第28話 ホットケーキミックス

 配信のスタイルはベル部長と同じ。左下にバストアップがあり、その奥にゲーム画面が映ってる。

 俺が美姫のライブでアナウンスを見てから10分も経ってないよな? 


『ご視聴ありがとうございました。このライブ配信はいったん終了し、夜また続きをやりますので見に来てくださいね〜』


 ええっ、無人島スタートしてもう終わり?

 視聴者のコメントもさすがに荒れ始めてる。


【マーサル】「短っ!」

【マンボー】「夜から仕事で見れねえよ!」

【ラッドゥン】「せめてもう少し島を探索してくれ!」

 etcetc......


『続きは夜のライブで! 見逃さないよう、チャンネル登録お願いします〜』


 なるほど、そういうことかあ。

 ゲームドールズって攻略配信がメインだから、ゲームプレイするのもお仕事なんだろうな。大変そうだ……

 とりあえず最初から見直して、無人島スタートだけ確認しとくか。


 配信はキャラメイクの最後、スタート地点の選択から始まっていて、やり方は俺と同じでひたすら拡縮&スクロールで探すやつ。

 ただ、いくつかある無人島の上陸地点から選んだわけではなく、誰かに言われた通りにやってるっぽい。


 場所的には俺がいる島よりもずっと南東。確かにあのあたりにも島嶼があったし、まあまあ候補地としてはトップ10に入るぐらい?

 ただ、あのあたりは大陸から船で来れそうな感じがするんだよな。一年ぐらいで見つかりそうなのでパスした記憶。


 上陸地点は島の西側の海岸。特殊褒賞SPやらをもらったあたりを視聴者に共有。無人島スタートの方法をもう一度説明し終わったあたりで、ちょうど俺が視聴開始だった感じかな。


 正直、これだけだとなんともなんだよなあ。

 ただ、無人島スタートの方法はこれでバレちゃったから、みんな無人島を探すのかな? でも、確実に友達と遊べなくなるし……


 まあいいや。この手のことはヤタ先生やベル部長に相談するに限る。

 時間を見ると3時すぎ。おやつにホットケーキでも焼くかな……


***


「兄上もおやつか?」


「あれ? お前、IROは?」


「小腹が空いたので休憩なのだ。兄上がホットケーキでも焼いてくれるのではと思ってな」


 なんだか思考が読まれてる気がして癪だが、ホットケーキを焼いてやることにする。

 冷蔵庫から卵と牛乳を、戸棚からホットケーキミックスを。

 ボウルに卵を割って牛乳を入れてよく混ぜる。いい感じに混ざったところで、ホットケーキミックスを投入し、今度はさくっと軽めに混ぜる。

 熱したフライパンに投入。弱火で3分ほどでひっくり返していい感じの焼き上がり。


「よしよし、いい感じだな。ほれ、運べ」


「了解した!」


 3枚のうち2枚を美姫に。はちみつを添えて。


「それでどうだったのだ?」


「ああ、無人島スタートをしたプレイヤーがライブしててな。それ見てきたんだけどな」


 見に行ったがすぐ終わってしまい、チャンネル登録を誘導してたのがモヤモヤしたって話をすると、美姫が不思議そうな顔をする。


「どうした?」


「そやつが業者だろうがなんだろうが、兄上は好きにすれば良かろう」


「いや、まあ……そうだよな」


 なんか深く考えすぎか。うん、好きにやりゃいいんだよな。


「うん。ありがとな、美姫」


「お礼なら、またホットケーキを焼いてくれれば良いぞ?」


 そう答える美姫の頭を撫でてやる。

 嬉しそうな顔はいいんだが、口元がはちみつでベタベタなのは小学生っぽいぞ……


***


「ワフッ!」


「おはよう、ルピ」


 飛びついてくるルピをひとしきり撫でてから、あぐらの中へとおすわりさせる。


 一応、ミオンに向けての限定ライブ配信にはしておく。こうしておくことで、出来上がるアーカイブも自動的にミオン限定公開になるから。


 ちなみに、初期に公開してた二つはさっさとミオン限定に変更済み。ひょっとしたら、あれを限定にする前に見られてた可能性があるのか? でも、あれには無人島を選ぶ画面は入ってなかったよな。


 まあいいや。まずはご飯……の前に、テントの外に置いた物どうなってるか確認しないと。


「お、残ってる。やべーな、これ。このあたり全体がインベントリみたいなもんじゃん」


 まあ、作った石かまども残ったまんまだし、誰かに盗られたり壊されたりしなきゃ残るっぽい。

 うーん、倉庫とかも作りたくなってきた……


「ワフ」


「おっと、すまんすまん。ご飯だな」


 ………

 ……

 …


 自分とルピの飯を済ませて、今日のメイン、調薬にチャレンジ。

 ミオンに聞いた話だと、ヒールポーションは原料を綺麗な水で煮込んで冷ます……


「鍋なんてなかった」


「ワフン?」


「うーん、どうしよ……」


 ルピをモフりながらスキル一覧を眺める。

 どうせ料理には鍋が必要になるし、そもそも出来上がったポーションをどう保管するかっていう問題が出てくる。


「んー、これか?」


 目が止まったのは【陶工】ってスキル。陶器を作るスキルなんだけど、こんなのまで用意してあるんだな。

 これがあれば土鍋やら甕は作れそうな感じ。土の選定は鑑定結果に追加されるらしいので、これを取って土を探して……よし! SP1を消費して【陶工:Lv1】を取得!


「ルピ、罠の確認に行くぞー」


「ワフッ!」


 焼き物用の土を探すついでに罠の確認にも行こう。

 土鍋に甕に瓶の類とかいろいろ作ってみるか。ポーション容器も別にガラスの必要性ないもんな。中身の色が見えないけど、それは別の方法を考えるってことで。


 ………

 ……

 …


「は?」


 気配感知に反応があり、何かが罠にかかっているとは思ってたんだけど……


「シャアアアアッ!」


 体長が1m近く、尻尾も合わせればもっとありそうな大きなトカゲ。上半身をガッチリとスネアトラップに締め上げられたまま威嚇してくる。

 トカゲ君は【サローンリザード】っていう名前か。


【鑑定スキルのレベルが上がりました!】


 お? 鑑定が上がってフレーバーテキストが出るようになったっぽい。さらに持ってるスキルに関連する情報も表示してくれるんだ。


【サローンリザード】

『湿った土や腐った木の下に生息する大きなトカゲ。主にサウスネークを捕食するが、空腹時は家畜や人に襲いかかることもある。牙に麻痺毒を持つ。

 料理:肉は無毒で食用可。調薬:毒腺はパラライズポーションの原料になる』


 げっ、毒持ちかよ。今まで遭遇しなかったのはラッキーだったのか……


「ウウーッ!」


 ルピが前のめりになって唸ってるんだけど、毒持ち相手は危ないので無理はさせたくない。というわけで、カナヅチで頭をゴスッと。


【キャラクターレベルが上がりました!】

【調教スキルのレベルが上がりました!】


 うわっ! ちょっと一気にいろいろ上がりすぎだって!

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