第66話 音信不通
久しぶりのリリパット駐屯地は活気に溢れていた。カオスサーガと日本エクスプローラー協会の両方から支援を受けている影響だろう。店には物が溢れ、兵士達が武器や嗜好品を前に頭を悩ませている光景を何度も見かけた。
「パイセン、駐屯地ってもう完全に日本円が浸透してるんすね」
和久津が呆れたように言った。
「少し前まではまだ魔石が通貨代わりだったがな。兵士に円を配るようにしたら一気に浸透した」
「リリパットが万券握ってるのシュールっす」
「生まれた子供に"ユキチ"と名付けた親もいるそうだ」
「……影響力ありすぎっしょ」
集会所の近くまで行くと、マレーンが出てきて頭を下げた。
"順調そうだな"
"はい。根岸さんのおかげです。奴隷の件もありがとうございました。皆、喜んでいます"
"帝国に行ったついでだ"
"ありがとうございます"
"俺のいない間に何か変わったことはあったか?"
"そうですね。ちょっかいを出して来たオークの集落を攻め落としたぐらいで、特にこれといって──"
「根岸君!待っていたよ!」
マレーンとの【念話】に割り込むように声を掛けられた。見ると中肉中背の日本人がこちらに向かって歩いていた。
「……誰だ」
「日本エクスプローラー協会、異世界課の轡田だよ!ちょっと、冗談が過ぎるぞ!根岸君」
本当に一瞬誰だか分からなかった。
「帰ってきて早々で申し訳ないが、実は不味いことになっていてね、ちょっと相談させて欲しい」
「何の件だ?」
「……エジン君と三木君の件だ」
「分かった。中に入ろう。和久津も一緒にこい」
「えー。自分もすか?もうしばらく厄介事は勘弁なんですけど」
「髪、元に戻してもいいんだぞ」
「行きます!」
######
「2人からの連絡が途絶えたんだ」
集会所の椅子に座るやいなや、轡田は切り出した。
「連絡?」
「ああ。隠していても仕方ない」
そう言って轡田はマジックポーチから箱を取り出し、テーブルに置いた。
「これは【転移】の筆入れだ。機能は君の持っている【転移】の葛籠と一緒だ」
「協会も持っていたんだな。【転移】の魔道具を」
「手に入れたのは割と最近だがね。で、この魔道具を使ってエジン君や三木君と連絡を取っていたんだが、ここ2ヶ月、向こうからの応答がない」
「最後の連絡は?」
「これが送られてきたのが最後だ」
轡田が見せたのは三木の鼻ケース。羞恥心を封印する為に付けていたものだ。三木は開心剣の【入換】のスキルで奴自身の鼻と股間の認識を入れ換えたままだ。
「私にはこれが送られてきた意味が分からないんだが……」
「三木が鼻ケースを外すような事態が発生したと言うことか。不味いかもしれん」
「そうなのか!?」
轡田が狼狽える。
「2人はどの辺を旅していた?」
「アルスター王国の王都に滞在していた筈だ」
次はアルスター王国か。
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