18 混沌の戦士(ケイオスウォリアー)03

「来たれ炎の精霊よ。我が契約に従い己の力を発現せよ! <<精霊召喚サモンスピリット>>」


 ベアトリスさんの詠唱に合わせ、何もない空間に突如火炎が巻き起こる。炎が落ち着くとそこには火に包まれた大型犬ほどの大きさのトカゲが……炎の精霊サラマンダーが出現していた。

「焼き尽くせ!」

 ベアトリスさんの号令と共に炎の精霊サラマンダーがアルピナに向かって炎を吐き出した。

「いやだわ、お肌が焼けてしまうじゃない」

 流石にこの攻撃はまずいと思ったのか、アルピナが打ち合いをやめ大きく後方へとジャンプした。

 それまでアルピナが立っていた場所を炎の精霊サラマンダー炎の息吹ファイアブレスが焼き尽くす。


炎の精霊サラマンダーなんて面倒なもの呼び出して……」

 やれやれと言った風にアルピナが笑う。

「火球を放て!」

 炎の精霊サラマンダーが火球を撃ち続けるが、アルピナは爆発する範囲ギリギリを狙って最小の動きとステップで避けていく。アルピナの戦闘能力は相当に高いことがこの動きだけでも理解できる。

 というか炎の精霊サラマンダーは火球を連射しているので、あんな範囲攻撃だと普通の人間は避けられない。


「うぉおおおお!」

 ジャジャースルンドがその合間を縫って突撃し鎚矛メイスの一撃を振るうが、この攻撃を予測していたのかアルピナは最も簡単に剣で受け止め、押し返す。

「ダメダメ、焦る男は嫌われちゃうわよ? 鼻息荒く迫られるのは嫌いじゃないけど」

 アルピナが吐息を艶かしく吐き出し、ジャジャースルンドにウインクをした。


 その瞬間、いつの間にかアルピナの側面に回ってたセプティムが無言で三日月刀シミターの一撃を振るう……仕留めたかに見えた攻撃だったが、アルピナはもう一本の剣で受け止めていた。

「いいわねぇ、あなた殺気があって、良い攻撃をする……私達に近いわぁ」

「お褒めに与り光栄の極み……」

 セプティムが剣を、ジャジャースルンドが鎚矛メイスを力任せに押し込む。

 アルピナの膂力はこの二人を相手にも負けておらず、ミシミシと軋み音を立てながらも体勢を立て直していく。

「まだまだねえ、この程度じゃいつでも押し返せるわよ?」


「なんて馬鹿力だ……」

 セプティムは流石に驚嘆する。ジャジャースルンドも流石に困惑していた。

「膂力でも我々と互角以上……」

 ギリリとジャジャースルンドが歯噛みする。力負けするという経験があまり無いのだろう、悔しそうな顔になっている。

「避けろ!」

 声と同時にセプティムとジャジャースルンドが飛び退く。力比べの対象がいなくなり、体勢が崩れたアルピナの肩にカルティスが放った弓矢が深々と突き刺さった。

「あら、これは……」

 アルピナが肩口に刺さった矢を見て真顔になる。

反魔の矢アンチマジックアローだ、ちょっと高いんだけどな。お前には効果的だろう」

 カルティスが再び反魔の矢アンチマジックアローを弓に番えて構える。


「……この程度の攻撃でも表皮を通ってしまうのか。魔法の矢は厄介だな」

 メリメリと音を立ててアルピナの全身の筋肉が盛り上がると、突き刺さった矢が圧力で抜け、軽く青い色をした血が吹き出すがすぐに止まる。

「口調が真面目になってるぜ」

 カルティスが素早く次の矢を放つが、この攻撃はアルピナに簡単に防がれてしまった。

「あらやだ」


炎の精霊サラマンダー!!」

 ベアトリスの命令でアルピナに向かって火球が次々と打ち出される。

 アルピナがニヤリ、と微笑むと一気にダッシュして火球をかわしつつ、ベアトリクスとの距離を詰めにかかる。

「面倒よ、お嬢ちゃん!!」

 あっという間に距離を詰めて、腰だめに構えた片手半剣バスタードソードがベアトリクスに迫る……だが俺がその間に割って入る。


「守りの盾よ、我が前に具現化し身を守れ! <<魔法の盾マジックシールド>>」

「なんだと?!」

 甲高い音を立ててアルピナの片手半剣バスタードソードが俺の左手の前に展開された<<魔法の盾マジックシールド>>に攻撃を阻まれた。

 咄嗟だけど先日ベアトリスから習ったこの2つ目の魔法、<<魔法の盾マジックシールド>>で防御に成功した。

 しかし……この魔法って術者の前で展開するから間に割って入らなきゃ行けないけど、この状況だとめちゃくちゃ怖いんですが……っ!

 詠唱ミスで即死してたに違いないと思うと流石にゾッとする。


「くっ、この子供は魔道士か!」

 攻撃を防がれたアルピナが慌てて距離を取るためにバックステップで逃げる。

「逃がさないわ!」

 ベアトリスの命令で炎の精霊サラマンダーが追撃の火球を打ち出す、流石に避け切れなかったようでアルピナが初めて火球を被弾し、爆発でよろける。

「こ……の……」

「そこだ!」

 怯んだアルピナの肩に再びカルティスの矢が突き刺さり、反応が遅れた。さらにそこへ向かってセプティムが一気に突進し、三日月刀シミターを振るう。

 目にも止まらぬ早業でアルピナの左腕が叩き落とされ、地面に片手半剣バスタードソードと左腕がぼとりと落ちた。見事なまでの一撃でアルピナの顔に驚愕の表情が浮かんだ。


「ガァアアアア!」

 そこへジャジャースルンドの槌矛メイスの一撃がアルピナの胴体を横なぎにとらえ、アルピナはそのまま廃屋の瓦礫の中へと吹き飛び、轟音とともに瓦礫を巻き上げた。


「やったか?!」

「手応えはあった」

「危なかった……あんな力があるとは思わなかったよ」

 カルティスの言葉に、セプティムが疲れ切ったように三日月刀シミターを地面に軽く刺し、しゃがみ込む。

 ジャジャースルンドも流石に緊張の糸が途切れたのか、深いため息をついた。

 そこへ吹き飛ばされていたジャクーがバーバランドラに肩を借り足を引きずって戻ってきた。

「軽く気絶してしまっておりました、申し訳ない」


 そんな気の抜けた瞬間、不気味な笑い声が響いた。

「フフフ……ここまでやるとはね……」

 紛れもないアルピナの声だった。

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