第40話 VSゴブリンたち

<いやー、盛り上がってますねー>


 そりゃ盛り上がるよなあ。で、俺のゲームプレイに入ると、めっちゃ盛り下がりそうなんだけど……


『では、そろそろ無人島に中継を繋ぎましょう』


『行ってみよ〜!』


<繋ぎますよー。5、4、……>


『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』


『魔女ベルよ。よろしくね』


「ようこそ、ミオン、ベルさん」


「ワフン!」


 ルピを抱え上げ、カメラに向かって挨拶をする。

 まあ、ルピが映ってれば見てる人たちも納得してくれるだろうし、気にせずゲームに集中しよう。


『今日はどういうゲームプレイを予定してますか?』


「東側の密林の奥にあるゴブリンたちを一掃しようかと」


『一人でなの?』


「はい。そのためにいろいろと準備はしたし、ルピもいるんで」


「ワフッ!」


 任せろと吠えるルピをおろし、ゆっくりと東側へと向かう。


『無理はしないでくださいね』


「りょ。まあ、やばくなったら逃げるよ」


 最悪、逃げ出す時の準備も出来てるけど、結局、出たとこ勝負なんだよな。


「あ、この先、話振られても返事できなくなるかも。ごめん」


『はい。頑張ってください!』


『健闘を祈るわ』


 このやりとりも事前に言うようにヤタ先生から指示されてたこと。ちゃんと視聴者にも伝えておかないとってことらしい。


<スタジオの二人の音声を下げますねー>


 ヤタ先生の声に軽く頷く。


『ショウ君のキャラレベルはいくつなのかしら?』

『今、レベル7って聞いてます』……


 さて、やりますか……


 ***


 見える範囲にいるゴブリンは見張りに3匹。広場の中央付近で焚き火を囲んでるのが10匹ほど。

 その奥に切り立つ崖には洞窟があって、今までも何度かそこに出入りしているのを確認している。巣穴っていうのが正しいのかな。

 固体の判別がつかないのでなんともだけど、多分、全部で20匹ぐらいのはず……


 気配遮断スキルのレベルが上がっているせいか、気づかれている様子はない。見張りはぼーっと突っ立ったままだ。


 右手に握った石を、一番近い位置にいる見張りゴブリンに向けて思い切り投げる。

 石は20mほど先にいるそいつの側頭部に直撃した。


「ギャッ!」


 短い悲鳴らしき声をあげ、そのまま倒れるゴブリン。


『いい投擲でしたね!』

『フォーシーム、伸びのある速球だったわ。さすがドラ1ルーキーね』


 そして、他の見張りゴブリンたちや、広場にいたゴブリンたちも異変に気づく。


「ギャギャ!?」


「ギャギャギャ!」


 倒れた同胞に駆け寄るゴブリンたち。そして、あたりを見回し、当然のようにこちらに気づいて叫ぶ。


「ギャギャー!」


 俺の方を指さしたゴブリンに思い切り石を投げつける。さすがに避けられるだろうと思っていたそれは、顔面に直撃してそいつを昏倒させた。


『ナイスです!』

『投擲、意外と当たるのね。投射型の魔法なんかも関係するのかしら?』


「よし、ルピ。行くぞ」


「ワフ」


 わざと物音をたて、背中が見えるようにして逃げに転じる俺たち。当然、釣りのための行為だが、ゴブリンは面白いように並んで追いかけてくる。


『ここからどうするんでしょう?』

『戦力を分散させて各個撃破がお約束でしょうけど、ちょっと追いかけてきてる数が多いわね』


 まずは追いかけてくる十数匹を分散させる必要がある。その手段は……


「ギャ?」


「ギャーギャ」


 姿を隠して気配遮断を使うと、ゴブリンはあっさりと俺を見失う。そして、おそらく「あっちだ、いや、こっちだ」ってな感じで揉め始めた。


『うまくまいたようです』

『追いかけてきた数が多かったから、捜索に分かれるのを待つのかしら?』


 美姫の、セスのライブを見せてもらった時も思ったが、モンスターのAIが本当に生物っぽいなと感心していると、南東にある茂みの向こうからガサガサという大きな音が聞こえる。


「ギャッ!」


 その音を聞きつけたゴブリンたちはそちらへと向かう。が、当然、それは罠だ。


「シャー!」


「ギギャー!」


 茂みのあたりを探していたゴブリンの1匹から悲鳴があがった。


『え? 何が起こったんです?』

『何かあそこに別のモンスターがいたみたいね。これも最初から狙ってた?』


 サローンリザードに襲われたのだろう。スネアトラップにかけて捕まえてあったのを、あのあたりに繋いで放置してある。

 ゴブリンたちは個々のレベルからして、サローンリザードには数体が協力して当たらないと勝てない。襲われたゴブリンは……食われたかな?


【罠設置解除スキルのレベルが上がりました!】


 今上がってもなとは思うけど、まあまあそれはいいや。あれもスキル経験値に入るのは予想外だったけど。


 蜘蛛の子を散らしたように、あちこちへと逃げていくゴブリンのうち、集落の方へと戻ろうとするやつを仕留めないといけない。


『ゴブリンたちがばらけました。ベルさんだとどうしますか?』

『広場に戻って行く連中を先に倒したいところね。増援を出されるのは厄介だもの』


 他の連中は後回し。この辺りに仕掛けてある別の罠にかかってくれるのがベストだけど。


 先回りして、広場へと戻る獣道に仕掛けてある罠を確認する。ゴブリンたちが離れていくときは使わなかった罠を作動させるために。


「ギャッ、ギャギャ」


 3匹のゴブリンが走ってくるのを確認し、タイミングを見計らって……蔓を切る。


 ヒュンッ! ゴッ!!


 ギリギリまでたわませていた仙人竹がまっすぐに戻ろうとし、その軌道上にあるゴブリンたちを吹き飛ばした。想像以上にやばいなこれ……


『すごいです!』

『無茶苦茶ね。スリーランホームランって感じかしら……』


 呆けてる暇もないので、立ち直る前にさっさと止めを刺していく。解体と戦利品の回収は後回し。一応、目立つところに落ちてたナイフと棍棒だけ回収して次へ。


「ワフ」


「オッケ」


 ルピが次のターゲットを見つけたっぽい。そりゃまあ、狼の方が気配感知は上だよな。


 ………

 ……

 …


「ヴヴゥ〜」


 ルピが四肢を踏ん張って唸る。普段からは想像できない闘争心剥き出しの顔をしてるんだけど、それでも可愛いんだよな。


『ルピちゃん、がんばれ!』

『怒った顔も可愛いのよね』


「ギャ……」


 ルピに襲いかかるかと思ってたんだが、ジリジリと後ろに下がっていく。もうルピの方がゴブリンよりも強いってことだよな、これ。


「バウッ!」


 ルピが吠えた瞬間に、ゴブリンの足元に敷いてあった蔦を引っ張って両足を絡め取る。


「グギャ!?」


 うつ伏せに倒れたゴブリンの首筋をダガーでぶっすりやって終了。


『……このゲームってMMORPGだったわよね?』

『はい』

『ダンボールに隠れるゲームじゃないわよね?』

『はい?』


 ふう……、これで最初に釣り出した16匹全部片付いたかな。


 サローンリザードにやられたのが2匹、スネアトラップに吊られたのが5匹、仙人竹を使ったブービートラップから止めをさしたのが4匹、ルピと連携して絡めとったのが5匹。


「ふう、あとはあの広場に残ってる奴らだけだよな」


『やりましたね!』


 急にミオンの声が聞こえてきて驚く。

 集中してて聞こえてたけど聞こえてなかった? まあいいか……


「あー、釣ってきたのはね。あの広場と奥の洞窟に何匹か残ってるはず」


『残り、油断しちゃダメよ?』

『ショウ君なら大丈夫ですよ』


 時間的には30分ぐらい経ってるかな? まだリポップはしてないと思うけど、早めに洞窟内のゴブリンを倒してクリアフラグを立てないとだよな。


「もうちょっとだし、頑張ろうな」


「ワフン」


 小休憩にルピに兎肉を切ってあげる。

 美味しそうに食べるルピを撫でつつ、ここから先は普通の戦闘になるんだよなと気持ちを切り替える。


 そういえば、自分はHPが尽きたらセーフゾーンの砂浜にリスポーンするんだろうけど、ルピはどうなるんだろ?

 ロストは多分しないと思うけど、万一のことを考えると絶対に無理はさせられないよな……

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