第192話○紅白に向けての自主レッスン

 ついに二人の関係を婚約まで進めることが出来た!今後も二人で着実に歩んでいきたい。そのためにもまずは30日の生配信、そして大晦日の紅白だ。あっ、その前にクリスマス用に買ったスキンを箱から出して、ベッドの所においてある私のナイトケア用品を入れたポシェットへ何個か移しておかないと。そのときが来たときにそのまま出来るようにね!


 今日27日は一日仕事がないので、朝から事務所のレッスンスタジオを使って、自主レッスンをする。紅白のリハ日程がギリギリまで確定しない関係で、今日から30日の配信まで、仕事が入らないことが判っていたので、念のため、一日レッスンスタジオを押さえてもらってたんだ。時間の取れるときにちゃんとレッスンしないとまた大変なことになっちゃうからね……。いつの間にか鏡餅を飾ってくれていたダイニングでモーニングを食べながらそんな話をしていると圭司が何か思いついたようだ。


「自主レッスンって見学してもいいのかな?」

「どうなんだろう?そんなに面白いものでもないよ?」

「一回、未亜が裏で頑張っている努力を見てみたいと思ってさ。」

「そか、うん、そういう所も見てもらえるのは嬉しいな。太田さんに聴いてみるね。」


 太田さんにTlackでDMしたら問題ないとのこと。あと、どこの部屋を予約したか忘れたけど今日は午前中テレビ局や都内のラジオ局へ年末のあいさつ回りをしているから7階の営業事務ルームで確認して欲しいって、太田さんが珍しいなあ。忙しくて疲れているんじゃないかと思ったら、あいさつ回りのあと、午後からあさってまで2日ふつか半、太田さんは年内最後のおやすみだそうで、事務所にはいないという連絡も一緒に来た。太田さんもちゃんと休んでいるんだね……。


 朝ご飯を食べ終え、出かける準備をしていたらなぜか圭司もトレーニングウェアを入れていた。


「圭司、そんなの持っていたっけ?」

「この前、BSの話を聞いた翌日に通販で頼んでおいたんだ。」

「えっ!?なんで!?」

「一応、バーチャルライバーデビューする訳じゃん。きちんと基礎の腹式呼吸法とか発声方法とかをレッスンしておきたいな、と思って、まずはウェアだけ用意したんだよ。」

「あー、なるほどね!」

「年明けには太田さんに相談して、大崎スタジオのレッスンを受けようかと思っているよ。」

「うん、賛成!ある程度基礎が出来たら私と一緒に自主レッスン出来るね!」

「確かにそうだ!それも楽しみかもしれない。」


 圭司もいろいろと考えているなあ。一緒にレッスン出来るようになったら嬉しいなあ……。いまから楽しみ!


 準備を終えて、アプリでタクシーを呼び、8時に二人で家を出ると一番エレベーターホール側の扉がちょうど開くところだった。もちろん中から出てくるのは彩春だ。


「あれ?おはよう!」

「おはよう、どこか出かけるの?」

「うん、今日は一日予定が開けられたから事務所で自主レッスンしようかと思って。二人は?」

「うちも自主レッスン。といっても俺は見学だけどね。」

「彩春、一緒に事務所行こうよ。どうせ私たちはもともとタクシーチケットだし、乗っていけばいいよ。」

「いいの!?やった!ありがとう!」


 地下まで降りて、白山通りに出て少し待っているとタクシーがやってきたので乗り込む。圭司は助手席に回った。


「そういえば、なんかうちの実家に来るときの宿代とかの件はいろいろと提案してくれてありがとうね。」

「うん、あれ、朋夏が抑えてくれたお金なんだよ。」


 週刊スクープ騒動の時に朋夏が提案してくれたことをタクシーの中なので週刊スクープという固有名詞は避けつつ彩春へ話した。


「うん、朋夏だね。私は彼女のそういう所が好きだし、一生付き合っていきたいって思った理由なんだ。」

「本当だよね。」

「それとね、朋夏と同じくらい未亜も圭司くんも私の大好きな親友だって改めて思ったよ。」

「えっ!?そう?」

「だって、そんなの受け取っちゃうよ、普通。それをわざわざみんなが親しくなるためにプールしておこうって、ほんと、その気持ちが大好き。」

「そんなに彩春の気持ちにマッチしたんだ。」

「この世界さ、ほんと汚い連中がけっこういるんだよね。特にトップまで行くと汚いものばかり目に付いちゃうんだ。例えば、次から次へと自分より有名なVにすり寄って、コラボしまくったあげく、知名度が上がるといままでコラボしていたVを平気で切り捨てる。それを繰り返して、いまやバーチャルライバーフェスに出場した超有名Vとコンビ組んでるVとかね。」

「そんな人いるの!?」

「うん、いるんだよ。しかもマスコミに取り入るのも上手いから過去はなかったことにされているけどさ。ほかにもカレカノバレしたら『単なる友達です』とかいったあげく、相手が契約解除されてからしれっと『お互いのために今後は交流しないことにしました』って一方的に声明出して切り捨てるとか、ほかにもざらだよ。」

「そうなんだ……。」

「でも、この仲間内はみんなそんなことないでしょ。未亜も圭司くんも明貴子も紗和も慧一くんも幸大くんもみんなそれぞれの世界でトップランナーなのに驕ったところもドライに切り捨てるような所もなくて。この空気感が私は大好きだし、こういう関係になれたのは間違いなく未亜と圭司くんのおかげだよ。」

「えっ!?そんなことないと思うけどなあ。」

「だって、さっきのプールしていたお金のこともそうだし、この前の慧一くんのこともそうだけど、親友には自分の利益とか度外視で、とことん寄り添おうとしてくれるじゃない。いくら大学の同級生だからって、そんなことなかなか出来ないよ。」

「彩春さん、それはね、俺たちもみんなに助けられていまがあるからなんだ。」

「えっ!?」

「俺がひどい目に遭って、未亜のおかげで闇の中から救い出してもらったあと、こうやって、笑って話が出来るようになったのは、間違いなく、みんなが支えてくれたおかげだよ。もし、みんなに避けられたり、逆に気を使われすぎたりしていたら、下手すると今度は二人で闇の中に沈み込んで行きかねなかったって、いまになって振り返ると思うんだ。」

「もちろん、太田さんたちの尽力もあったけど、日常一番接する友達が、私たちに何の偏見も持たずに普通に接してくれた。そのおかげで私たちはどれだけ救われたか。だから圭司も私もそのときの気持ちをみんなにそのまま返しているだけなんだよ。」

「二人とも……。」


 そういうと彩春は涙ぐんだ。


「うん、私はこんな素敵な仲間と出会えた奇跡を大切にしたいな。三人がプールしてくれているお金、有効活用したいね。今晩四人でいろいろと話そ!」

「うん、そうしよう!」

「そうだな。」


 本当に素敵な仲間たちと出会えたことに感謝だよね!

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