第40話 そこはファミレスだった

「………ン」


「……セン」


「…パイセン!!」


どこか遠くから呼ばれている。この声は和久津だ。


「大丈夫ですか!根岸さん!」


これは五条だな。だんだんと状況が分かってきた。俺が顔を上げるとそこはファミレスで、気を失っていたのは一瞬のことらしい。


「大丈夫ですか?パイセン」


「ちょっとクラクラするが大丈夫だ」


「よかった」


五条が安堵の表情を浮かべている。


「で、どうだったんです?」


和久津が好奇心剥き出しで聞いてきた。わかりやすいやつだ。


「まずこの魔剣だが、非常に体力を消耗する。【開心】がやばいのだろう」


「なるほど。それで気を失ったんすね」


「いや、気を失ったのは魔剣に体力を奪われたからじゃない。入ってくる情報量の多さに脳が悲鳴を上げてブレーカーが落ちた感じだ」


五条が困ったような顔をしている。


「大丈夫だ。意識を失ったから五条の記憶はなにも入って来てない」


「……そうですか」


なんとも言えない表情だ。


「で、もう一度検証したい。後でポーション渡すから付き合ってくれ。五条」


「え、大丈夫なんですか?」


「わからない。が、試す価値はある」


「本当にいいんですか?」


「良い。最悪でもさっきと同じように気を失うだけだ。大した話ではない」


「……分かりました。行きます!」


俺は開心剣を握って構えた。五条がまた剣先に指を滑らす。ほんの僅かだけ、血が滲んだのが見えた。


「大丈夫っすか?」


少しだけ力が抜けたが全く問題ない程度だ。これは検証が上手くいった。


「五条。お前の今日の朝食は野菜ジュースとプロテインバーだろ?」


「は!はい!合ってます!」


「昨日の夕食は友達と一緒にパスタとサラダ」


「凄い!その通りです!」


何故だか知らないがとても嬉しそうだ。


「おお!なんかすげーっす!何をどーしたんすか?」


「簡単に言うとフィルターをかけた感じだ」


「フィルターすか?」


「そう。フィルターだ。最初は五条の記憶をまるっと読もうとしたら処理しきれなくて脳が落ちた。2回目は読み取る記憶を明確に絞ったんだ」


「それが最近の食事ってことなんですね?」


「そういうことだ」


「面白そうっすね!パイセン!自分もいいっすか?」


「いいだろう。軽く指先を当ててみろ」


緊張するー。と言いながら和久津が剣先に指を滑らす。やはり少しだけ血が滲んだ。


さっきよりも力が吸われる感触がつよい。読み取った記憶が多いからだ。


「ど、どうっすか?パイセン!今日の朝食は……」


「和久津は中学3年生の時に学年で1番人気があった女子に告白して、えっ、誰?と言われた」


「ちょっと!何を読み取ってるんですか!」


「和久津の失恋の履歴だ」


「どんなのがあるんですか?」


五条がノリノリだ。


「そうだな。1番最近だと新宿の冒険野郎近くのカフェ、三毛猫社の店員に……」


「ああああ!止めて!止めてくださいよおお!」


「という感じだ」


「ふふふ。そんか感じなんですね。分かりました」


「でもな、五条。今でこそ和久津はハゲ散らかしていて見た目も残念に感じるけれど、よくよく見ると顔は悪くないし体型も普通なんだ」


「あー、そうですよね。目鼻立ちもはっきりですし」


五条が同意する。少し意外だ。


「そう。でも振られ続けているってことは内面の問題なんだ」


「ちょっと!なんで人格否定が始まったんですか!」


「和久津。何故今まで振られ続けてきたか知りたくないか?」


「えっ」


「お前の過去全ての失恋経験を知っている俺が相談にのってやろうと言っているんだ」


「……お願いしてもいいっすか?」


「よし。3万だ」


「金取るんですか!しかも高いし!」


「五条、高いと思うか?」


「ギリギリ出せるかも。しれません」


ふむ。開心剣に慣れる為にはちょうどいいかもしれない。

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