20 混沌の戦士(ケイオスウォリアー)05

「危険すぎないか?」


「予想が正しければ、これで形勢をひっくり返せると思うんです」

「そうかもしれないが……」

 俺の作戦を聞いたカルティスは露骨に困惑の表情を浮かべた。無茶な作戦、というのは理解しているのだが現状パーティが持てる戦力を総動員しても傷一つ付かないアルピナを倒すにはこれしかない、と思った。


「あー、もうわかったよ。ただな絶対に死ぬなよ」

 カルティスが仕方ないな、という表情で再びセプティムたちの援護に走っていった。

 アルピナは目の前で逃げ続けるセプティムやジャジャースルンドを<<黒色槍撃ブラックランス>>で追い回すことに集中している。

 ベアトリスは頼みの綱になっている炎の精霊サラマンダーが倒されたため、援護射撃程度にしか魔法を撃てていないが、避ける必要もないのかアルピナは現状ベアトリスからの攻撃は完全に無視している状況だ。俺は走ってベアトリスさんに駆け寄り、作戦を説明する。


「そ、そんな危険なこと納得できる訳ないじゃないですか!」

 まあ、ベアトリスのこの反応は正直いうと予想できた。

「でもやってみる価値はありますぜ」

 おっと、どこかのアニメみたいなセリフになってしまったけど、これでダメならさっさと撤退した方がいいと思っている。

「……わかりました……」

 渋々承諾するベアトリス、納得はしていないだろうが今のところなんとか作戦を立てられているのは俺だけだ。これに乗っかるしかない、というのが現状だと思うしな。

「危ないと思ったら私はあなたを無理矢理でも止めますからね」


「くそっ……打開策がなさすぎる」

 セプティムは焦っていた。

 過去に戦った混沌の戦士ケイオスウォリアーよりもアルピナは遥かに強力だった。自動回復や無詠唱での魔法連打、しかも破壊力も高く隙がない。

 挙げ句の果てに絶対防御能力まで備えている。こんな敵に遭遇したこと自体が初めてだ。今のところなんとか攻撃は避けることができている、がだ。

「力が足りないのか……認めたくないのだが……」

 このままではジリ貧。そう思って焦りばかりが募っていく。


「混沌とはこういうものなのか……」

 ジャジャースルンドは正直驚愕していた。

 実は彼は混沌の戦士ケイオスウォリアーと戦うことが初めての経験だった。パワーアップ前の一撃、あの一撃は致命打になると思っていたほど、手には感触があった。

 しかしこのアルピナという混沌の戦士ケイオスウォリアーはそれすらも超越して立ち上がってきた。

 それが末恐ろしい。逃げることは簡単だ。だが今後混沌と戦うときにこのままでは恐怖しか感じなくなってしまう。

「それだけは避けねばならんな」

 独り言を呟くほど、今ジャジャースルンドは追い詰められていた。


「二人とも! 援護を頼みます!」

 絶望感を感じつつあったセプティムとジャジャースルンドの耳に、クリフの声が響く。

 驚いて声の方向を見ると、小剣を構えたクリフ=俺がアルピナに向かって突進していくのが見えた。

「クリフ! 何を!」

「小僧! 無謀だ!」

 驚きで目を見開く。たった八歳の子供があの強力な混沌の戦士ケイオスウォリアーに勇敢にも突進していくのだ。

 あっけに取られるも戦士としての本能が彼らをすぐに行動させた。セプティムが三日月刀シミターでアルピナに切りかかるが、鋭い攻撃にアルピナも防御能力を発動させる。

「鋭い攻撃だけど、私の防御能力は崩せないわよ?」

 そこへジャジャースルンドの槌矛メイスの攻撃が襲いかかる。鈍い音を立てるも、アルピナの黒い紋様が一部移動して槌矛メイスの一撃を受け止める

 さらにベアトリスの炎の槍ファイアランス、カルティスの弓矢、バーバランドラのスリング攻撃が続いて叩き込まれる。が、黒い紋様は有機的な動きを見せつつ、その攻撃の全てを受け止める。




 アルピナは優越感に浸っていた。

 今回目の前に現れた冒険者と暗黒族トロウルはかなりの強敵だ。だが真の姿を解放した自分の方が現状確実に強く、彼らの攻撃ではこの紋様を突破できそうにないと判断している。

 この黒い紋様は混沌の諸相ケイオスアスペクトで得た能力の一つで、視界にある全ての攻撃、さらに遠距離攻撃を自動的に防御する能力を持っている。

 欠点とすれば、手や足など面積のそれほど大きくない部分に展開するのが難しいこと、視界外の攻撃に対して反応ができない点だ。


「馬鹿正直に視界の中にある程度入ってくれるのは有り難いわね」

 三日月刀の戦士は視界ギリギリを狙って接近してくるため、その度に視界内に入れて対処すれば問題にならない。唯一力負けしそうだった炎の精霊サラマンダーは初手で潰しておいた。

 紋様の防御能力は紋様が攻撃を受け止めるので、炎の精霊サラマンダーの火球連射のように飽和攻撃に近いものは完全に防御できないためだ。

 このまま防御を固めつつ、距離をとって<<黒色槍撃ブラックランス>>の攻撃を続け、疲労したところを殲滅すれば、終わりだ。

「後はあの可愛い魔道士の坊やを可愛がってあげるだけね……」

 涎が出てしまう。あんな子供をいたぶる機会はここ何十年も存在していなかった。痛めつけた後にこちら側に引き込んで永遠に可愛がるのも楽しいだろう……。


 そこで気がついた。子供が視界にいない。先ほどは戦士に何か声がけをして走っていったが、戦士やそのほかの人間からの攻撃に対処するために放置した。

「しまった、どこへ……」

「ここですよ」

 後頭部に何かが当たる感触。


 アルピナの視界が光で弾けた。

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