二十一話 他の準備
「意外と普通のデートに纏まったんだね」
水族館に行くことを決めてデートプランを纏めたその日、俺は早速大河にそのことを報告していた。
俺が立てたデートプランを一通り聞き終えた大河は、彼の予想と違っていたのか少し驚いた様子でそう零した。
「俺がどういうのを考えると思ってたんだよ」
「そうだな……、例えば公園で一日過ごすとか? お金はかからないからね」
「俺が金のことしか考えてないと思ってるだろ」
「え、違うのかい」
「ちげぇよ!」
きょとんとした表情で愕然とする大河に思わず突っ込みを入れる。
心外だ。
ただ自分の中で比重が大きいというだけのことだ。
俺が突っ込みを入れると、大河はくすくすと笑った。
「まあ、でもデートプラン自体はいいと思うよ? 七星さんがどう思うかはわからないけど、普通の人は特に不満はないんじゃないかな」
「そうか。ならよかった」
雑誌と今朝見た夢を頼りに考えたプランだったが、大河には好感触だったようだ。
問題は彼も言った通り七星さんがどう思うかだけど……ま、そこはなるようになるしかない。
「それにしても、どうして水族館なんて? そういうの、悠斗は一番興味がないと思っていたよ」
「どうして」
「だって、そんなのを見てどうするんだよって言いそうじゃないか。お金の無駄だってね」
「……お前が俺のことをどういう目で見ているのかはよくわかった。俺は使うべきだと思ったときは惜しまない」
確かに俺は普段から金のことをよく言っているが、別に守銭奴なわけじゃない。
金の価値を重要視しているだけであって、だからこそその価値があるものには金をかけるべきだとは思っている。
もちろん貯蓄はあるに越したことはないが、どうせ使う時は一瞬で消えるものだ。
そこに拘っていると使うべき時に使えない。
大事なのは使うべき時に使うこと、使うべきでない時に使わないこと。
その価値判断だ。
俺がむすっとしていると、大河は肩を竦めた。
「つまり悠斗にとって水族館は使うべき時だったってことだろう? それが意外だったって話さ」
「少し飛躍しているように気もするけど、その通りといえばその通りだな。……ま、俺だって水族館に行きたくなるとことぐらいあるだろ」
適当に誤魔化しながら答えると、大河は不思議そうにするだけでそれ以上は追及してこなかった。
まさか夢で見たからとか、そんなことを言えるはずもない。
「とりあえずデートプランについて纏まったようで安心したよ。後は他の準備もしないとね」
会話にひと呼吸おいてから大河がそんなことを言ってきた。
「他の準備?」
「そうそう。女の子が化粧をするみたいに、男もデート前は準備しておかないと。デート用に新しい服を買うとか、後は……美容院に行って髪を整えるとかね」
「新しい服と髪、ね」
七星さんの家でファッションセンスを否定されたことを思い出して思わず苦い顔をする。
「服はそれこそマネキン買いをすればいいよ。折角のデートなんだし、ここは使うべき時じゃないかな」
「……わかってるよ」
俺の考えを引用しての説得に俺は両手を上げた。
あとは髪もか。
デートっていうのは金がかかるなぁと俺は改めて思った。
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