第23話 アーカイブ

"ここにおんしの言うアーカイブとやらがあるのか?"


ルベリートがフードを被ったままタワーマンションを見上げた。ここは都内湾岸エリア。再開発が進んでいる地域で、似たようなタワーマンションが幾つも並んでいる。


"そうだ。アーカイブには地球のエロスの全てがあると言っても過言ではない"


周囲には人影がない。チャンスだ。小洒落た生垣まで移動し、しゃがんで身を隠す。


"しばらく【念話】が出来なくなるが、俺について来れば大丈夫だ"


"なんでじゃ?"


"いいから黙ってついてこい"


"了解じゃ"


久しぶりに【変身】し、指紋認証をパスしてマンションのエントランスに滑り込む。目指すは18階。エレベーターの浮遊感にルベリートが騒いでいる。


もう一度指紋認証を抜けて目的の部屋に入ると、事前の情報の通りで主は留守だ。


書斎に行くと目当てのPCがデスクの下に鎮座していた。隣にはエンタープライズモデルのNASもある。コイツがアーカイブの本堂だ。


顔認証でPCにサインインし、やっと【変身】を解く。


PCからNASにアクセスすると、膨大な量の動画が詳細にカテゴリ分けされて保存されていた。一般的なものからマニアックなものまで、何十ものカテゴリ分けにはアーカイブの主の強いこだわりが感じられる。


"コイツがアーカイブだ"


"おおおぉ!遂に辿り着いたか!ここに地球のエロスが?"


俺は黙ってルベリートにヘッドフォンを手渡し、オフィスチェアに座らせた。


"ここに、地球のエロスが映し出される。心して観よ"


メディアプレイヤーの再生リストに各カテゴリから見繕った数十本の動画をブチ込み、再生する。


ルベリートは早速モニターに釘付けだ。冒頭シーンだけで声を上げて大袈裟なリアクションを取る。俺は三脚にビデオカメラをセットしルベリートの様子を収める。ACアダプターに繋いでおけばバッテリーも大丈夫だろう。


"この部屋は好きに使っていい。明日迎えにくる"


ルベリートは返事すらしなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る