第39話 ライブスタート!

「ばわっす」


『ショウ君』


 ちょっと早め、8時15分前にバーチャル部室に入ると、すでにミオンがスタンバっていた。

 初ライブを前に緊張してる風もないし大丈夫そう? 普段の極度の人見知り感はなんなんだろ……


「昼にベル部長がライブ予定地って話をしてたけど」


『はい。用意はできてるので、部長と先生に確認してもらう予定です』


 そう言って見せてくれる画面には色々と設定が載っている。解像度、ビットレート、遅延といった細かい設定は、ベル部長とヤタ先生がやってくれた値のままだろう。

 俺が見てわかる場所というと、8時30分スタート、チャンネル登録者だけがコメントでき、そのコメントはテキストのみってぐらいかな。


「二人とも早いわね」


 ベル部長が現れて席につくと、俺たちが確認していたライブ設定を見てくれる。

 ふんふんと頷いて特に問題はなさそう。


「設定はこれでいいと思うわ。あと、タイトルバック的なものは用意してある?」


 なにそれって感じなんだけど、よくあるライブ始まる前の「準備中〜」みたいな表示らしい。


『思いつかなくて、相談しようと思ってました』


「まあ、今回は無しでいいのかもしれないわね。視聴者に募集するなんて手もあるし」


 とベル部長。自身のチャンネルも、タイトルバックやヘッダー画像はファンから送られた絵を使わせてもらってるんだとか。


「お待たせしましたー」


「こんばんは」


『こんばんは。今日はよろしくお願いします』


「ばわっす」


 ヤタ先生が登場。お待たせといっても8時を少しまわったところ。

 さっそくライブ予定地の設定を確認してもらい、ライブ前後のタイトルバックについて話してたのを伝える。


「そうだろうと思ってたのでー、暫定を用意してありますよー」


 ヤタ先生が取り出したのは、木曜に公開した動画からルピのアップを切り出した絵。


『可愛いです』


「破壊力やべぇ……」


「反則よねえ」


 それをセットして最終確認も終わり、ライブ予定地を公開すると……


「えええ……、もう待ってる人いるよ……」


「チャンネル登録して通知をONにしておけばすぐわかるもの。そんなものよ」


 ベル部長があっさりと答える。

 部長の場合、開始前にほぼほぼ1万人ぐらいいるらしい。


「ミオンさん、緊張してませんかー?」


『少しだけ。でも、大丈夫です』


「私はショウ君の方が心配だわ。ぽろっとリアルのことを言わないようにね?」


「りょっす……」


 ベル部長に話しかけられた時に注意しないとなんだよな。普通に「ベル部長は〜」とか言わないようにしないと。


「じゃー、そろそろ準備しましょうかー」


『はい』


「りょっす」


 ミオンとベル部長はスタジオへ。俺はIROへ。

 ヤタ先生はここからライブを見つつ、モデレーター権限でライブ全体をマネージメントしてくれることになっている。


 ベル部長曰く、ライブ慣れしてくると視聴者側にもチャンネルのお作法がわかってくるので、モデレーターが目を光らせるのは最初のうちだけらしい。

 それがチャンネルの特色にもなるそうだけど、ミオンのチャンネルはどうなるんだろうな……


 ………

 ……

 …


<全員聞こえてますかー>


「はい」


『『はい』』


 ヤタ先生の声はグループ通話で聞こえるだけ。当然、俺のゲームの方にもミオンのライブ放送の方にも乗らない。


 俺のIROからミオンへの限定配信はすでに開始されていて、視聴者数は1になっている。

 その映像と音声はミオンのスタジオに届いているが、スイッチャーでスクリーンに映ってないだけの状態。のはず……


<最初はミオンさん一人で始めてー、次にベルさんを解説として招きますよー。そこで紹介が終わったらー、いよいよショウ君とルピちゃんの出番ですー>


 先生から段取りの再確認が行われる。

 ミオンの初ライブの挨拶の後、ベル部長が解説として呼ばれて、そこでしばらく雑談してから、やっと俺の出番だ。


「ワフ?」


「今日は結構ハードだけどよろしくな」


「ワフ〜」


 出番まではルピをモフって心を落ち着けよう。いや、その前にご飯かな。腹が減ってはってやつだ。


<本番まで後5分ですー。すでにライブ待ち人数は3000人近いですねー>


 やべーな……。これで途中から「魔女ベルが出てる!」ってなると1万人は確実?

 心を落ち着かせるように兎肉のミンチを作り、ルピが美味しそうに食べるのを見守る。


<本番開始1分前ですー>


 ……


<10秒前……、5、4、……>


『みなさん、こんばんは。そしてライブでは初めまして。ゲームミステリーハンターのミオンです。よろしくお願いします!』


 しっかりしたミオンの声が聞こえてくる。それでもちょっと緊張してるっぽい? いや合成音声にそこまでの機微は無かったよな。

 俺自身、コメントがどうなってるのか全然見れないんで不安……


<どのコメントも好意的ですしー、気になるものを拾って大丈夫ですよー>


 ヤタ先生の声が聞こえてきてホッとする。


『えーっと「どうやってショウ君を見つけたんですか?」ですけど、これは本当に偶然ですね。

 IROのオープン時にいろんな方のライブを見てました。どの配信も面白かったんですけど、最後に見たショウ君の配信は本当に同じゲームに見えなくて、思わず「これってIROですよね?」って聞いちゃいました』


 あー、うん、そんな感じだったなあ。

 他のIROのライブ見た後に俺のを見たら「え? 同じゲーム?」ってなるか。


<この「他によく見るライブありますか?」からベルさんに繋げてくださいー>


 なるほど。


『他によく見るライブは「魔女ベルの館」ですね。IRO始める前からファンでチャンネル登録もしてます』


 これは本当のこと。というか、電脳部に入る前、特にそんなそぶりも見せない『香取先輩』を見て、声を聞いて『本人?』って気づいたらしい。

 何度も何度も確認して、最終的に手紙を渡したそうだ。なんか休憩時間にちょくちょくいなかったのは、それだったっぽい。


『今日も魔女ベルさんみたいな楽しいライブになればと思います。けど、ショウ君のゲームプレイをちゃんと実況できるか不安で……』


 うんうん、繋がった感じ。っていうか、国語教師のヤタ先生のおかげか、普通に話の持って行き方がうまいんだよな。


『なので、今日はスペシャルゲストに解説に来てもらいました!』


『いえーい! 魔女ベルのIRO解説はっじまっるよー!』


 ホントブレねえな、この人……

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