26 ゲームプランナー(前世)は金髪ツインテお嬢様と仲間になる
「な、何もできなかった……」
大学で寮としてあてがわれた部屋にあるベッドで、俺は愕然とした顔で朝を迎えていた。
……俺が大学に来てから四日後。本日は入学式である。
受付に行ってからの出来事を軽くおさらいすると。
この大学は寮制なので、部屋の相談や大学全体の紹介、どういったことを研究しているかなどの説明。さらには王国魔法大学でどういったことを学んできたのかなどの面接、さらには過去に冒険者からの推薦があったことなど、を詳しく聞き取りされた。
そんな古いものも共有されてるんですね、とは思ったが隠しても仕方ないのでその辺りは誇張なく伝えたが、特に騒がれることもなかった。
聞き取りは毎日、不定期な時間に実施された。
つまり部屋に基本的には待機して、学食と聞き取りの時間だけは部屋を出るという引きこもりのような生活をしていたら、入学式当日を迎えていた、という有様だ。聖王国の観光すらしてないよ……。
仕方なしに入学式へと向かう。
……身構えては見たものの、それほど大層なものではなくその年の新入生を集めて「入学・留学おめでとう!これから頑張って魔道士の勉強してね。犯罪には気をつけてね、街にはさまざまな誘惑があるから気をつけてね」というありきたりのお話をざっとおさらいされ、あとは学生懇親会という名前の食事会が催されていた。
学長の長い訓示などもなく、案外あっさりしてるなーと前世の記憶を思い返しながら、食事会へと向かう。
食事会で提供されていたのは王国で食べていたような質素な食事などではなく、貴族のパーティなどでもだされるような豪華な食事の数々だった。
「うまい……実家で食べてた料理はシンプルだったからなあ」
俺はパーティ会場の片隅でしこたま皿に盛ったビュッフェ形式の料理を夢中になって食べていた。
基本王国での食事はシンプルなものが多かった。実家もそうだったし大学入学後も学食メイン、仕送りもそれほど多くなかったので冒険者としてたまーにお小遣い稼ぎをしながら食い凌いでいた。
王国の貴族は違ったかもしれないが、俺は貴族ではなく片田舎の村出身だったからな。時々食い物がなくて、飢えたりしたのもご愛嬌か。
「ここ空いてるかしら?」
食事をがっついていると俺に近づいて声をかけてきた女性がいた。
「……おもぎゅだんぬれもきゅだ?」(お前誰だ?)
「食べながら話すなって教えてもらってないの?全く‥…」
口に頬張った食事を飲み込んで声の方向を見ると、そこには可愛らしい金髪赤眼の美少女が呆れ顔で立っていた。
この世界で金髪、というのは珍しくはないのだが王国ではここまで綺麗な金髪の持ち主は少ない。
「ああ、無作法でした。隣はどうぞお使いください」
答えを待たずに美少女が隣の席にストンと腰を下ろす。えー、もう座ること前提なの。
仕方ないので飯を食いながらその美少女を観察してみる。
美しい金髪をツインテールの形にまとめ、髪留めには金細工の高価そうなものを使っている。目つきは鋭く、きつめの印象を与えるが赤眼は透き通るように美しいルビーのような色合いで、まるで肖像画からそのまま出てきたような、まさに美形としか言いようのない顔つきだ。
反面、体つきは少し華奢でほっそりしているが、この世界でこういうほっそりした体型を許されるのは貴族階級の子女が多いので、おそらく貴族の出身なのだろう。
「……いいわ、許してあげる。ところであなたの名前は?どこの出身なの?」
こちらを見ずに美少女は話し始める。
ん?いきなり合コンみたいな聞かれ方したな……まあいいか。
「俺はクリフ・ネヴィルです。サーティナ王国のセルウィン村からやってきました」
彼女は俺の名乗りにはあまり反応せず、控えめにお皿に持った食事を非常にナイフとフォークで切り分けると、本当に上品に食べ……音もなく飲み込んだ。あ、やっぱり貴族っぽいなこの上品さ。
「ふうん、そうなんだ。ああ、ごめんなさい。私も名乗らなければね」
美少女は皿を置くと席から立ち上がり名乗り始めた。
「私は帝国貴族カスバートソン伯爵家の三女、アイヴィー・カスバートソンよ」
ふふん、と髪を軽く払うと、軽くポーズを決め俺にビシィ!と指をさす。
人に指をさしてはいけない、とは教わってないのだろうか帝国貴族様は。
「喜びなさい、クリフ。帝国貴族である私が、あなたを部下にしてあげるわ」
「ふぁい?」
「私のことはアイヴィー様と呼びなさい、いいわね」
状況がわからずポカン、としているとアイヴィーはニッコリと笑う。
「王国の田舎出身なのでしょう?あなたが私に仕えることで大学生活を薔薇色にしてあげる、と言っているの。クリフみたいな庶民は知らないかもしれないけど、この聖王国魔法大学は入学後から各国家の派閥に分かれていることが多いのよ。そ・こ・で私のような帝国貴族に仕える名誉をあげましょう、ということよ」
一気に捲し立てるアイヴィー。なんかドヤ顔で話してるけど、ふと思った疑問を返すことにした。
「派閥……ねえ……でも俺は王国出身なんだから、その論法でいうなら王国の派閥にいなきゃまずいんじゃないの?」
「バカね、王国からの留学なんて学生数は大していないのよ。見た感じあなたの周りに王国出身者はいなさそうだから、クリフは
「私の派閥? アイヴィーも一人ってこと?」
俺の素朴な疑問は相当に図星だったようで、それを聞いたアイヴィーは顔を真っ赤にして怒り始めた。
「ち……ち……違うわよ! バカね! 私が一人目としてあんたを選んであげるって言ってるの!」
あー、はいはい。だいたい読めてきた。この調子でアイヴィーは他のやつに声をかけたんだな。
で、断られて困ってたと。そしたら端っこで庶民が飯をパクついてたから、断らないだろうと声をかけてきた、と。
そしたら図星つかれて恥ずかしくなっちゃったと、なんだちょっと可愛いところあるじゃない。
しかし派閥か、面倒だな。
正直言うとアイヴィーの見立ては正しい。俺は王国魔法大学ではほぼ一人で行動してた。なぜなら精神年齢が違いすぎて話が合わないから。
あと友人関係を構築するよりも冒険者稼業で生活費を稼がなきゃいけない、という目の前に差し迫った問題もあった。冒険者から「クリフは少年なのにおっさんみたいだな」とよく言われた……だって中身はおっさんなんだもん。
「で、どーするの? 私はあんたがいいっていうなら、受け入れてあげてもいいわよ」
……ツンデレかな?でもまあ今のところこのままいくとぼっち確定だしなあ……。
うん、決めた。せっかく手を差し伸べてくれたのだから、応えてあげよう。
「いいよ、アイヴィーと一緒になるよ」
「……ちょっと。何その言い方、なんであなたが私の旦那様みたいな言い方になるの?」
「あ、えと。アイヴィー様と派閥を組ませてください」
「よろしい! これでクリフは私の臣下ね!!」
こうして俺は金髪ツインテールのお嬢様と派閥を組むことになったのだ。
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