第251話○華菜恵の引越、秋学期成績発表、そしてBS鶴亀大崎新番組第二弾発表!

 25日は慌ただしい一日になった。

 まず、10時に華菜恵が1703へ引っ越してきた。手伝いで朋夏・明貴子と一緒に1703へ入るとどこかで見たことのある家具と家電が並んでいる。


「あれ?この家具と家電……。」

「うん!ともっちからもらっちゃった!」

「朋夏、気前がいいね!?」

「最初は1701へ全部持っていく予定だったんだけど、あらためて二人用の家具と家電、食器を買ったからね。自分の寝室に置く家具とかお気に入りの食器とか以外は使わないからさ!華菜恵も百合ちゃんも一人暮らしはしていなくて、食器棚とかは買わなきゃだったから欲しいっていってくれてね。それで安比旅行の時に1701じゃなくて1703の方へ移動してもらったんだ。」

「「すごいね!?」」


 こうなるとあまり手伝うこともないのだけど、その分、届いた荷物の開梱などをしておく。


「そういえば、部屋割りはどうするの?」

「ゆりっちと相談して、クローゼットが二つ使えるバルコニー側をゆりっちに使ってもらうことにしたよ。」

「なるほどね!」

「ゆりっち、早く本所属にならないかなあ!」


 雑談しながらだと整理整頓もあっという間だよね!


「ほぼ片付いたよ、3人ともありがとう!」

「「「どういたしまして!」」」

「じゃあ、このあとは1803に集合かな。」

「そだね。朋夏と明喜子はそのまま行く?」

「うん。もうノートPCは持ってきているからそのまま行くよ。」

「私も持ってきてるよ。慧一は先に行っていると思う。」

「じゃあ、華菜恵がノートパソコンを用意出来たら行こうか。」


 実は12時から大学の成績発表があるのだった。同じマンションのみんなで、朋夏の使っていた1803号室に集まって、ランチを食べながらその瞬間を共有することになったんで、移動の話をしていたというわけ。

 イベントっぽくなったこともあったのか、興味を示した紗和もなぜか立ち会うことになったけど、全員無事に単位が取れたのでほっとしたよ。次年度もみんなで授業をあわせて助け合っていこうということを再確認した有意義な一日となった。


 そして、夜には、圭司がいよいよ新作のプロットを作るということで、事務所で自主レッスンをしてから浜松町でいつものラジオに出演したあと、自宅に急いで戻ってあれこれ話をしながら詰めていく。物語のプロットとか、私は初めて考えたけど、いままでやったことのない作業ですごく楽しかった。途中で、今日の動画作成作業を終えた朋夏、事務所でのバイトが終わった慧一くん、さらには早めに仕事の終わった心菜ちゃんにも合流してもらって、いろいろと話をしながら「ヤンデレ聖女ってなんですか!?私は普通の聖女ですよ!?」という新しい作品の大まかな土台ができあがった!

 一通り終わったあと、圭司から物語の説明を書くところに「プロットのとりまとめなどに協力してくれた」という説明とともに日向夏へべす・マスケイ・上水ここな・早緑美愛という名前を入れたいという話があったけど4人とも固辞した。確かにプロットを見て意見は出したけど、それをとりまとめてしっかりとした土台を作ったのは圭司だからね。実際の文章は圭司が書くものだし、名前を出してもらうことではない、ということで4人とも一致したのが面白い。

 あと、ここから先、実際の文章については、作品の連載をワクワクして待ちたいということで、私たちは読まないということにしてもらった。その上で、物語の扉ページに書くあらすじだけは確認をして欲しいということなので、そこだけ読ませてもらうことになった。


 話し終えて、二人だけになったあと、ソファでまったり話をしているとき、圭司にプロット作りがとても楽しかったことを伝えると「そのうち一緒に作詞とかしてもいいかもね。」っていわれて、目からうろこ。そうか、そういう表現の仕方もあるんだね!共同作詞って面白そう!今後の課題にしておこう!


 有意義な一日となった翌日である今日2月26日はBS鶴亀大崎でオンエアされるへべすの番組発表第二弾!ついにへべすがリアルで顔出しをする。同時に西陣つむぎの復帰と私の出演も発表される日だ。圭司は、当初見学の予定だったのだけど、昨日作った大まかなプロットをもっと深めたいということで、自宅で仕事をしていることになった。あとは応援することしか出来ないけど、楽しい作品になるといいなあ。


 この番組は事務所20階のスタジオではなく、天王洲アイルの近くにある大崎エンタテインメントの品川スタジオで朝から午前中一杯掛けて収録、今晩20時から番組公式のMeTubeチャンネルとスマイルチャンネルで配信開始することになっている。実は、完成した私のアバターを見るのも今日が初めてなんだけど、どんな感じなのかな。楽しみ!自宅からタクシーでスタジオに到着すると指定された「バーチャル01スタジオ」へ入る。


「おはようございます!」

「美愛、おはよう。早速だけど、着替えて来ちゃってね。」


 今回の収録、バーチャルサイドについては、モーションキャプチャ用のスーツが用意されている。モーションキャプチャ用のスーツは頭にかぶる帽子や手袋、靴なんかもあって、全身を包まれる感じですごい。リアルサイドはもちろんいつものさみあんモード。

 隣にある更衣室で着替えて、スタジオに戻ると朋夏と彩春、もといへべすとつむぎが沢辺さんと談笑している。二人も私と同じスーツを着ているから先に着替え終わっていたんだね。


「早緑様、おはよう!」

「美愛のその格好は新鮮だね。」

「うん、初めて着た感じだけど、けっこう動きやすいね。」

「確かに!まあ動きやすい代わりに身体の線が出ちゃうけどね。Vとしてライブで歌唱するときなんかは多分その格好だね。」

「あっ、美愛、着替え終わったのね。そうしたらあなたのアバターを確認して。」

「はい!いまいきます!」


 副調整室に入るとモニタに手を広げたアバターが映っている!私そっくりだ!


「こんな感じ。」

「すごい!私そっくりですね!」

「おお!バーチャルの世界に早緑様が!」

「ほんとうだ!すごいね!」

「二人ともありがとう!」

「けっこういい出来になったよね。バーチャルライバーでいきなり3Dモーションが作られるケースは少ないんだけど、今回はトップライバーの二人と同じランクでやらないといけないから頑張ったわよ!主に予算取りで!」

「ありがとうございます!」

「ちなみに後日公表されるけど、これオクダイナンコさんに発注して作ってもらったの。」

「そうなんですか!?」

「うん。」

「実はいま使っている日向夏さんのアバターがドルプロの宣伝でCM出演したときにオクダイナンコさんに発注して作ってもらったものなんです。太田さんから『紹介して!』っていわれたときはドキドキしましたよ!」

「沢辺さん、その節は本当にありがとうね。」

「いえいえ!いい出来映えになって良かったです。」


 スタジオ内でセッティングの確認をしていた番組プロデューサーの三塚みつか健至たけじさんが副調整室へ姿を見せる。


「すみません、そろそろはじめますので準備お願いします。」

「はい!いま行かせます!」

「今日もよろしくお願いします!」

「三人ともよろしくね。」

「ここで見てますので。」


 スタジオに入ると副調整室側以外の壁が全面クロマキーになっていて、床には薄い緑と濃い緑の二色に塗られた長方形のマットが敷いてあり、その中央にマーカーが付けられた状態のイスが用意されていた。


「早緑さんにご説明しておくとあのマットの濃い緑色で塗られた範囲のみでモーションの計測が可能になっています。基本的にトーク番組なので激しく動くことはないと思いますが、移動するときは計測範囲を意識するようにお願いします。」

「判りました!」


 イスに座って、ふと天井を見上げるとトラスが長方形に組んであって、小さなカメラが等間隔で設置されていた。私たちが座るイスはトラスの中心に置いてあることが判る。なるほど、あれで全員の動きを計測したりするんだね。当たり前かもだけど、朋夏の配信部屋とも大崎ビルのスタジオとも設備が全然違うんだなあ。

 イスに座るとカメラがないかわりに計測エリアのギリギリ外側に置いてあるかなり大きなモニタが目線の高さくらいにセットしてあって、視線が下がらないようになっている。このモニタでバーチャルとしてはどのような画面なのかが確認出来るんだけど、背景の合成されたスタジオ全景が映っているのにアバターはへべすしか映っていない。スタジオにいるのに最初は画面にいないっていうのもなんか初体験で面白い!圭司もこれ見たら興奮しそうだなあ。彼、けっこうこういうの大好きだからね!


「二人とも準備出来た?」

「うん!」

「OKだよ!」

「こちらはOKです。」

「じゃあ、最終セッティングします。少し動かずにそのまま正面を向いていて下さい。……はい、OKです。じゃあ、収録はじめます。」


 いよいよだね!楽しみ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る