第17話 食べ物で解決する

「クゥ〜ン……」


 拾った? 助けた? 狼らしき動物は多分まだ子供。体のわりに足が大きいし。

 テントまで連れてきたはいいけど、地べたにってのもなあ。とりあえず流木を集めて、簡易の寝床でも作るか。


「っと、その前に水飲めるかな?」


 自分用に作った雑な木のコップに、元素魔法の浄水で水を注いで目の前に持っていくと……てちてちと飲み始めてホッとする。


『ちゃんと飲んでくれて良かったです!』


「IROすごいね。本物の仔犬拾ったみたいで、めっちゃ焦った」


『ホントですね。見てる方もハラハラしました』


 さて、お次は飯だが……インベントリから兎肉を取り出して、仔犬……仔狼の前に。スンスンと匂いを嗅いだ後、端っこにちょこっとだけ齧り付く。


『肉が大きすぎるんじゃないでしょうか』


「ああ、そっか。さんきゅ」


『いえいえ』


 えーっと、どっかで切りたいけどまな板もない!


「ちょっと待ってろよ」


 ダッシュして東側の海岸沿いを漁り、そこそこに大きい平べったい石をゲット。小脇に抱えてダッシュで戻る。


「お待たせ。まな板がわりってことで……」


 一応、浄水の魔法で水洗いしてから、兎肉を乗せる。細かく……もうミンチとかにした方がいいのか?

 どうせいつかはと思ってたし【料理:Lv1】を取得! これで兎肉をミンチにするぐらいは失敗しないでくれよ……


 初心者のダガーでトントンとぶつ切りにしていって……こんなもんかな?


「食べられるか?」


 木皿に盛って鼻先に持っていくと、ゆっくりだけど美味しそうに食べ始めてくれた。


『可愛いです〜』


「小さい時は特に可愛いよね」


 うちは姉貴が犬でも猫でも恐れられるせいでペット飼えないし、IROでこの子飼えたりしないかね? テイム? 調教?


「ワフ」


「お、元気出てきたか?」


 もう一つ兎肉を取り出してミンチに。雑な粗挽きって感じだが、パックで売ってるような綺麗なミンチ肉にしなくても大丈夫だろう。


『ショウ君ってすごく面倒見良いですよね。妹さんに夕飯作ったりとか』


「え? そう?」


 面倒見が良いっていうよりは、面倒を見させられ続けて、それがもう普通になってるっていうか……なんか悲しくなってきた。


『ショウ君?」


「あ、なんでもないよ。さて、西側の探索の続きに行ってくるかな」


『はーい』


 ついでにこいつの分の兎肉、補充してこないとだな。


***


 仔狼?がいたあたりをうろうろしてみたものの、特にあの子を怪我させたようなモンスターは出ず。

 包帯として使えるっぽい仙人笹を採集。ついでに東側にも足を運んでバイコビットを2匹ゲット。

 テントに戻ってくると、仔狼は安心したのかすやすやと寝ていた。

 どうやらこのまま安静にしてれば良さそうでホッとする。


「今日はここまでにしとくよ」


『はい。ショウ君、お疲れ様でした』


「また明日かな?」


『はい、駅で待ってますね』


 アッハイ。

 ゲームの方のつもりで言ったんだけど、まあいいか。

 IROをログアウトしてリアルビューに戻ってくる。ベル部長ももうオフラインだな。


「兄上!」


「ああ、ちょっと待て」


 VRHMDを外してベッドから起き上がる。部室にあったゲーミングチェアが羨ましい。ああいうのの方が疲れないよな。


 起き上がって部屋の扉を開けると、自分のVRHMDを抱えた愚妹——美姫が不思議そうな顔をしている。


「どした?」


「いや、賢者タイムはもう終わったのか?」


「お前なあ……。で、何の用だ?」


 そう問うと、美姫が俺の椅子に座ってVRHMDをかぶる。まあ、俺も被れってことなんだろうな。


「ここに写っているのは兄上ではないのか?」


 俺が被ったのを確認して、動画を一つ取り出して再生する美姫。その動画は……


「あー……、お前、これ誰にも言ってないよな? さえずったりしてないよな?」


「うむ、兄上だろうと思ったので伏せておる。それに姉上が言っていたのはこの女子おなごのことかと確認しにきたのだが?」


「はー、助かった。しょうもないところから身バレするとこだった。しかし、よくわかったな」


 IROのキャラ名はいつも通りのショウだけど、髪型も髪色も変えたゲームキャラになってるし、喋りだけでバレると思ってなかったわ。


「くっくっく、我の目を誤魔化せると思うなよ。それに、IROにキャラを作ったのに兄上が見つからなかったのでな」


「お前も始めたんだ」


「兄上と遊びたかったところだが悩みどころよのう……」


 チラチラと目線でアピールしてくる美姫。


「あれ部活だし、黙っててもらえると助かるんだけど……」


「それは対価があればなのだが?」


「……明日何が食いたい?」


「サーロインステーキ」


 そう言ってニヤリとして手を差し出してくるので握手。

 大幅な予算超過になるけど、その分は親父に請求しておこう。美姫のためだって言えば通るだろうし。


「まあ、それは良いが、再生数もチャンネル登録者数もすごいことになっておるぞ。珍しい内容なのもあるが、次に期待させる動画よのう」


 そう言われて確認すると。


「え、再生数10万突破してる!? 登録者数も3000近くまで来てるし」


 放課後に確認したときからの伸びがすごいことになってる。やべえ……


「我も登録しておいたからの。それで次の動画投稿はいつになるのだ?」


「うーん、どうだろ。今日、編集作業してたし、明日か明後日には上がると思うぞ。……このことも内緒だからな?」


「わかっておる。我のサエズッターで拡散する必要もないのだろう?」


「ああ、正直、最初の動画がこんなに跳ねるって思ってなかったんだよなあ」


 もうちょっとこう、徐々にって計画だったんだけどな。

 今日の部活であったことを美姫にも話し、俺のプレイがスローライフメインだと伝えておく。


「ふむ。だが、我が兄上のいる島まで行けば遊んでくれるのだろう?」


「前も言ったが、来れたらな?」


「ふむ。すぐには行けぬだろうが、IROのプレイに目標ができた。キャラを作ったはいいものの兄上は見つからぬし、どう遊んだものか悩んでおったのでな」


 そう言って笑う。


「あー、すまん。変なこと言わなきゃ良かったな。てか、お前、友達とかとやんないの?」


「我は受験生なのだが?」


「そうでした」


 周りはこれから高校受験に向けてペース上げていく感じだし、今からMMORPGっていうか、ゲームに誘うのはなあ。


「で、大事な話が聞けてないのだが?」


「ん? まだなんかあったか?」


「このミオンというのが件の女子おなごなのであろう?」


「はい……」


 結局、美姫にミオンのことを根掘り葉掘り聞かれ、それが終わる頃には日付が変わってた。風呂入って寝よ……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る