愛いと言ってもついていくことは難しいんだ。だから自分と仲間の安全を守るために……戦うための術を教えているつもりだ」
そうだ、と急に思い出したようにセプティムが自分の荷物をまとめている場所へと向かい……箱を一つ持ってきた。黒塗りの箱で、金縁の装飾が縁取られている見た目にも美術的価値の高そうな箱だ。そしてその箱をアイヴィーへと手渡す。
「アイヴィー、君にこれを渡そう」
アイヴィーが箱を床におき、ロックを外して蓋を開けると……そこには一振りの
「こ、これは……」
美しい銀の刀身、そして手の甲を覆う
「ミスリル鋼で作られた
アイヴィーが
「恐ろしく軽いですね……」
「ああ、軽いが恐ろしく切れるし、
アイヴィーが
「
セプティムはニコニコ笑ってアイヴィーの肩に手を置く。
「弟子の門出……いや? 若い二人の門出への餞別……かな?」
その言葉にアイヴィーが顔を真っ赤にして目に涙を浮かべてうずくまる。ふふ、と悪戯っぽく笑ってセプティムはアイヴィーを優しく抱き寄せる。その行動にアドリアの妄想脳が耐えきれなかったようで、はふん! と嬌声をあげてぶっ倒れる。
「無理をしてはいけないよ、アイヴィー。たまには顔を見せにおいで」
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