29 トモダチ ガクショク ドキドキ ガンバル
「おはようアイヴィー」
「へ? あ、お、おはよう?」
「お、クリフ殿、それにアイヴィー殿ではないですか」
「みなさんおはようございますー!」
翌日、学園の授業へと向かうアイヴィーを見つけた俺は声をかけた。さらにその様子を見ていたトニー(なんと制服をちゃんと着ていた)とアドリアも走って挨拶をしにくる。
アイヴィーはきょとんとした顔でこちらを見ており、何が何だかわからないという感じだ。
「アイヴィー、外に出ちゃってたから副学長の訓示聞いてなかったろ?後で次のイベントの話を教えるよ」
そう、実はあの後結構重要な話があったのだが、アイヴィーはその場にいなかったので多分聞いてないだろう、と思ってその話を振ってみた。
まあなんとなく外に出ていった理由も想像がついているのもあって、俺としてはちゃんとフォローが必要かなって思った次第だ。
「え、あ、あの……」
アイヴィーは何故か混乱して口をパクパクさせていた。何かを言いたそうにしているのをみて、ああ。と気がついた。
「俺たち友達だろ? トニーもアドリアもそう思ってるぞ」
「そうですぞ、これからもよろしくであります」
「ですね!」
その言葉でアイヴィーの動きがビタッと止まる。ちょっと肩が震えた後に、俺の方に向き直ってすぐに答えてくれた。
「そうね、クリフ達は私の派閥のメンバーなんだからね!」
アイヴィーの顔は嬉しそうに満面の笑みで答えてくれた。それをみてちょっとだけドキッとしたのは俺だけの秘密。
いやいや、一五歳くらいの子にドキッとしちゃうおじさん大丈夫かしら。
寮から登校するにしてもすでに派閥が構成されているのでグループごとに登校していく様子がわかる。
おそらく一番多いのは帝国派閥だが、あのロレンツォとかいう嫌なやつ以外にも結構な数の子弟がまとまっているのがわかる。とはいえ貴族っぽいのは七〜八名であとはいわゆる庶民のようにも見える。
あとはいくつかのグループが構成されていて、中には人間以外だけでまとまっているグループもあるようだ。
「ところでクリフ、イベントって何よ?」
アイヴィーが俺に尋ねてくる。グッと距離が近くなったのか、とても良い香りが俺の鼻に届く。しかもアイヴィーは俺より背が少し低いので、上目遣いになるのだ。朝からドキドキしちゃう。
前世で会社員として働いていたときはほぼ女っ気のなかった人生だったので、こういうシチュエーションは本当に久しぶりなのだ。
「あー、それね。昼の食事の時間にでも話すよ」
胸のドキドキを感じつつ、少し目を逸らして俺は答えた。そう、今年はイベントが行われる、と言う話だったのだがその内容がとんでもないものだったのだ。
そしてお昼時間。
「何それ……? 新入生チーム同士の冒険対決とか普通のイベントじゃないわ」
アイヴィーが憮然とした顔で答える。
……俺たちの前には聖王国魔法大学が誇る学食の数々が並んでいた。
学食といっても、きつねそばとかラーメンとかが並ぶわけではなく、ファンタジー世界に相応しい洋食の数々が並んでいる。ただ、パスタのような何かなどは存在しているので、もしかしたら別の国にはそばとかラーメンのようなものが存在しているかもしれない。
ちなみに王国の学食と違って聖王国の学食は貴族が口にするような非常にグルメな品々が揃っている。
正直言うとこの食生活に慣れてしまうと、王国に戻ったとき大変そうだなーと思うのだが、郷に入ればなんとやらの精神で慣れるしかないと思う俺であった。
「直接戦うわけではなく、
大きめの骨付き肉をかぶりつきながら、トニーが補足を入れる。
「派閥の人数が多いチームは最大でも五人までが一チームとして認められるようです。とはいえ元が同じ派閥であれば共同で探索にあたることも可能でしょう」
うーん、するってーと派閥の人数が多い国出身は得だってことか。
「どこのチームが人が多いんだろう?」
「そうですな、帝国は三チーム構成できているようです。聖王国は二チーム。西のブライテンバッハ公国も二チーム。そのほかのチームは大体五〜六チーム組めているようですね」
やっぱり帝国は派閥が強固なんだな。多分派閥で行動できるチームはまとまって行動するだろうが、
「食事会で仲良くなった連中もいるだろうしね」
「そうですか。ある意味あの食事会は親睦を深めるいい機会であったようです」
ふむ……サプライズイベントにしたようだが、食事会もそれを前提とした形の流れだったのかもしれないな。
「私はクリフさんと一緒に行動したいので聖王国チームには入りませんよ」
アドリアがにっこり笑って答える。
ああ、ええ子や。こんないい子が一緒にいてくれるなんてありがたいよ。そう思っていたらアドリアさんが急に無表情になってボソッと呟いた。
「……連中にいつも雑種って言われるんでムカついてるんですよね」
あ、アドリアさん静かに怒ってるのね。怒らせちゃダメな人なのかもしれない。
「私もみんなと行動したいし……帝国のチームには入らないわ」
アイヴィーが少し照れたように答える。少しだけ素直になったじゃない。
「ってことは俺たちは一緒のチームで申請すればいいね」
みんなが頷く。とはいえ最大五人か。
もう一名入れておいても良いかもしれないが、ないものはない。今はこの四人でできることを考えよう。
「一応俺は冒険者やっていたこともあるけど、お互い自分たちが何ができるかわからないから、放課後に訓練場で確認をしよう」
「そうですな、私の筋肉も唸りますぞ」
「そうね、その方が良さそうだわ」
「私も皆さんと一緒にがんばりたいです!」
さてこの急造チームがどういうことができるのか、確認しなきゃね。
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