第176話●横浜モニュメントタワーホテルディナーショー控え室

 ディナーショーの一回目は、横浜モニュメントタワーホテルの最上階にあるアッパーエアパーティルーム七色の間で開催される。きれいな夜景を見ながらさみあんの音楽に触れることが出来るというすごい贅沢な空間だ。

 今日は控え室として、同じ階のダイヤモンドという部屋が割り当てられている。普段、七色の間は結婚式の披露宴会場として使うことが多いらしく、ダイヤモンドは親族控え室などで利用されているそうだ。そう聞くとなんか意識してしまう……。


 今朝一緒に来た未亜は、リハが終わったあと、ジャケット撮影をするため、港の見える丘公園へ出かけていった。戻りはけっこうギリギリになるみたいなので別の控え室へ入って、一気に着替えと声出しまでしてしまうそうだ。ディナーショーなのでいつもの衣装とはまた違った衣装が特別に用意されているらしく、あとで見るのが楽しみ。

 俺はというとリハを見終わったあとは控え室で一人、赤入れたっぷりの外伝の初校と格闘しているとどうやらうちの家族が最初に到着したようだ。


「圭司お疲れ。」

「よく来たね。会場では雨東で頼むね。」

「ああ、判った。それは原稿かい?」

「そうだよ。外伝の初校だね。相変わらず真っ赤だよ。」

「父さんも論文とかを書くけど、まあ、初校は真っ赤だな。文章書きの宿命みたいなもんじゃないかな。」


 父さんとそんな話をしていたら次に朋夏さんと明貴子さんが一緒にやってきた。


「あ、えーと。」

「控え室の中は大学と同じでいいよ。会場では雨東で。」

「圭司くん、今日はありがとうね。」

「いや、俺が何かしたわけじゃないから未亜にいってあげて。」

「うん、あとで私からも!」


 朋夏さんと明貴子さんにうちの家族を紹介していたら未亜のご両親も到着したようだ。初めての両家顔合わせで、とても緊張するけど、まずは紹介をしないとね。


「紹介します。私の家族で、父昌司、母理恵、妹百合です。こちらは西脇陽介さん、麻衣さんです。」

「初めまして、高倉昌司と申します。その節は圭司が大変にお世話になりまして、誠にありがとうございました。」

「ご丁寧にありがとうございます。初めまして、西脇陽介と申します。当方で出来ることをご協力させていただいただけですので、お気になさらずに。それとおそらくは今後長いお付き合いをさせていただくことになりますのでぜひともよろしくお願いいたします。」

「圭司からも聞きましたが、その節には来年、正式に場を設けさせていただくことになろうかと思います。」

「はい、良い返事をすると思いますので、来年お目にかかれるかと思います。その際はまたよろしくお願いします。」


 部屋の中に同席している朋夏さんと明貴子さんが目をまんまるにしている。双方の両親のあいさつが一通り終わったあと、二人から手招きされた。


「ねえねえ、圭司くん、これってそういうこと?」

「うん、詳細はまだいえないけど、明貴子さんの想像したとおりで間違っていないと思う。」

「そうなんだ!正式にまとまったら教えてね!」

「うん、判った。」

「えっ、もうゴールイン?」

「さすがにそれはまだまだだよ。あっ、二人とも未亜を含めてみんなにはまだ内緒にしておいてね。」

「「うん!」」


 引き続き朋夏さんと明貴子さんを西脇夫妻に紹介する。明貴子さんには陽介さんが伊予國屋書店の取締役であることも伝える。


「ええっ!未亜さんのお父様ってあの伊予國屋の取締役なんですか!?あっ!いま名刺を……改めまして、朱鷺野澄華と申します。何時もお世話になっております!」

「えっ!?朱鷺野先生ですか!名刺を持ってきていて良かった。改めて初めまして。わたくし、伊予國屋書店の西脇陽介と申します。先生、今度ぜひ当社でサイン会をお願いします。雨東先生のように顔出しなしでの対応も可能ですので、ぜひご検討いただければ幸いです。」

「はい、ぜひ!いま、大崎に所属してまして、未亜さん、雨東先生と同じ太田さんが担当マネージャなので、太田さんまでご連絡いただけますでしょうか。」

「これはなるほど。太田さんはさすがですね。では、太田さんまで連絡させていただきます。」

「朱鷺野先生がいらっしゃるといま聞こえてきまして……。」


 そう語りかけてきたのは父さんだ。


「はい!私です!」

「ああ、あらためまして、私、実はチャープで商品開発の責任者をしております。先生には秋口に当社のブルーレイ広告にご協力頂き、ありがとうございました。」

「えっ!圭司くんのお父様って、チャープの方だったんですか!?その節は面白いお仕事をいただきありがとうございました!」

「明貴子さん、どんな仕事をしたの?」

「新聞と雑誌の広告で恋愛小説の連載をさせてもらったの。毎回ブルーレイがうまく関わるように書くというテーマで、なかなか大変だったけど書いていてすごい楽しかったんだ。」

「先生にそうおっしゃっていただくと起案者ではないですが、ゴーサインを出した責任者としては嬉しいですね。」

「あの、圭司くんのお父様ってチャープの方なんですか?」


 今度会話に入ってきたのは朋夏さん。


「はい、そうですが。」

「この前、ニュースリリースが出たのでお話ししても良いと思うのですが、実は、今度、御社の製品を紹介する連続動画企画をさせていただく日向夏へべすというVTuberをしております。」

「あのトップバーチャルライバーの日向夏さんですか!?ブルーレイの回では私も打ち合わせに同席させていただくかと思いますのでよろしくお願いします。……圭司、おまえの交友関係はどうなってるんだ!?」

「気が付いたらこんなことになってたんだよ。」


 それは俺の方が知りたい!


「同級生はこんな有名人ばかりなのか?」

「いや、芸能活動とかしていない親友もいるよ。」

「そうか、おまえの大学は有名人しかいないのかと思ったよ。」

「まさか、さすがにそれはないよ。」


 そんな話をしていたら太田さんが控え室に入ってきて未亜の控え室に案内される。今回の衣装は白いドレスですごかった!……ウエディングドレスを着た未亜って、もしかしてこんな感じ!?

 ……二つの意味でが楽しみだ!

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