第126話●朋夏の配慮
誕生会の前日である今日金曜日は、未亜のラジオがある。初回はスタジオの外で見学していたけど、2回目以降は自宅で録音しながら聴いている。またどこかの機会で見学に行きたいとはおもうもののラジオの醍醐味はやっぱり自宅でのエアチェック……といっても実際は電波ではなくて、ネット配信サービス「radicco」で聴いているのだけど。
授業が終わり、未亜はそのまま浜松町へ向かった。自宅へ戻り、執筆にいそしんでいる。単行本第四巻の再校戻しは完了したので、あとはよほどのことがない限り、このまま印刷フェーズに行くはず。だけど、外伝の方はラストをどう締めるかで、悩んでいて、少し、いやかなり難航している。下手に続きがあるような終わらせ方にしてしまうと続編が出ないときに中途半端になってしまうし、かといって、完全なラストにすると続編が出しにくい。いい着地点が見いだせずにいる。白子さんに相談したけど、「そこが作家としての腕の見せ所ですよ」と突き放されてしまった。こういうときに長編連載しか書いていない経験の偏りが露呈するんだよな……。ここしばらくずっと考えて、実際に両方のパターンをラフで書いてみたりしたんだけどなんかしっくりこない。全くアイデアが出てこなくてかなり煮詰まっている……。そうだ!未亜の悩みが解決したら、相談しよう!うん、そうしよう。
おっと、そうだ、早いうちにケータリングを頼まないと。今回の誕生会、料理とかの代金は岡里さん、飯出さん、未亜、俺で負担することにしている。発起人の岡里さんが全部出すと言い出したので、それは良くないと4人の割り勘にしてもらった。
高機能インターホンから8人分のケータリングを出前で頼み、愛用しているスーパーへ飲み物の買い出しに行く。あとは当日にコーヒーメーカーでコーヒーを入れればいいかな。
オンエア5分前にラジオもといパソコンの前へ無事座ることができた。
今日のトークによると早緑美愛の番組はメールの量が今期オンエアされている帯番組5本の中で一番多いそうだ。確かにたくさんの印刷されたメールを持って帰ってきていたなあ。
しかも、前回持って帰ってきてくれたものの中にはなぜか雨東へのファンレターもけっこうあって、それは公式サイトのフォームで送ってくれればいいのにと思いながら嬉しく読ませてもらっている。今回のオンエアでは雨東宛のファンレターに対するお礼と本人がちゃんと読んでいることも伝えてもらった。間接的にはなるけど、やっぱりお礼はちゃんと伝えたい。
そんな感じで、今回のオンエアも順調に完了した。いつも通り1時間くらいして帰ってくる。
ピンポーン
「ただいま!」
「おかえり!」
いつものようにキスをして、荷物を受け取る。
持って帰ってきたメールの印刷はさらに増えている。雨東宛も増えていて、本当に嬉しいやら恥ずかしいやら。中には声出し解禁して配信やってほしい、なんていう内容も。未亜には「朋夏と彩春に相談して、VTuberデビューとかもいいかもよー!」なんて冷やかされたけど、VTuberデビューはともかくボイスチェンジャーを使って、声出しくらいは解禁してもいいんじゃないかっていう気はしている。もう少し考えを整理して、未亜と真面目に検討した上で、太田さんに聴いてみよう。
落ち着いたところで、岡里さんと飯出さんにRINEをとばす。いよいよ明日土曜日に行う二人の誕生会の前に今日はこのあと簡単ではあるけど飾り付けをするんだ。
「よろしくー!」
「いろいろ持ってきたよー!」
二人は飾り付けのためにこの前からいろいろと作っていたらしい。ざっと飾り付けをしたあとは今のうちに今回かかった経費を割り勘してしまう。柊さんと御園生さんからも割り勘に参加したいという話が岡里さんへあったそうで、最終的に6分割した。その辺が全部終わったらなんとなく雑談タイムになる。
「いやあ、なんか楽しみだねえ。」
「私もあんまりお誕生会ってしたことないからやってほしいかも。」
「未亜は1月15日だからまだ時間あるね。」
「えっ、教えたっけ?」
「早緑様、誕生日だけは公開してるじゃない。」
「そうだ、朋夏は私のファンだった!」
「本当に朋夏すごいよね。」
「俺も知っていたけど、それは彼氏だからっていうことにしておいて。」
「そういうことにしておきましょうか!」
「未亜がなんかニヤニヤしてるー!」
この四人で話をしていると本当に話題が尽きない。
「そういえば、今週は儘田先生と瑠乃と明貴子と彩春を毎日連れ回しちゃった。」
「連れ回されている私が言うのもなんだけど、本当によくやるよね。」
「彩春はそういうけど、お金は有意義に使わないとね!でも、3人もかなり仲良くなったよ。儘田先生と明貴子はお互いに大ファンだから個別に連絡取って今度遊びに行くみたいだし。」
「でも朋夏が全部出しちゃうのはすごいよね。」
「ここだけの話、儘田先生と朱鷺野先生である明貴子、あとなんだかんだいって彩春は毎日遊びに行っても多分割り勘で問題ないと思うんだ。だけど瑠乃は違うじゃない。だからって、瑠乃の分だけ私が出すっていうのもおかしな話でしょ?それなら私が全部出してしまえば問題ないし、それでみんなが仲良くなって、誕生パーティがいい感じになるならさ、いいと思ったんだよね!」
うん、やっぱり、飯出さんはお金の使い方に対するバランス感覚が絶妙だ。この仲間内でお金のありがたみとちゃんとした使い方を一番判っているのが飯出さんなんだろうなあ。トップVTuberになったのは、西陣つむぎに見いだされただけでなく、本人のちゃんとした生活感によるところも大きいんだと思う。リムジンはすごかったけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます