8日目(日)

第26話 たまには見る側をやってみる

 日曜日。

 相変わらず、炊事・洗濯・掃除と午前中は家事に追われ、やっと落ち着いた午後。


「さて、IROやるか」


 昨日はあの後、テントの中のガラクタを整理をしつつ、ミオンやヤタ先生と雑談してるうちに10時をまわったのでお開きになった。

 俺的には皿だったりコップだったりと生活に必要なものを作ってるだけなんだけど、そんなものを作ってる人が居ないんだとか。そりゃそうだよなあ……


 VRHMDを被ってベッドにゴロンと横になる。虹彩認証が走ってオンラインになると、通知が一件入っている。


「誰だ? って美姫かよ」


 隣の部屋にいる愚妹からメッセージが入っているのを開封する。


『昼からIROで「ゴブリン集落の掃討」クエストをやろうと思っておるのだが、興味があれば兄上に向けて配信するがどうだ?』


 む、確かにそれはちょっと興味がある。

 島のゴブリン集落は自分の目でもう一度確かめたいところだけど、その前に普通のクエストも見ておきたい。


 フレンドリストを見ると、IROをやってるのはベル部長だけか。ミオンは今日は用事があって、夜にしかオンラインにならないとか言ってたっけ。


 昼のうちに地味な調薬を試しておこうかと思ったけど、まあ、美姫がどういうゲームプレイをしてるかも気になるし、ちょうどいいか。


『見たいので招待よろ』


 そう返信してしばらく待つと、美姫から限定ライブ配信への招待が飛んできた。それを受け入れると目の前に現れるスクリーン。


「あーあー、聞こえるか?」


『うむ、聞こえるぞ、兄上』


 カメラに向かってサムズアップする銀髪ロングの女の子。


「その腰まである髪、鬱陶しくないのか?」


『いや全く。まあ見栄えだけということなのであろう』


「ふーん……。ところでお前、その装備とか凄そうなんだけど、廃プレイしてんの?」


 フルプレートの金属鎧に長剣と大盾っていう、いかにもタンクっぽい装備。かなり金かかってそうな装備なんだけど。


『ああ、これはちょっとしたクエストをクリアした報酬なのだ。たまたま体調を悪くしたご老人を助けたのだが、どうやらクエストだったようでな』


 美姫曰く、キャラを作った後に俺を見つけられず、あてもなくふらふらと街を歩いていたら、細い路地でうずくまっている老人を見つけたらしい。

 明らかに急病人っぽいのを見過ごせず、治療にと神殿まで連れて行き、手持ちの金を全部出して治療を受けさせたのだが……


『その御仁は、どうやら共和国では名のある商人だそうでな。翌日、助けてもらったお礼ということで渡された』


「いやいや、もらいすぎじゃね? 俺は無人島スタートのせいか一銭も持ってなかったんだが、通常スタートだからってそんな装備一式買えるほども持ってないよな?」


『うむ。我も断ろうとしたのだが、どうやらクエスト報酬らしく、強制的に受け取らされていたのだ』


 なんだそれ……


「しかし謎だな。そんなクエストなら、初日組にクリアされてそうなもんだけど」


『まあ、作りたてのキャラでチュートリアルが終わった後に、何もせずに街をうろつくなど普通はせんだろう。

 あと、治療費というかお布施を要求されたので、頭に来て全額叩きつけたのも、何かのトリガーやもしれぬ』


「なるほど。でもまあ、それユニーククエストだろ。相変わらず謎に運のいい奴め」


 その言葉にニンマリとする美姫。こいつの運の良さは本当に規格外っぽいところがあるからな。


「で、お前その装備使えてんの?」


『ああ、こんなものをもらっても使いこなせんと言ったら、戦闘指南まで紹介されてな。一昨日まではログインしては指南を受けることを繰り返していたのだ』


「マジかよ」


 とはいえ、キャラレベルと長剣と大盾のスキルレベルがそれぞれ5になったところまでだそうだ。


『普通にモブ狩りに行くのと大差なかろう?』


「いや、至れり尽くせりじゃねーの? 俺と真逆かよ……」


 ってか、俺よりレベル高いじゃん。俺がいまいちゲームに専念できてなかったのもあるけどさあ。

 よくよく考えたら、俺が無人島スタートなんかしたからこうなったのか? つまり、俺が美姫の運気をあげているという……


『さて、ゴブリン集落狙いの野良パーティーでも組もうかの』


「そういや、配信の俺の声ってお前以外にも聞こえるの?」


『そこはこちらの設定次第よの。今は我だけにしておるが、パーティーメンバーにも聞こえるようにはできるぞ』


「マジか。全然知らなかった」


『ま、兄上がパーティーを組むのは、我がその島に着いた時が初めてだろうからのう』


 そう言って笑いながら街中を歩き始める美姫。っていうか、その前に聞いてないことあったな。


「キャラ名はいつもの?」


『うむ。セスと名乗っておる』


 美姫=プリンセスから取って『セス』ってのがいつものやつだな。

 ずっと野良も大変だろうし、ナットあたりに連絡を取っておくべきかな。知らない相手でもないし。

 あいつは確か帝国で始めたとか言ってたっけ? てか、ここどこなんだ?


「すまん。ここって帝国か?」


『ああ、兄上にはわからんのだったな。ここはウォルースト王国の王都ウォルケル。いわゆる王国でのスタート地点なのだ』


「王国か。人多いな……」


 もちろん、全員がプレイヤーってわけでもなくてNPCも混じってるんだけど、本物の中世の街を歩いてるみたいに見える。


『ここが冒険者ギルドだな』


「すげえ……、完全に役所だな、これ」


『実務としては役所というよりはハロワではないか?』


 ハロワの例えは的確だけどやめろ。どこのプレイヤーにクリティカルヒットするかわからないんだぞ……


「そろそろ黙っとくから普通にしとけ。何か言っても返事しなくていいからな」


 そう伝えると、返事の代わりにサムズアップする。


 建物に入り、巨大な掲示板のようなものの前へと進むセス。

 そこから「ゴブリン集落の掃討」と書かれた依頼票を取って、窓口の方へと向かう。

 普通はこうやってクエストを受けて、それをクリアするってのを繰り返すのか。まあ、モブ狩りとかでもいいんだろうけど、クエストならプラスアルファがあるんだろうな。


 窓口の職員の説明では、このクエストの推奨人数は5人パーティーらしく、セスがやるタンクの他に、近接2名と遠距離攻撃2名を募集したそうだ。同じクエストを受ける人をマッチングしてくれるらしい。


『揃うまでしばらく待てと言われるのだがな』


 併設されている酒場で待つのが一般的らしいが、あっという間に募集枠が埋まった。

 各々、当たり障りのない「よろしくお願いします」的な挨拶を交わされるのだが、その話を聞いていると、現状タンク役が不足しているらしい。


 ……タンク不足だから、ぶらぶらしてたセスをタンクに仕向けたのか、これ?


 だとしたら、かなり細かくプレイヤーの動向を見てたりするのかもなあ。てか、俺の無人島スタートなんて、絶対、運営に監視されてるよな……

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