第168話○サイン会トーチレコード新宿!
今日は水曜日。2限からの授業で、今日も少し遅く寝ていられるけど、いつもより少し早く目が覚めてしまった。圭司はまだぐっすり寝ているようだ。
朝起きたら隣で圭司が寝ている、早くこうなれたらって思っていたのが実現して本当に良かったなあ……。もちろん、私にもそういう欲はあるから夜には圭司と愛し合いたいけど、そこはまだしばらく我慢しないとね。理由がわからなかったときは本当に辛かったのにちゃんと理由がわかっていて、しかもお医者さんから状況をしっかりと伝えられていると気持ちがこんなにも楽で安心して待てるんだなあ。
それにしても昨日は、圭司の実家近くにある会場だと気がついてはいたもののまさか圭司のご家族がお見えになるとは思っていなかった。ちょっと驚いてしまったけど、私のことまで気に掛けてくれているということだからもちろんとても嬉しい。なんかもう圭司のご両親も私の両親な感じがしてくるから不思議。実際には同棲しているだけで、「まだ」そこから先は何もないんだけどね。でも、今は「まだ」といっていることが、クリスマスの夜にはきっと「まだ」じゃなくなる、という予感があるのも事実。そうなったら私の返事はもちろんYESだから、圭司のご両親は私の義理の両親になることが確定する。自分の親と同じように大切にしたい。……あっ!そうすると百合ちゃんって義理の妹になるんだ!?百合ちゃんのこと、家族としても大切にしなきゃだね!
そして、圭司がこの前話してくれたクリスマスの夜は、「まだ」が「まだ」じゃなくなる以外もなんかいろいろと考えてくれているみたいだし、最後までは難しいにしてももしかしたらその前までは……なんて!そのときは、うん、私も恥ずかしがってないで、圭司と付き合い始めてから密かにいろいろと勉強した知識を生かしてちゃんと頑張らないとね。……あっ、でももしかしたらもしかするかもしれない。スキンはちゃんと買っておいた方がいいのかな。圭司は回復するってまだ考えられないだろうから準備しないよね、多分。一応、ピルを飲んでいるからそれで避妊は出来るけど、それとこれとは違うし……。またちょっと考えよう。なんていろいろ妄想してたら圭司も起きたみたい。
「……未亜起きてたんだね。」
「私もいま目が覚めたところ。」
「じゃあ、起きようか。」
「圭司、このところ、目覚めがいいね。」
「うん、なんか、大阪に行った日あたりからすっと起きられるようになった。」
「もしかしたらカウンセリングの影響がそういう所にも出ているのかもしれないよ。」
「そうか!そうかもしれない。少しずつ良くなっているのがこういう所にも現れているんだとしたら嬉しいなあ。」
「うん!いいね!」
圭司もちゃんと少しずつ回復している。きっとそれも安心して待てる理由なのかも。二人で起きて支度をしたあと、モーニングを食べながら何気なくダイニングのテレビを点ける。
「……として、容疑を否認しているとのことです。……次のニュースです。旧マツノキ出版関係者による一連の事件のうち、性的暴行事件ならびに薬物事件に関連して、首都警察本部は、昨日、贈収賄の疑いで、千葉県両総警察署の現役署長を含む関係者を相次いで逮捕しました。逮捕されたのは、収賄側が現役の両総警察署長である
『房総警察本部としても事実解明に至るよう、首都警察本部の捜査へ全面的に協力していく所存です。被害に遭われた方々や県民の皆様に対し深くお詫び申し上げます。』
なお、首都警察本部では容疑者の認否を明らかにしていません。」
また、すごいニュースだなあ……。
「なるほど、圭司の件も含めて、全然捜査されなかったのは、地元警察もグルだったからなんだね……。」
「まあ、そうでもなきゃ、あんな大規模な犯罪が見逃されるわけないよ。」
「そうだよね。お父さんたちの会見がきっかけでなんか社会の闇がどんどん表になっていくなあ。」
「いいことじゃないかな。それにこういうニュースを見ていると不思議と心が軽くなる感じがするんだよ。」
「そうなんだ!?」
「自分が悪かったわけじゃないっていうのがどんどん浮き彫りになるからだってお医者さんにはいわれたよ。」
「なるほどね。それなら良かったよ。」
「うん、それも未亜のおかげだよ。」
「気にしないで、私は圭司の『相手役』だし。」
「そうだな。ありがとう。」
そういって二人で笑い合った。圭司がここまで回復出来て、本当に良かったな……。
大学の授業は普通にこなし、事務所を経由して、今日はトーチレコード新宿店さんへ向かう。ここはアニソンとアイドルのCDがとても多く、店内には所狭しと声優とアイドルのサインが飾られている。ビルに併設されている機械式駐車場の所まで来るとトーチレコードの方が待機していた。店員さんの誘導で通用口から事務室内の会議スペースまで誘導される。今日はここが楽屋だね。
サイン会自体は順調に進む。今日もみんな本当にいい笑顔で嬉しくなってくる。そして、最後の一人が入ってきた。制服姿の女子高生かな?それまでと同じようにサインしたCDを渡して握手すると他の人とは毛色の違うことを話し始めた。
「私はゆいかわしゅりといいます!今日は早緑さんに宣言しにきました!」
「宣言ですか?」
「はい!私、スカウトされて今度大崎でアイドルになるんです!」
「えっ!そうなんですか!」
「はい!それで来年、あこがれの早緑さんと絶対に共演します!楽しみにしていて下さい!」
そこまで話をするとゆいかわさんははがされて、会場から出ていった。本当に大崎のアイドルになる人なのかな?それにしてもあこがれって!?
戸惑いながらも撤収の準備を進める。全部済ませて社用車で帰途につくとさっきの件について、太田さんが話し始める。
「ちょっと調べたら12月1日付けの社内向けタレント契約情報に仮所属で同じ名前があったわ。」
「じゃあ、本当なんですね。」
「たぶん本当だと思う。この前の泉沢さんといい、美愛もついに目標とされるまでになったのねー!」
「なんか照れますね……。」
「ほかの事務所じゃなくて良かったな。」
「圭司?」
「ほかの事務所だとなんか面倒なことになりそうだから。」
「先生、それは心配しなくても大丈夫。少なくとも五大事務所はライバルだけど友好関係だから。」
「そうなんですね。」
「大手から中小まで、いろいろな芸能事務所で『日本芸能事業者協議会』、通称
「じゃあ、世の中で出回っているのはウソが多いんですね。」
「そうよー。共演NGとか裏でやりあってるとか、その辺の噂はほぼ間違いね。気をつけないといけないのはたまに事実もあることだけど、それはちゃんと芸事協で情報共有されているから、加盟している芸能事務所なら把握していると思う。」
やっぱりいろいろあるんだなあ。それにしてもあこがれかあ。ゆいかわさんと共演する日が楽しみだ!
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