第13話 事変
「זה קשה!」
門番の男が広場に来て叫んだ。すぐにビビる小心者ではあるが、どうやらいつもと様子が違う。俺を見つけて駆け寄り、必死に何かを訴える。
"どうした。またいつもの臆病風か?"
"ちがう!狩に出ていた奴等が人間に襲われた!酷いんだ!来てくれ"
全く、こいつらは俺のことを何だと思っているんだ。一度きっちりと教えてやらねばならんか。そう考えながらも門番の気迫に押されて駐屯地の入り口まで行くと、背中に矢を受けたリリパットの男が地面に座り込んで唸っている。見事な落武者っぷりだ。これは和久津に見せてやらねば。
"ちょっと!何をやってるんだ!早く助けてくれ!"
貴重なリアル落武者をビデオカメラに収めていると、門番が五月蠅い。これぐらいでは死なないというのに、大袈裟なやつだ。
"お願いします!助けてください!"
十分撮れたところで落武者の背中から矢を引き抜いてハイポーションをぶっかける。大盤振る舞いだ。
"どうだ。痛みは治まったか?"
"あ、ありがとうございます"
"こちらこそ礼を言う。本物を見たのは初めてだ"
"本物?"
"こちらの話だ。それより何があった?"
痛みが落ち着いた頃なのに、落武者は表情を曇らせた。
"……仲間が2人、人間に捕まってしまったんです"
"どこでだ?"
"ダンジョンの近くです"
"その人間は変わった言葉を話していたか?"
"いえ、アルナ語です"
アルナ語はこの星の共通言語だ。この星の名前、アルナ星からきている。
"お前は逃げてきたのか?"
"……はい"
"責めているのではない。むしろお前が逃げ帰ったことで、その2人は助かるかもしれない"
"……"
落武者がぐっとこらえている。
"門番、グランピーを探してこい。今日は休みだ。自分の家で酒でも飲んでいるだろう"
"は、はい!"
門番は弾けるように走っていった。急げと言った覚えはないが、なにかを感じたのだろう。
"追手はいたか?"
"途中まで追われましたが、まいた筈です"
とはいえ、人間にこの駐屯地が知られるのは時間の問題だ。ちょうどいい。
「黛。いるか?」
「いる。何かあった?」
後ろから声が聞こえ、振り返ると黛が首にぶら下がってきた。
「ああ。面白いことになってきた。どうやらダンジョンの近くで人間に襲われたらしい」
落武者に一瞥をくれると、更に小さく縮んだ。今にも消え入りそうだ。
「エジン達?」
「いや、どうやら違うみたいなんだ。悪いが見てきてくれないか?」
「わかった」
黛の姿が消えた。落武者が何度も瞬きをして辺りを見渡すが、もちろん見つけることは出来ない。
「ネギシドノ!」
赤い顔をしたグランピーが連れられてきて、調子良く日本語を発した。大分上達したな。
"グランピー、酔いをさませ。早ければ明日にも出兵だ"
グランピーはさっと青ざめたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます