31 初めての冒険は狼退治と指差し貴族
「アイヴィー! そっちへ行った!」
「任せて!」
大型の
俺たちの初冒険は郊外の牧場を襲った
俺たちはこの依頼を受けてすぐ、一体の
「支援をしますぞ。その身体は風の如く、軽やかに動くべし<<
トニーの謎のポージングから繰り出される魔力が、アイヴィーの体をぼんやりと鈍く光らせる。
支援魔法に特化している、というのも嘘ではないだろう。現に俺の魔法攻撃能力もトニーの支援魔法でかなり底上げされているのが分かる。
アイヴィーは
素早く飛びかかってきた
その隙を狙って
「その突き……すごいな」
「私の剣は父上と……帝国でも随一の
元々の姿勢も良いのだが、
「アイヴィーさんすごいです!」
「トニーとアドリアの魔法もすごいのよ」
アドリアがアイヴィーに駆け寄るが、アイヴィーは照れ臭そうに笑う。この冒険中にアドリアとアイヴィーはかなり仲良くなっているようだ。
「帝国には
トニーが感心している。
王国にも
「さあ、次を倒していきましょう」
アイヴィーは赤いルビーのような目を輝かせながら笑った。
結局
このパーティ、ヘタをすると銀級パーティに匹敵するくらいの能力があるのではないだろうか。防御も支援魔法もかなり高度に扱えるし、遠距離魔法はこの俺とアイヴィーも使える。回復もアドリアが担当できていて、各々の魔力も非常に高い。
ちなみにトニーは完全に支援にまわっていたが、アドリアは
笑顔で
「結構な金額になるのねえ」
アイヴィーがお茶を飲みながら分けられた銀貨を眺め、財布へとしまった。今回の依頼で支払われた金額は銀貨一二〇枚。ちょうど三〇枚づつ分けている。
「都市部で裕福だからかもしれないね、昔村を襲った魔物を退治した時はもっと安かったよ」
「とはいえ冒険者家業で一山当てようとする人が絶えないのは分かる気がしますな」
トニーがお茶を啜って、銀貨を自分の財布の中にしまっていく。
「命の危険があるので決して安全とは言い難いですが」
そうだなあ……実際に亡くなってしまう冒険者も何度かみているし、そういった危険に見合うだけの見返りがあるのだろうか?と言われると疑問ではある。
「
アドリアが銀貨を一枚一枚大事そうに財布へしまっている。
なぜか膨らんだ財布に頬擦りしているのがとても謎だ……アドリアはお金に特殊な愛着を持っているのかもしれない。
「その辺りは連携を強化していければ、だね。一箇所に集められれば殲滅できそうな攻撃もできると思う」
俺も銀貨を財布にしまってお茶に手を伸ばした。
「またお前らか」
背後からいきなり声をかけられる。そこにはあのロレンツォが取り巻きと一緒に立っていた。
「ああ、あんたか。なんだっけロ……ロリ……」
「ロレンツォだ、覚えておけ庶民」
ロレンツォに気がつくと、アイヴィーは悲しそうな顔をして下を向く。
「名門のお嬢様は冒険者の真似事もされるのですな」
アイヴィーの胸元にある青銅のプレートを見て、ロレンツォが馬鹿にしたように笑う。取り巻きもそれに合わせてクスクスと笑っている。ある意味一糸乱れぬ行動で逆に感心してしまう。
それを聞いて黙ってプレートを隠そうとするアイヴィーを制して俺は聞き返す。
「それで俺たちに何か用ですか?ロレンツォ様」
「いや何、おかしな面子で冒険者の真似事をしている学生がいたと聞いてね。見学に来たのだよ」
変わらず下卑た笑いを浮かべてロレンツォは俺たちを見ている。
「聞いたか? イベントでは他のチームへの妨害が許されているそうだ」
「へえ? 初めて聞きましたよ」
妨害ありの探索イベントってなんだよ!と思ったが、何かしらの理由があるのだろう。
「ここで宣言しておく。お前らは僕たちには勝てない」
ロレンツォが俺に指をさしながら宣言をし始めた。いや、だから帝国貴族は人に指をささないと何か喋れない呪いでもかかっているのか。
「イベントのトップは私たちがいただく。お前たちは無様に私たちに負けるのだよ!」
はっはっは、と笑いながらロレンツォと取り巻きは去っていった。
あいつ何しに来たのかと思えば、くだらない宣言をしに来たのかよ。暇人か。
「クリフ……」
アイヴィーが不安そうな顔で俺を見ている。
「大丈夫だよ、彼らがどの程度の能力を持っているのかわからないけど、俺の経験上僕らは相当にレベルの高いパーティだと思う」
「で、でも……」
アイヴィーがロレンツォと対峙した時の萎縮の仕方は異常だな、過去に何かあったのかもな。
「アイヴィーはもっと自信を持ってもいいよ、俺はアイヴィーのこと信じてるし、俺のことも信じて欲しい」
そのセリフにアイヴィーは驚きながら、少し顔を赤らめて目を伏せる。
「……っ! ……その、あ、ありがとう……」
「私やアドリア殿もアイヴィー殿のことを信じていますぞ!」
「そうですよ! 私たちのことも信じてください!」
二人が笑ってアイヴィーを励ます。
お互い励まし合える仲間がいるってのはいいことだよな。
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