28 テンプレートお貴族様とマブダチと

「あれ? かつての名門貴族様がここにいらっしゃるとは……」


 なんだ? と思って声の方向を見ると、そこには4人のどう見ても貴族っぽい男女が立っていた。そしてお約束のように一様に性格の悪そうな顔をしてらっしゃる。

 声をかけてきたのは金髪、緑眼のこれはどう見ても悪役ヅラというか……ラノベだったらどう見てもいじめっ子の顔をした男性だった。


カスバートソンのお嬢様、お久しぶりですね」

 その言葉にアイヴィーがビクッと肩を震わせる。

「こ、こんにちは。ロレンツォ・カンピオーニ様……」

 アイヴィーが伏し目がち……というか俺に声をかけてきた時のような威勢もなく、怯えたように挨拶をする。

「あなたもこちらにいらしたんですね……」

 周りの学生がこちらで揉め事があったことに気がつき、ひそひそと話を始めた。


「ええ、お嬢様。あなたのように落ちぶれた貧乏貴族の三女と同じ年に留学、とは思わなかったけどね」

 あれ?これもしかしてアイヴィーさん、帝国でいじめられてます?そしてロレンツォと呼ばれた性格悪そうな男性はこちらをじろじろ見始めた。

「ふっ……、田舎者に筋肉ダルマの変態に雑種とは随分面白いお仲間を連れていらっしゃる」

 ロレンツォが明らかに馬鹿にしたような蔑みも込めた目でこちらを見る。いや、それは言い過ぎでしょう。

 少なくとも俺は爽やかな見た目だと自負してるし、アドリアはどう見ても美人だぞ。

 アイヴィーだってぶっちゃけ美人だ。……トニーは明らかにアレだけど。


「い、いえ。私は……」

 勢いのないアイヴィー。なんか悲しそうな顔を見て俺の中の正義感がくすぐられる。

「あの、俺はアイヴィーの友人ですが、俺たちに何か問題があるのですか?」

 流石にこれ以上はダメだろう。女の子をいじめると言うのは。

「フッ・・・ド庶民が何を言っているんだ」

 ロレンツォが馬鹿にしたような笑みを浮かべてやれやれ、という風に頭を振る。

「お前らのような連中が、俺たち帝国貴族に話しかけてもいいと思っているのか?」


 ああ、典型的な貴族様、ですな。王国の貴族にも一部こう言う人がいた。

 権威を振りかざして俺たちみたいな庶民を小馬鹿にしてた。そんな貴族を守る依頼なんかもあって、個人的にはどうにも気に食わない人種ではある。

「どちらにせよ、落ちこぼれ貴族にはその仲間はお似合いですな、はっはっは」

 高笑いをしながら去っていくロレンツォ。アイヴィーは、悔しそうに顔を伏せて肩を震わせてる。


「アイヴィー……」

 大丈夫かな? 心配になって肩に手を触れようとすると、その手をバシッと振り払われた。

「触らないで。あんたに同情されるなんて御免よ」

 涙がこぼれ落ちそうな眼で俺を睨みつけると、アイヴィーはその場を去っていった。


「帝国貴族の子弟もなかなかクセがありますな、アイヴィーどのが可哀想だ」

 トニーが呆れたようにため息をつく。

「私も貴族の端くれですが、あのような失礼な態度を見せる貴族は信用できませぬ」


「え? トニーって貴族様なの?」

「はい、あまり言わないようにしていますが、祖国であるシェルリング王国では父が子爵位を持っています。とはいえ、私の家は名ばかり貴族でしてな。気になさらないでください」

 トニーが爽やかに白い歯を見せながらにっこりと笑って親指を立てる。

「クリフどのはもはや我が友マブダチです」


「アイヴィーさん……大丈夫ですかね?」

 アドリアがアイヴィーが去っていった方向を見ながら心配そうにつぶやく。んー、心配なんだけど今追いかけても逆効果な気がするんだよなあ。

 ここはそっとしてあげたほうがいい気がする。


 揉め事が無くなった、と見るや近くにいた学生が声をかけてきた。大半の学生は庶民や、冒険者などが多く先程のロレンツォのような態度を取るものは少なかった。

 何人かと談笑して、食事をしていると、いつの間にか食事会は終了の時間となったようだ。


 副学長と呼ばれている人物が終了の挨拶のために壇上に立って話し始めた。前説の学長はシンプルかつフランクな感じだったがこの人はどうだろうか。

「えー、食事会はこの辺りでお開きとさせていただきまして、今年は入学生同士の交流を深める意味合いもあり、数日後に余興として〜」

 どうやら話は長くなりそうだった。




 その頃、一人逃げるようにベランダに佇んでいたアイヴィーはクリフの手を振り払ったことを後悔していた。

「あーあ……やっちゃったわ……」

 クリフは優しいのだな、と思った。こちらを気遣ってくれてああいう行動に出たのだとわかっていたのだが……。


 ロレンツォ達他の帝国貴族の嫌がらせは帝国魔法大学時代から続いていた。

 と言うのも現在のカスバートソン伯爵家は借金まみれなのだ。原因は以前の拡大戦争の時に遡る。

 それまでは名門の誉れ高き伯爵家として知られ、魔道士ソーサラーと優秀な戦士ウォリアーを帝国軍へと輩出していたのだが、戦争の際に主だった一族が次々と戦死。


 戦争が終わり、新たな事業に取り組んだ先先代のカスバートソン伯爵は事業に失敗。多額の借金を抱えてしまい、その借金を工面するためにカンピオーニ侯爵家へと援助をお願いした。

 当時の当主同士は比較的友好な間柄であったのだが、代が変わると侯爵家の一部はいつまで経っても独り立ちできなかった伯爵家を疎ましく思うようになった。


 ロレンツォは侯爵家の次男で、アイヴィーは伯爵家の三女。幼馴染ではあったが、ロレンツォは選民意識、貴族意識の高さでアイヴィーを攻撃対象に選んでしまい、それからずーっとネチネチと嫌味を言うようになった、のだった。


「せっかく聖王国まで来たのに……レッテルからは逃げられないのかしらね……」

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