58 下水道に潜む魔物 05
「あ、あのアイヴィーさん?まだ怒ってます?」
「怒ってる」
「で、ですよねえ……でも、そろそろ機嫌直して欲しいなって」
「やだ」
下水道からの帰路、アイヴィーはとても機嫌が悪く、俺はずーっと機嫌を取るために話しかけていた。泣き止んだ後、アイヴィーは本当に怒っていて、今も俺の前を歩いているのだった。ただ、ずーっと手を繋いでいるので、彼女なりに気は使っているのだろう。
「クリフ、私今本当に怒ってるの。だから黙ってて」
「は、はい、すいません……」
これは取り付くしまがないな……諦めて
今まで何度もこの魔法を完成させようと試行錯誤してきた。
が、今まで一回も成功しなかった。当初この魔法が人間には扱えないのかとも考えたが、そもそも魔法と魔力の関係を考えると
魂がこの世界の住人ではない俺からするとそんな区別は無意味だとさえ思う。アルピナが使った
なので研究と勉強を進めた今では
とはいえ今まで成功しなかった
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仕様の模倣か……企画職をしていると、他で有効だった仕様を自分たちのものにするべく、模倣をするケースが多々ある。人によっては「模倣を続けることでそのうちオリジナルにつながる」と考えている人もいるくらいで、まずは他のゲームアプリの仕様を勉強したりするケースもあるからだ。その能力がここで発動した、と考えるべきだろう。
「散々模倣はしていたものなあ……辛かったな……」
さすがに独り言が漏れる。前世の記憶でもひたすらに他のゲームを調べて仕様に落とし込むという作業をやったことがあるが、あの時間がとても辛かったのを覚えている。
そして一番大事なこと
アイヴィーの反応は実はこの世界ではデフォルトの反応だ。というか俺のように敵の魔法を再現できないか、などと考えるのは相当にヤバい思想なのだ。アイヴィーとの距離が近くなってすっかり油断していた、としか言いようがない。
とりあえず取り繕って機嫌を直してもらおう。
「アイヴィーさん、僕間違ってました。アイヴィーさんを不安にさせた僕が馬鹿でした」
「……絶対そう思ってないでしょ。見た目がカッコいいとかでまたやるでしょ」
あ、バレてますねこれ。でもなあ、黒い槍が高速で飛んで敵を貫くなんて厨二心満載じゃん、しかも威力は見た目通りに高いし。また使っちゃうだろうなあ。
「私は理解したわ、でも他の人はそう思わないわよ。その時どうするの?」
アイヴィーが振り向いて俺の顔をじっと見る。泣き腫らして少し目が赤い。
「そ、そうですね……古代の遺跡で見つけた魔法、ということにしておこうかな……」
「まあ、そういう言い訳が必要ね……わかった。まずはそれでいいわ」
アイヴィーがため息をつく。あ、許してもらえるかな。彼女は俺に向き直り、目をじっと見て話し始める。
「私はあなたが何をしようとしても信じるわ。でも他の人は絶対そう思わない。さっきの私みたいな反応は、この先ずーっとされるわよ。それでもいいの?」
「ま、まあ正直に言えば辛いよ」
「なら……なぜやめないの?」
「俺がしたいからかな。知識だけじゃなく実践できることは全部やっていきたい」
気恥ずかしい気持ちもあるが、やれることを全てやり切る、というのは必要だと思う。
「やらずに後悔するよりもやって後悔する方が全然マシなんだ。やりきれないことを残してしまうのは……もったいないじゃないか」
これは俺の前世のこともあるんだ、と思う。もっと色々やりたかった、やれることがあった、やらずに終わったことがあった。それはずーっと心残りになっている。もうやりきれないのだ、と思うと切ない気分になるのだ。
「……わかった」
アイヴィーが少し考えたあと、俺に向かって真剣な顔で向き直る。ものすごく真摯な目だ。正直眩しい。
「クリフ、何があってもあなたのことは私が守るわ。だから……私のことも信じて欲しい」
俺は本当の意味で頼れる仲間を見つけたのかもな……真剣な目のアイヴィーを見つめつつ、少し嬉しい気分になった。手を握って笑いかけると少し照れた表情の彼女。
「ありがとう、理解してくれる仲間ができて俺嬉しいよ」
「そ、それは私がクリフのこと、一番理解してるからね」
恥ずかしそうに目を逸らすアイヴィー……可愛いな、と思った俺は衝動に逆らわずにアイヴィーの腰を引き寄せた。
「え? ちょ……いきなり」
いきなりの行動に顔を真っ赤にしてアイヴィーが慌てる。でも俺は素直に行動することにした。だってこの間お預けになっちゃったんだもん。
「大好きだよ、アイヴィー」
そのまま顔を近づけちょっと強引に唇を奪う。抵抗するのかと思ったが俺の意図を理解して、アイヴィーは抵抗なく俺を受け入れた。背中にアイヴィーの細い腕が絡む。
唇が離れた後、アイヴィーはじっと俺の目を見つめたままつぶやいた。
「……私も大好き……」
もう一度俺たちはお互いの気持ちを確認するように、深く口付けをした。
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