第204話○彩春、担当さんと邂逅す

 大学は金曜日に再開したのですぐ休みに入るけど、その前にせまじょのアニメ初回だ!

 大学が終わったあとは自主トレを経て、3週間ぶりの文明放送での生放送。紅白の感想メールがすごかったので、その辺の話を中心とした台本になっていた。もちろん特に問題なく放送を終えて、家へ帰る。圭司はサイン本対応が長引くということで私が晩ご飯を作った!手軽に出来る、レトルトを使ったたらこパスタだけどね!

 これから圭司も忙しくなるだろうからまた交代交代で作りたいよね。二人とも遅いときは出前を取ったり、待ち合わせして外食してもいいかも。

 圭司も22時半くらいに無事帰って来られて、パスタを食べると23時少し前でちょうどいいタイミング。圭司と一緒にリビングの大きなテレビで鑑賞した。Twinsterでは番組が始まる前からトレンド入りしていて盛り上がっている。


「オリーブが動いてしゃべってる!!!」

「本当だなあ。」

「コーチステンも動いてるね!!!!!」

「原作者より感動している人がここに。」

「えー!だって!圭司が冷静すぎるんだよ!」

「隣で興奮されるとかえって冷静になるっていうのは本当だなあって実感しているよ。」

「ええーっ!?」


 思わず顔を見たらものすごい照れくさそうに顔を真っ赤にしている!なんだ!照れ隠しだね!


「……でも嬉しいよね。」

「うん!圭司!おめでとう!」


 思わず圭司のことを抱きしめちゃった!

 ジャパンテレビのオンエアを見終わったあと、今度は、テレビでBS、ノートパソコンで日向夏さんの配信をそれぞれ流して、リビングの鑑賞会をもう一度やった。配信が始まった時点で既に朋夏が大号泣していてなにも話が出来ていないんだけど!?えっ、これ大丈夫なの!?


「なんか、朋夏、大丈夫かな?」

「あ、RINEになんか……瑠乃さんが。」


 瑠乃{へべす泣きっぱなしだけど大丈夫かな?]

 いろは/つむぎ{コメントも盛り上がっているから問題ないんじゃないかな]

 いろは/つむぎ{伝説の再来だねー]

 しましま{伝説って?]

 いろは/つむぎ{雨東先生と早緑美愛が交際を発表したときに1時間泣いたまま配信を終わらせたの]

 あきこ{あった!あった!]

 慧一{あったなー]

 かなえ{へべっちにそんなことが!]

 瑠乃{なんかとても彼女らしいねー]


 あー、そういえばそんな話を彩春から聞いたなあ。

 結局、朋夏は30分間泣いたまま配信を終わらせていた。とりあえず慧一くんが様子を見に行ってくれて、問題ないとRINEをくれたので一安心かな。


 大騒ぎの金曜日も明け、この土日は年末年始で空いた分、収録に集中することになっている。

 土曜日の朝、出かけようとしたら、「いろいろと話したいことがある」と紗和がみんないるRINEのグルチャへ予定確認のチャットを投げていた。5人で作っているTlackのチャンネルにメッセージが来ていて、紗和はついに過去の件を志満・華菜恵・慧一くん・幸大くん・百合ちゃんの五人に話しておきたいという決意が定まったそうだ。みんな今晩なら問題ないということになり、急遽、食事会になった。朋夏が全部仕切るというので任せたけど、これはもしや例の高級レストランのどこかでは?と思ってTlackで確認したら、案の定、横浜モニュメントタワーホテルだった。しかもやっぱりリムジン。圭司が前に「外に話を漏らしたくないときに使っているんだと思うよ」っていってたけど、やっぱりそういうことなんだなあ。本当に朋夏のことは尊敬する。

 朋夏と圭司をマンションの前まで迎えに来たリムジンは、大学近くで大学周辺に住んでいる幸大くん、水道橋で市川から電車に乗ってきた華菜恵、南青山で私、世田谷の桜新町で志満、圭司の実家近くで百合ちゃんをそれぞれ乗せて、みなとみらいへと向かう。リムジン初体験の五人の顔がこわばっているけど、あー、これはきっと、割り勘だと思ってドキドキしているね。


「今日は私が全部出すから気にしないでね!」


 朋夏も気がついたみたいで、百合ちゃんが乗ったところでフォローをする。


「ともっち、びっくりしたよー。」

「朋夏ちゃん、さすがだよね。」

「朋夏の稼ぎすごいもんなあ。」

「うん、朋夏さんすごそう。」

「さすが朋夏さんです!」

「ええっ!?」


 場がなんとなく和んだところで、紗和から過去に起きたことを五人に話す。圭司も途中フォローをしながらだったので、みんなすぐに理解してくれた感じ。


「そっか、お兄ちゃんの件って、相手は儘田先生だったんだね。」

「百合はあまり詳細知らなかったからいい機会かな、と思ってさ。」

「うん、ありがとう。もちろん、それで軽蔑するなんてないから安心して。」

「百合ちゃん、ありがとう。」

「儘田先生、いや、紗和さん、これからも仲良くしてもらえたら嬉しいです!」

「うん!よろしくね!」

「それにしてもいいにくいことなのに二人ともありがとうね。」

「やっぱりちゃんと伝えておきたかったんだ。」

「でも、儘田さん……いや、紗和ちゃんからすごい信頼されたんだなって、ありがたかったよ。」

「ほんとうだよな。」

「うん、紗和さん、これからもよろしくね。」

「みんなありがとう……。」


 そのあとは横浜モニュメントタワーホテルのレストランで楽しく食事をして、帰りもやっぱりリムジンで帰宅した。紗和がRINEの名前を儘田から紗和に戻したこと以外はその後も特に変化はなし。やっぱりこの仲間はみんなちゃんと理解してくれるよね。


 日曜日も引き続き収録。今日も順調に進んで、ついにあともう3曲という所まで来た。来週には確実に終わるなあ、良かった!


 そんな充実した土日も終わり、月曜日は2限の「消費者行動入門」から。


「せまじょのアニメ良かった……。」

「せまじょのキャラクターが動いてた……。」


 朋夏は判るけど、慧一くんも!?


「えっ!?慧一!?」

「さては俺がサイン会に行っていることを忘れてたな。」

「ああっ!そうだ!そうだった!」


 そうだ!慧一くんは雨東先生の熱心な読者だった!そして明貴子がなんかうれしそう。


「よし、雨東先生もターゲットになったぞ。」

「昨日みずほテレビでやった朱鷺野先生原作のドラマ良かった……。」

「華菜恵!?」


 そこで先生が入ってきたのでなんとなく会話が終わる。真面目に授業を受けていると授業中なのに少し前の方に座っている女性がこちらのことをチラチラ見ている。なんだろうと思いつつも授業に集中する。


「あの、すみません。」


 授業が終わったあと、一斉に出て行く人たちがある程度いなくなるまで待っていたら、チラチラこちらを見ていた女性が彩春に声を掛ける。


「えっ?あっ、私ですか?」

「はい。……こういう所で声を掛けるのは良くないかなって思ったんですけど、声優の岡里いろはさんですよね?」

「あっ、はい。そうですが……。」

「よかった!あの、私、こういうものでして……。」


 そういって、女性は何やらきれいなカード――名刺っぽいものを差し出す。


「えっ!?真瑚りんの担当なんですか!?」

「はい!土曜日のドルプロスペシャル生配信で初めてお姿を拝見して、『あれ?いつも英語で見かける人じゃ』って思ったんです!」

「あー、あれ見てくださったんですね、ありがとうございます!」

「いえいえ!真瑚りんに素敵なボイスをありがとうございました!完全に解釈一致だったんでカードコミュでボイスを聞いたときに泣いちゃいました……。」

「同じ担当の同僚さんにそういっていただけると嬉しいです……。」

「私、周りに真瑚りんの担当をしている同僚さんがいなくて……。もし良かったら、中の人というよりは同僚さんとして、たまに声を掛けてもいいでしょうか?」

「はい、大丈夫です!英語とかでも一緒のときはぜひ!」

「ねえねえ、彩春、良かったら、一緒にランチ取ろうよ。」

「ああ、朋夏、それいいね。どうせもう6号館地下ろくちかはガラガラだし。いかがですか?」

「えっ、いいんですか!?」

「はい、ぜひぜひ!」

「ありがとうございます!」


 みんなと一緒にランチを食べたのは、七条しちじょう磨奈まなさん。かなり熱心なドルプロのプロデューサーさんだということが判った。彩春のことをファン目線で話しちゃうかな、と思ったら全然そんなことなくて、ちゃんと「それはそれ」が出来る人みたい。話していてとても楽しいし、みんなといい感じに気が合う。そして、サークルは文化祭で講演の司会をしていたアナウンス研究会だそうだ。


「良かったら、これからもランチとか一緒にいかがですか?」

「ありがとうございます!アナ研には同じ学部の友達がほかにいなくて……。嬉しいです!」

「じゃあ、もうみんな友達になったっていうことで、もっとラフな感じで行こう!」

「ともっち、いいね!まなっちって呼びたいな!」

「ええっ!いきなりいいんですか!?」

「うん、問題ないない。じゃあ、これからもよろしく!」

「……ありがとう!よろしく!」


 もしかしたら安比にも一緒に来ることになるのかな?友達が増えるのはいいことだよね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る