46 神と混沌はチェスボードを見て咲う
目を開くとそこは暗い空間だった。
「ここは……」
この空間に見覚えがある。ただ昔と違うのは今俺は椅子に座っていること。そして目の前に誰も座っていない椅子があること。
「七年ぶりですね、元気でしたか?」
声が空間に響くが、目の前の椅子には誰もいない。
「ああ……あんたか」
この声には聞き覚えがある。転生前から聞いている声だ。
「かなり久しぶりだな、どうしてた?」
「私も暇ではないんですよ。クリフさん……いえ前の名前の方がいいですか?※※さん」
「今の俺にその名前は意味ないよ、クリフでいい」
そう、もう俺の名前はクリフ・ネヴィルでいいんだ。前世の名前なんか何も意味がない。
「ま、そうですね。意味はないですね」
声は満足そうに笑うが、俺はなぜか不快な気分になる。
「ところで今回はなんだ?」
不快さを押し隠して俺は質問をぶつける。
そう、あの後七年間一度もこの夢は見なかった。あの後死にそうになったこともあるが、その後でもこの夢には来れなかった。条件が謎すぎる。
「私の用事がようやく片付きましてね、会いに来たんですよ。もしかして私のことが気になっていました?」
茶化すような含み笑いをしつつ声が応える。用事が終わったってなんのことなんだろう?
「用事? 何をしていたんだ?」
それは秘密です、と声が応える。そう簡単には教えてくれないってことか。しかし何年もかかるような用事って……。
「神様というのは忙しいものなのですよ、それはもう気が遠くなるほど長い時間をかけてね」
俺の思考を読んだように声が語る。神、神だっていうのかこの声が。というか喋る意味ないな、頭で考えたものを聞かれるのであれば……。
「はい、あなた方の認識ではそのようなものになるのですよ、だって人を転生させるなんて普通の人にはできないじゃないですか」
まあその答えに納得はするけど、神様ってもっとこう重厚な感じの存在であってほしい、この世界の人みんなそう思ってるよ。
「そういうのは別の担当がいるんですよ、もう結構前に死んじゃってますけどね」
ちょっと今とんでもないこと言ってませんか? 神が死ぬ? というか死んでる? そこら辺を詳しく知りたい。
「ダメですよ、そういうのは自分で調べないと。ゲームでも攻略サイト見るよりも、自分の力で攻略して行った方が達成感高いじゃないですか」
まあ、そうだな。ゲームを提供する側としては攻略サイトに頼りっきりになってほしくないと思ってたからな。否定はしないし、需要があるからこそのそういった攻略情報だと思う。
おほん、と声が咳払いをしてから続く。
「さて、今回ここに来ていただいたのは、あなたに教えることがあるからです」
そうなの? さっき自分で攻略しろって言ったばっかりじゃない。
「いや、詳しくは教える気はないですよ、あくまでもヒントとか私が望む方向に進んで欲しいので、アドバイスをしたかったんですよ」
私が望む方向? それを聞かないとどうなるんだ? 世界が滅びる……とか?
「そうですね、バタフライ効果ってご存知ですか?」
バタフライ効果?
わずかな変化を与えると、そのわずかな変化が無かった場合とは、その後の状態が大きく異なってしまうという現象だったのか。
「そうです、そうです。蝶の羽ばたきがその後遠くの気象に影響を与えるのかどうか?という理論です。この世界の理は非常に繊細です。とはいえ実際に蝶の羽ばたきが影響を与えることはないですね」
声が楽しそうに続く。
「私が今回お呼びした理由は、本来の流れとは違う流れになった場合、その影響はどの程度のものになるのか?という話において、あなたは不確定要素としては大きい影響を与えている、という事実をお伝えするためです」
俺が大きな影響を与えている? 普通に生きているだけだぞ。
「ちょっと前のお話をしましょう。あなたは八歳の時に
アルピナを俺が倒したことで、流れが変わったというのか?
「はい。その助かった命はその後の流れにおいて分岐点となりました。その影響によって大きくその後の流れが変わりました。この世界は大きく変化したのです」
誰のことを言っているのだろう? セプティムやベアトリス? それともジャジャースルンドか? その流れが影響している人物がいるってことか。
「それに気がついた
ちょっと待ってください、
どういうことだ? 混沌は世界を滅ぼす、世界の滲みと習った。それが修正を試みるって意味がわからない。
目の前にチェス盤が音もなく現れる。
「ゲームです、これはゲームなのです。
ふふふ、と声が笑う。
「ゲームの選択肢はあなた自身が決めてください。私は直接盤面に干渉できないので、貴方を使徒として使っています」
ちょっと待て答えになっていない。使徒?使徒って何? というか全然意味がわからない、攻略情報教えてくれるんじゃないのか。
全然わからなーい! と叫んでみるも何も返事は返ってこない。
「お友達が呼んでいますよ、早く目を覚ましてあげてくださいね。私は……次が楽しみです」
声が笑うと、急に浮遊感を感じてどんどん落下していく感覚になり……急速に意識が覚醒していく。
「……フ! ……クリフ! 起きて大変なの!」
目を開けるとアイヴィーが俺の体を揺すっていた。眠さを堪えて周りを見ると俺の寮の部屋だった。
ってなんでこの子は俺の部屋にいるんだ。
「え? あ……アイヴィーが俺の部屋に?……俺たちもうそんな関係だったっけ?」
その言葉にアイヴィーは一瞬戸惑うが、すぐに言葉の意味を理解して顔を赤くして怒鳴る。
「ちょっと! あんたと私がどういう関係……って今はそんなこと言ってる場合じゃないの!」
えー、やっぱそうだよね。うんうん……って何かあったのだろうか。
「何があったの?」
「大学構内に謎の化け物が出現したのよ!」
なんだってー! とそこで初めて、窓の外が騒然となっていることに気がついた。
「だから早く起きて! 大学を守るために戦わないと!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます