第86話 後日談 望月と三木①
「根岸じゃないか!」
新宿を歩いていると、急に背後から大声で呼ばれた。驚いて振り返ると、人混みを掻き分けて長身の女が側までやって来る。
「……久しぶりだな。望月」
「なんで嫌そうな顔をするんだ!私は久しぶりに会えて嬉しいぞ!!」
「……声がデカい」
「ははは!意外とシャイだな!根岸は!」
デカい声が迷惑だということが伝わらなかったらしい。手強いやつだ。
意気揚々と話す望月に気付いた通行人達が足を止め、遠巻きにこちらの様子を窺っている。そう、望月は今や有名人なのだ。
猛獣ハンター望月。
世界中の猛獣に身体一つで挑み、最終的にはいつも手懐けてしまう。老若男女から絶大な支持を集める稀有なテレビタレント。それが今の望月だ。
若い男がスマホをこちらに向け、堂々と撮影している。全く失礼な奴も居たものだ。お仕置きが必要──
「おいっ!男!」
望月の声に驚いた男がスマホを落としそうになる。
「私は望月だ。お前の名前はなんと言う?」
「えっ」
「なんだ、名前がないのか?可哀想なやつだな。私が名付けてやろう!」
「えっ、いや」
「うーん、そうだな。望月を盗撮する男だから、モチ撮り太郎だ!」
「ひっ、ご、ごめんなさい!」
男は慌てて向きを変えて去って行ってしまった。
「名付けてやったのに、失礼な奴だ!」
そういえばテレビ番組でも手懐けた猛獣に必ず名前を付けていたな。望月は。
「根岸、これから暇か?」
「いや──」
「そうか!暇か!実はこれからある所に行くのだが、1人で行くのつまらないのでな。一緒に行こう!」
こいつ、今更だが全く話を聞かないな。勝手に人の腕を掴み、望月は歩き始める。
「何処へ行くつもりだ」
「実は三木が店を始めたらしいんだ。新宿で」
それは面白そうだ。
#
「三木、いるか!」
インターホンがあるにもかかわらず、望月はドアを叩く。
「三木!いるのは分かっているんだぞ!」
新宿の雑居ビルの一室。望月曰く、三木はここで店を始めたらしい。望月が散々騒いでいても、中から人の出て来る気配はない。
「……留守みたいだな。帰ろう」
「いや、帰らない!三木が出て来るまで私は待つ」
勝手にしてくれ。そう言って帰ろうとした時だった。腐食した鉄階段に足音が響き、怪しい覆面をつけた男が現れた。
「おお、三木!」
望月が叫ぶ。
「この覆面野郎が三木なのか?」
「この匂いは三木に決まっているだろ!」
当然という顔で望月は返す。こいつ、匂いで人を判断していたのか?
「望月さんには敵いませんね」
男は覆面を外した。その顔は三木だ。
「お二人とも、お久しぶりです。狭い店ですけど、どうぞ」
そう言って三木が鍵を開けたのは、望月が散々叩いていたのとは別のドアだった。
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