38 プランナー・イン・ザ・ダンジョンズ06

「そろそろ時間だろうなあ」


 迷宮ダンジョン探索も最終日となった。

 いまいち時間の感覚が薄いが、計算上は設定された期限の時間が近いはず。


 最終日に入って、他のチームの妨害行動が激化するかと思ったのだが、運よく遭遇することはなくどちらかというと配置されていた魔物との戦いがメインとなった。

 こうなってくると、冒険者としての知識をフル活用した俺の作戦が見事に的中し、危ない場面はなくせる。

 多少思い通りにいかない場面もあったが、そういったところでもチームが連携して破綻を防いでいった、という図式だ。


「無事終わりそうですね〜」

 アドリアが安心したように笑う。この五日間でアドリアは相当な数の治癒魔法、防御魔法を使用した、と話していた。

 この世界の魔法は使えば使うほど効率化をしていくので、イベント後半ではかなり速度が速くなっていた、と思う。

 トニーもその言葉に頷く。

「私は筋肉の育成も進めておりましたからな、見てくださいこの上腕二頭筋を」

 グイッとトニーがポージングを決める。トニーは直接戦闘能力はさほどでもないが、支援魔法の多彩さが目立った。

 下手な冒険者よりも質の高い支援魔法を使用できるというのは素晴らしい。ただ、そのポージングはやめろ。


「私も剣の修行と魔法の勉強もできたわ。ありがとうみんな」

 アイヴィーが満面の笑みを浮かべて俺たちにお辞儀をする。

 ロレンツォ戦後しばらくは、黙り込んでいたものの最終日になるといつものアイヴィーに戻って……いや前以上に何か吹っ切れたように笑うようになっていた。

「それと……クリフ。あんたが死んじゃったかと思って動揺したけど、あれは忘れなさいよね」


「ん? あれってなに?」

「……ッ! あれはあれよ、鈍いわねあんた」

 なんのことだろう?と考えていると、アドリアがとても悪そうな笑顔でニヤリと笑って俺にみんなに聞こえるような声で耳打ちしてきた。

「アイヴィーさんは、クリフさんに抱きついて号泣したことが恥ずかしいんですよ」


 ……ああ。そのことか。

「ちょっと、アドリア!? 全部聞こえてるんだけど!?」

 アイヴィーが顔を真っ赤にして喚いている。アドリアがケケケと笑って俺の肩を叩く。

「ああ、心配してくれたんだよね?」


「……し、心配なんかしてないわよバカ!」

 アイヴィーが少し赤い顔のまま頬を膨らませて拗ねたように横を向いている。

 まあ、心から心配してくれていたんだな、って思うと嬉しいかな。

「そうなの? 俺アイヴィーが心配して泣いたんだって思って、ちょっと嬉しかったんだ」

 その言葉に再び顔を赤くするアイヴィー……そしてニヤニヤと笑うアドリアとトニー。

「面白いですな」

「面白いですよね」

 二人の謎の連携が始まる。なんだろうこの連帯感。


 そして突然視界がぐにゃり、と歪むと次の瞬間イベント開始前の広場に立っていた。

 周りをみると、他の学生たちも何が起きたのかわからず周りを見回しているものが多い。

「皆様お疲れ様でした。探索はこれにて終了となります」

 続けて魔導教師メイジチューターが宣言する。

「それでは魔導石を確保したチームを紹介します、呼ばれたものは前に出てください」


 魔導石を確保したチームは4チームでた。

 聖王国チーム……出発前にアドリアに話しかけていた赤毛の魔道士が率いるチームだ。

 名前はジャン・デ・シーカ。アドリアが言うには「彼は聖王国始まって以来の天才、と言われていますよ」とのことだった。そのほかのメンバーもかなり個性的だった。


 帝国チームは1チーム……なんとロレンツォではなく別のチームが表彰されていた。

 広場を見渡すと、ロレンツォ様は端っこで小さくなっていた。あ、かなり凹んでそうな顔だ。

 別チームのリーダーはあの黒髪、赤目の男性……名前はマクシミリアン・マクルーハン。アイヴィーは彼のチームはよく知らない、と話をしていた。帝国留学生も一枚岩では無さそうな感じだな。


 そして俺たちのカスバートソン令嬢チーム(いつの間にかこんな名前で呼ばれていた)が表彰される。

 代表者としてアイヴィーが表彰を受けていたが、その時にロレンツォが後ろの方で憎々しげにアイヴィーを睨みつけていたが、大丈夫かな。


 あとはブライテンバッハ王国のチームが1チームが表彰されていた。

 4チームしか確保できなかった、というのは結構難易度が高かったということだろうか?まあ魔道士が接近戦に巻き込まれたりするケースは普通ないだろうが……。


 学長の挨拶が始まる。

「みなさん、お疲れ様でした。今年よりイベント形式を探索に変更しましたが、みなさんは力を合わせて共通の目的に向かって協力することの大事さを覚えてもらったかと思います。我々大学は、これからも新入生のみなさんが互いに切磋琢磨して魔法の深淵を学び、魔道士の権利向上に力を尽くしていただきたい」

 そっか、そういう話になるのね。

 でも確かに昨年までやっていた、という個人対抗戦では俺たちのような連携を磨く機会もなかっただろうし、色々な意味で今のチームメンバーは仲良くなったと思うので、狙い通りという感じだろうな。


「では解散していいですよ、明日から勉学に励んでください」

 学長の宣言で学生たちが広場から離れていく、学食方面に向かうものや、今回組んだチームのメンバーで話をし始めるものもいる。仲良くなったんだろうなあ。


「さ、俺たちも解散するか。みんな本当にありがとう」

 仲間……いや大切な友達に頭を下げる。

「いやいや、私も大変勉強になりましたぞ、明日からまたよろしくです」

 トニーが笑顔で俺に握手をしてきた。トニーは本当にいいやつだ。

 そのままトニーは部屋に戻ると話して去っていった。

「そうですね、私もクリフさんが経験値の高い冒険者とわかって尊敬していますよ」

 アドリアもにっこりと笑って俺の手を握ると、「それではまた」と手を振って歩いていく。


「あの……クリフ」

 二人が見えなくなるとアイヴィーが声をかけてきた。

「ん? ああ、アイヴィーもありがとう。色々助かったよ」

 俺はアイヴィーに頭を下げる。アイヴィーがいなければ前衛がいなかったので、結構危ない場面が多かった。

 アドリアに前衛をさせてもうまくいかなかっただろう。

「あ、私もその……助かった……」

 恥ずかしそうに目を伏せるアイヴィー。前はこういう表情しなかったよなあ。


「それじゃあまた明日かな」

「あ、待って!」

 アイヴィーに笑いかけて、部屋に戻ろうとするとアイヴィーが俺の手を握った。

「どうしたの?」

 なんだろう? と思ってアイヴィーに向き直ると、彼女はとても恥ずかしそうに顔を赤らめて……そして意を決したように口を開いた。


「あ、あの……嫌じゃなければ……今度買い物に付き合って欲しい……」

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