第56話 種

コニーの加護の力が発動してから3日後。薔薇の間のテーブルの上にはコニーが生み落とした種が置かれている。関係者がその種を手に取り、あーでもないこーでもないと頭を悩ませているところだ。


現状、この種についてわかっていることは少ない。コニーの心配事が溜まると生み出されること。この種が生み出されるとしばらくはコニーが落ち着くこと。明らかなのはこの2点だけ。つまり、この種自体の使い道は分かっていない。


コニー曰く、この種を土に植えても芽が出たことはないらしい。今まで色々試しても全部駄目。おかげでコニーは使えない、面倒くさいだけの加護持ち奴隷として地雷扱いされていたのだ。


種を手に取って握り、力を送るようにイメージする。一瞬、力を吸われるような感覚があるが、結局なにも起こらない。


「パイセン!その種、食べてみたらどうなるんすかね?」


和久津が冗談っぽく言った。


「コニーの前の主人が試したそうだが、そのまま下から出てきたそうだ」


「まんま梅干しの種っすねー」


「ほほほ。ならば、誰かのお尻に入れてみるのはどうでしょう?」


「それも前の主人が自ら試したそうだ。やはりそのまま出てくるだけだったそうだ」


「前の主人、何やってんすか!」


「何度も試したので間違いないらしい」


「それ、目的変わってません!?」


コニーは黛の横に座らされ、ずっと耳を撫でられている。この3日で随分と仲良くなったものだ。若干、コニーは上気しているように見えるが気のせいだろうか?


「……あの」


五条が控え目に声を上げた。


「何だ五条?」


「……単純に発芽条件を満たしていないだけでは?」


「水と酸素と温度、あとは光ぐらいか。この辺は流石に今までも試してもいるだろう。何か別の要素は思い付くか?」


「……この種って要は心配事で固められているんですよね?だったら安心でほぐせば芽吹くのでは?」


「具体的にどうやるつもりだ?」


「…… コニーさんはずっと【隷従】スキルで縛られていた筈です」


いつの間にか黛はコニーの耳を触るのを止め、尻尾を触っているらしい。テーブルに隠れて見えないところで動いている気配がある。コニーの顔は相変わらず赤い。


「……今はそれから解放されて、凄く安心して身を委ねているように見えます」


安心はともかく、身を委ねているのは間違いないな。


「……コニーさんに種を握ってもらいましょう」


五条が立ち上がり、コニーへ種を届けた。コニーは促されるままに、種を受け取る。


「おっ、ひかったっす!」

「ほほほ!」

「……綺麗」


コニーの手のひらで種が青白く輝いている。これは加護にまつわる光だ。


「黛。手を休めるなよ」


「分かった。加速する」


テーブルの下で何が行われているのかは謎だが、種はどんどん輝きを増していく。


「あっ」

「これは」

「……芽が」


一層強い光が放たれた後、ついに種から芽が出た。

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