第191話●公表までの段取り
事前に聞いてはいたけど、太田さんの動きは速かった。こちらも早めに動いた方がいいな。未亜のご両親とのランチを終えると
『圭司どうした?』
『RINEしたとおり、未亜にプロポーズして受けてもらえたんだけど、太田さんから連絡があって、30日に公表したいんだって。』
『そうなのか!?ずいぶんと早いな。』
『大晦日の前に発表してインパクトを出したいらしいんだ。いまから未亜と一緒に家に行ってもいいかな?』
『かまわんけど、うちの前にまず未亜さんのところが先じゃないか?』
『それなら実はもういま済ませた。』
『もうか!?はやいな……。まあ、この前お目にかかったとき、向こうのご両親も認める前提だったもんな。いいぞ。どれくらいで来る?』
『いま戸塚だからタクシーで家まで行くよ。』
『判った。』
戸塚駅のロータリーからタクシーで実家まで向かう。年末だからか、横浜新道が混んでいたけど、第三京浜はスムーズに流れていてトータルでは予定通りの時間で実家にたどり着く。家に入って、両親がそろったところで俺から話し始める。
「昨日、俺から未亜へプロポーズをして、未亜は受けてくれた。結婚自体は大学を卒業したあとで、未亜の芸能活動の状況も考えながら太田さんとも相談して日程を決める。未亜と結婚を前提としたお付き合いをすることを認めて欲しい。」
「未亜さん、圭司は結婚相手としてどうですか?」
「わたしにはもったいないくらいの素敵な男性です。」
「そうですか。それなら良かった。うん、圭司、希望はよく判った。婚姻は両性の合意のみで成立するから認めるも何もない。だから、うちとしては何ら問題はない。くれぐれも未亜さんを傷つけるようなことだけはするなよ。」
「もちろん。一生大切にするよ。」
「圭司の覚悟は判った。」
気がつくと未亜がこちらをじっと見ている。なんだろう?
「未亜?」
「私からもお礼を申し上げたいのですが、よろしいでしょうか。」
「もちろんです。」
「このたびは結婚を前提とした圭司さんとの交際をお認めいただき、ありがとうございます。至らぬ所も多いとは思いますが、高倉家に嫁ぐ身として、誠心誠意頑張っていきたいと思いますので、何卒今後ともよろしくお願いいたします。」
そういうと未亜は頭を下げる。
「これは丁寧にありがとうございます。ただ、あまり嫁に来るとか考えなくて大丈夫ですよ。いまの世の中は二人の合意で結婚するのが当たり前です。嫁にいくとか嫁ぐとかそんなことは気にせず、二人で助け合って生活して欲しいと思います。」
「そういっていただけると……。ありがとうございます。あの、一つお願いがあるのですがよろしいでしょうか。」
「はい、なんでしょうか。」
「これからは出来れば、お
「……あっ、そうか!そうですね!考えてみれば結婚を前提としたお付き合いということはそういうことだ。そうか、未亜さんが私たちの義理の娘に……。いや、こんなに嬉しくて光栄なことはないですよ。ありがとうございます。好きなように呼んでもらっていいよな?」
「ええ、かまわないですよ。娘がもう一人できて嬉しいわ。」
「ありがとうございます!お義父様!お義母様!」
未亜、そこにそんなこだわりがあったんだな。ということは俺も陽介さんと麻衣さんのことをお義父さんお義母さんと呼んだ方がいいのかな?今度未亜に相談しよう。
「それで、公表の件だが、太田さんはなんておっしゃってるんだ?」
「その件ならこのメッセージを見てもらった方が早いと思う。」
「どれどれ……なるほど、うん、判った。未亜さんのご両親はこの件、認められているんだな。」
「さっき話をしてきて、『婚約した』という表現で公表することについて、OKをもらっている。」
「じゃあ、うちも『婚約』ということで問題ない。それとは別に来年、なるべく早いタイミングで西脇さんと正式に顔合わせの席を設けたい。電話でいいからあらためて打ち合わせをさせて欲しい。」
「実はさっきそれも確認した。渡した名刺に書いてある番号まで連絡が欲しい、という伝言をもらってる。」
「さすがだな。判った、じゃあ、後で連絡してみるよ。」
しばらく雑談をしていたけど未亜は嬉しそうにお義父様お義母様呼びをしていた。なんか俺まで嬉しくなってきたよ。
「じゃあ、そろそろ帰るよ。」
「江田まで送ろうか。」
「あ、タクシーで帰るからセンター南の方がいいかな。」
「判った。」
父さんの運転する車に再び乗って、センター南駅まで送ってもらう。
「太田さんには俺からメッセージしておくよ。」
「うん、お願い。」
「……いや、その前にもう太田さんから来てるな。了承もらえたら打ち合わせしたいから事務所に来て欲しいって。」
「うん、それなら事務所へ行こう。」
「せっかくのオフなのに大変だな。」
「まあ、これは仕方ないよ。二人ともメディアの世界にいるから土日はないようなもんだしね。」
「身体には気をつけろよ。」
「うん、判った。」
センター南駅のタクシー乗り場からタクシーに乗ると事務所まで移動する。太田さんからミーティングルームLを押さえたと連絡があったので、地下のタクシーだまりまで入ってもらって、そのままミーティングルームLへ向かうと太田さんが既に待っていた。
「オフなのにごめんね。でも早めに対応を進めたかったから。」
「いえいえ、今日は両家の両親にあいさつをしたのにあわせて、口頭ベースですか公表の許可を取ってきました。」
「ありがとう。助かった。それでここからの段取りなんだけど、まず、美愛の紅白リハーサルは30日午後で確定した。あと、忙しくて見ていないと思うけど、曲目は今日の12時に発表されている。それと出演順は内示が今日届いて、美愛はなんときだまきしさんの企画歌唱の直後で第二部後半ブロックのトップ。正式には明日27日の12時に発表される。」
「えっ!?そんな出演順なんですか!?」
「私もビックリしたんだけど、あなたの歌唱力と『主役』という曲の持つ重さからここになったみたいね。」
「頑張らないとですね!」
「うん、楽しみにしてる。ちなみに大トリは2年ぶりにランになったからもしかしたら後ろに立つとかそんな感じの演出上のお願いが来るかも。」
「了解です!」
「それと、紅白が終わったあと、きだまきしさんの『正月いきなりきだまきし』に生出演が決まった。」
「えっ!?あの『
「そうなの。きださんが美愛のことにすごい興味を持って下さったそうでね。きださんの事務所から直々にご連絡をいただいて。トークのあと最後に一曲歌う感じ。」
「なにを歌うんですか?」
「きださんは渋谷バラードから美愛のことを興味持ったんですって。その中から『円山町の夜に』が指定で来てる。」
「判りました。自主レッスンで歌い込んでおきます。」
「お願いね。きださんは横網国技館でカウントダウンライブをやっているから移動はちょっと大変だけど、せっかくの機会だから。」
「はい!楽しみにしています!」
「ちなみに先生は諸々段取ったから紅白からきださんの番組まで一緒にお願いね。」
「判りました。」
「今日は盛りだくさんなんだけど、ラストはプロポーズの件についてね。30日の公式チャンネル定期配信が終わったあと、21時に事務所の公式サイトで発表、二人の公式サイトからは事務所のリリースへリンクする段取りを組んでおいた。」
「どんな感じでの発表ですか?」
「正式にはまだ結納とかをしたわけではないから『結婚を前提としたお付き合いをすることになった』旨を発表する感じかな。」
「それでしたら、両家から『婚約した』という表現で良いという承諾をもらっています。」
「えっ、そこまでしてくれたの!?わかった。じゃあ、文章はいま法務の方に揉んでもらってるけど、あとでちょっと調整して『婚約した』という表現を入れるようにするわね。会社としてもそちらの方が良いし。あと、美愛の30日にやる定期配信の冒頭でまずは発表とあいさつをして欲しい。」
「わかりました!」
「例えば、なんだけど、先生、例のプロジェクト前ではあるんだけど、声だけでいいから一緒にあいさつできないかな?」
やっぱり、そろそろそういうタイミングだよな。未亜に相談してから、と思ったけど、時間がないから決断しよう。
「そうですね。やっぱり二人そろった方がいいでしょうから、やります。」
「えっ、雨東さん、大丈夫?」
「うん、バーチャル化プロジェクトではもともと地声で行くつもりでいたから大丈夫だよ。それにこういう大事なことを早緑さんだけに任せるのは良くないと思うんだ。まあ、俺の時もそうだったし、例の二人もそうだけど、何かあっても会社が守ってくれるだろうからね。」
「うん、確かにそうだね、私は賛成するよ。」
「ありがとう。じゃあ、先行して声出しを解禁したいと思います。」
「あなたたちを守るのは会社の責務よ、だから安心して。じゃあそれで段取りするわね。これから年末に向けていろいろと忙しくなるけど、頑張りましょうね。」
今日だけでいろいろと状況が進んだけど、無事に前に進めて良かった!
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