第139話○早緑様、日向夏へべす配信初出演

 我が家に家具が搬入されていた22日は、ちょうど同じタイミングで「ネット配信スタジオ大崎」の完成記者会見が行われていた。

 大手芸能事務所が全面的にネット対応した配信スタジオを整備したのは初の試みということで、各所でかなり話題になっている。

 そして、私たちが朗読劇を配信する2日目19時枠は、事務所が目玉として掲げた配信番組の一つに入っており、緊張感が高まる。ちなみに最大の目玉番組はトリを飾る鶴本さんのソロライブだ。アフートピックスにも「大崎エ 鶴本ランのライブを配信」と出るくらいの注目度。本当にすごい人だよね……。

 圭司と紗和は出演しないものの脚本とBGMの作者ということで、当日は調整室に待機することになっている。今回は朋夏がVTuberとして出演するので、配信スタジオ内にクロマキーとなる垂れ幕を下ろし、垂れ幕の裏に動きや顔の表情を取り込むためのカメラを何台か置いて、朋夏がその前で動くと顔の表情とかも含めて取り込まれるという仕組みらしい。私たちはその幕の隣で実写出演だ。

 この配信スタジオはこういう共演がやりやすいように垂れ幕とカメラもあらかじめ実装されている。朋夏によるとかなりいい機材が用意してあるみたい。機材の具合などを確認するために朋夏は完成前に実際にテストをしたそうだけど「うちの機材より使いやすいんだよね!一式同じものを買っちゃおうかなあ」と割と恐ろしいことをいっていた。


 もともとVTuberで日向夏へべすの配信によく出ている彩春はやり方に慣れているけど、私とここなちゃんは掛け合いになれていないので、朋夏と太田さんの勧めで、朋夏の配信に「仕事」として、出演することになった。夜に音楽番組へ生出演する心菜ちゃんは23日14時からの配信で出演、23日に午前中から夕方に掛けて5thアルバムの収録の入っている私は19時からの出演。


 5thアルバムの収録を無事に終え、17時に自宅へ戻る。


「届いた食器をいったん全部食器棚へ入れてみたよ。このあと少しずつ食洗機に掛けるけど。」

「全部収納してくれてありがとう。」

「家にいるんだから当たり前だよ。そして収納したものは、こんな感じ!」

「おおっ!選んだ食器棚に食器が予想以上にマッチしているね!」

「そうなんだよ。それで、こんな感じでガラス戸を締めてみると見える食器がいい感じのインテリアにもなるよ。」

「本当だねえ。なんかあらためて私たちの生活がリスタートした感じで嬉しいなあ。」

「うん、収納したあと同じことを思ったよ。」


 そんな感じで食器と食器棚を眺めていたらあっという間に60分くらい経ってしまったので、慌てて準備を始める。


「未亜が準備をしている間に入れられるだけ食洗機に入れて洗っちゃうね。一度きちんと洗えばすぐに使えるからね。」

「そだね、お願いします!」

「お願いされたよ。」


 私が改めて準備が必要なのは実写で映るのでさみあんモードになる必要があるから。ここなちゃんはアイドル衣装ではなく、現場入りするレベルの私服で出演したけど、私は朋夏からの強いリクエストを受けて、衣装まで全部さみあんモードになっての出演だ。

 家に置いてある予備の衣装を使って、自宅でさみあんモードになってからそのまま廊下を通って、朋夏の部屋へ移動する。そのとき、圭司がこれから向かうよって事務所仲間のRINEで流すもんだから紗和と彩春がわざわざ家から出てきて廊下で見学するというなかなかの羞恥プレイを体験した!


 圭司と一緒にさみあんモードで朋夏の部屋へ入ったら、朋夏が「やった!早緑様が私の部屋にいる!今日は記念日だ!」と興奮していて思わず笑ってしまった。朋夏はいつもと違って、黒い全身タイツ。さらに黒の手袋もしている。


「VTuberって、配信の時はいつもそんな格好なの?」

「普段の配信の時はこんな服装じゃないよ。今日は実写と合成するからちゃんとモーションを取れるように工夫をしているんだ。服に白い点が付いているでしょ。」

「うん、何か所か付いているね。」

「センサーがこれに反応して、私の動きを読み取って、アバターに動きが反映されるんだよ。顔を出しているのは表情を読み取るセンターが別にあるから。」

「へー!そんなふうになっているんだね!」


 部屋に入って一つ気がついたのは沢辺さんがいないこと。いなくても大丈夫なのかな?


「そういえば、沢辺さんは立ち会わなくていいの?」

「企業案件とかで初めて行く企業のリアル打ち合わせとかは同席してもらうけど、基本的に沢辺さんは私のスケジュール管理とか契約関係とかその辺をメインで見てもらってるね。」

「例の事件が起こる前に俺みたいな感じかな。」

「圭司くんもそんな感じだったんだね。」

「家で執筆するのがメインだから。」

「そうか、朋夏も家で配信したり、動画作ったりしている方が多いもんね。」

「それとサムネを考えて作ったり、企業案件のシナリオを作ったり、VTuberって家でやる地味な作業のほうが多いからね。それに沢辺さん、いまものすごい忙しいんだ。」

「ほかの担当しているタレントが忙しいの?」

「いや、私に企業からの依頼とか他の企業系VTuberからのコラボの依頼とかそういうのが毎日たくさん来ていて、私のスケジュールを見ながら受けるとか受けないとか決めたり、受けたら今度は契約周りの調整が入ったりでほとんど私にかかりっきり。」

「朋夏、そんなことになっているんだね!?」

「うん、VTuber時代のつむぎもそうだけど、もう自分だけではさばききれなくてそれで大崎に所属したから。」

「俺とか明貴子さんとかと同じなんだなあ。」

「そうだね。明貴子が太田さんと話をしているのを聞いて、やっぱり悩みはみんな一緒なんだなあって思ったよ。しかも増える一方で減らないからね。」

「俺もそうだったなあ。でも朋夏さんと比べると量はかなり違うとは思うんだよね。太田さん一人であれだけの人数抱えていられるわけだし。」

「確かに!この前、タクシーで流れる広告に日向夏さんが出ていて驚いたけど、朋夏は大崎のVTuberの中でもダントツに露出多いもんね。沢辺さん、本当に大変なのかも。」

「そうなんだよー。本当に忙しそうでね……。この前社内リリース出たって聞いたから話しても大丈夫だと思うけど、沢辺さん、12月1日付けでほかのタレントさんの担当みんなはずれて、私の専属になるんだよね。」

「そうなんだ!すごいね!?」

「おっとそろそろいい時間だね。配信前に配信部屋の説明をしておきたいから少し早いけど部屋に入ろう!」


 いよいよ朋夏の配信部屋が見られるんだ!楽しみだな!

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