第149話●予想通りの宣言

 授業のあと、未亜は5thアルバムの収録へ向かった。俺のほうは、すぐに自宅へ帰って、警備員室へ届いた荷物を持ってきてもらうように高性能インターホンから依頼をして、部屋で受け取る。早速箱を開けて届いたテレビ・ブルーレイレコーダー・アンテナ線なんかをつないで、視聴可能な状態にしてから、引き続き5巻の書籍化作業と戦いはじめる。ちょっと休憩しようかな、と思ったタイミングでKAKUKAWAの白子さんから電話がかかってきた。


「はい、雨東です。」

「先生、こんにちは。白子です。太田さんの方と契約締結完了したので、先生にいい話をいち早くお伝えしようと思いまして電話しました。」

「おっ、いい話ですか!」

「はい、せまじょのコミカライズ第2巻が決まりました。」

「おおっ!本当ですか!」

「せまじょのコミカライズを出したあと、桜内さくらうちあおい先生がデビュー作のアニメ化決定で急に忙しくなってしまって、なかなか差し込めなかったんですけど、ようやくスケジュールを空けていただけました。コミカライズの続刊リクエストが日に日に増えていて割と大変なのと春頃刊行でいけそうなので、もう明日にはリリース出します。太田さんと調整して、先生の公式サイトにも同時に出る段取りになっています。」

「おお、もうリリース出してしまうんですね!楽しみにしています。」

「あと、続けて、コミカライズ3巻もつっこみました。コミカライズ3巻とせまじょ5巻を同時に夏頃刊行予定ですが今回のリリースではまだ出しませんので、ご注意下さい。」

「了解しました。」

「宣伝頑張りますよ。先生にもサイン本や特典SSでご協力いただきますが、詳細は太田さんに発注出しておきます。では、引き続きよろしくお願いします。」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。」


 いやあ、いよいよコミカライズの続刊か!本当に楽しみだなあ。早速、未亜にRINEしたら

{読者という立場だけじゃなく、彼女という立場でも喜べるなんて、私は幸せ者だよ!]

 と即レスで大喜びする返信が返ってきた!ここまで喜んでもらえると嬉しいよね。5thアルバムを収録している風景をMVやジャケット用に撮影されている未亜は、送ったタイミングでちょうど休憩に入ったみたいなんだけど、どうやら撮影もテストも無事に進んでいるようだ。しかもテストで歌ったものがそのままOK出たらしく、このところそういうのが多くて快調だとご満悦の様子でさらにRINEの返信がきた。今日も未亜は本当にかわいいなあ、とメッセージを眺めているだけでニヤニヤしちゃうよ。

 よし、17時を回ったし、5巻の書籍化作業もちょうどキリがいいから、スーパーへ買い物に行って、晩ご飯の支度をはじめるかな。スマホからスーパーのチラシを見ると今日は国産豚バラブロックが安くて、珍しく三浦大根が並んでいるみたいだから豚の角煮にでもするかなと思っていたら、慧一から個チャが届いた。


{突然なんだけど今晩一緒に食事をしたい!]

{20時にみんなで前に食事をしたデンキトファミレスまで来て欲しい。おごるよ!]

{未亜さんには別で個チャしてる!]


 未亜にも話が行っているのか。慧一が珍しいなあ。何か緊急の用事かな?未亜にRINEすると未亜には慧一ではなく、朋夏さんからのお誘いが来ているらしい。んん?これはもしかしてもしかするのかな?慧一へいけると返事をしている間に未亜から個チャが来た。


{これ、もしかして、付き合い始めたのかな?]

 [うん、なんかそんな感じがする}

{なんかニヤニヤしてきちゃったけど19時に終わったら急いで向かうね]

 [判った、入り口のあたりで待っているよ]


 やっぱり未亜も同じ感想かー!これは楽しみだなあ!


 スーパーで国産豚バラブロックだけ買って、冷凍庫に入れてから徒歩で家を出る。いつもより100gあたり15円安い機会を逃したくなかったんだよね……。

 20時少し前にデンキトファミレスに着いて入り口から中の様子をうかがうとどうやら一番奥にもうあらかたそろっている感じだ。俺が着いてから5分くらいで未亜の乗ったタクシーが到着する。


「大学の連中はもうみんな来ている感じだね。」

「じゃあ、やっぱりそういうことなんだろうね。あっ、朋夏から個チャが来てた。」

「おっ、こっちにも来てたな。『日向夏へべすの件はまだ内緒にしておいてね』か。」

「まだいってないんだね。まあ、うちも様子見てからだったもんね。」

「そうだったな。なんかもう懐かしいよ。じゃあ入ろうか。」

「うん!入ろう!」


 中に入るとめざとく見つけてくれた朋夏さんが手招きをしている。余った席に二人並んで座るともうみんなは料理を頼んでいたようだ。未亜と二人でさっと決めて、注文をしてしまう。


 料理が次々と運んでくる間は特に何も話題は出ないけど、俺たちを含めた8人はまだかまだかと手ぐすねを引いて待っている感じ。まあ、やっぱりみんなここまで来れば判るよね。


 デザートが運ばれてきたところで、慧一と朋夏さんが突然席を立つ。いよいよかな。


「今日はわざわざ来てくれてありがとう。」

「ありがとう!」

「もうなんかみんな判っている感じだけど、俺と朋夏は昨日から付き合うことになりました!」

「おおっ!おめでとう!」

「めでたい!」

「ますっちとともっち、おめでとう!」


 みんな口々にお祝いを述べる。慧一と朋夏さんが二人で見つめ合ってにっこりしたあと、着席するやいなや彩春さんがまずは口火を切る。


「薄々そんな感じはしていたんだけどさあ。朋夏、私にも付き合ったって内緒にしているなんてひどいよお。」

「彩春、ごめんね。なんか恥ずかしかったんだよー。」


 次は未亜だ。


「ねえねえ、いつくらいからお互い意識しだしたの?はい、朋夏から!」

「私から!?うーん、そうだなあ。秋学期が始まって、金曜日一限のフランス語って慧一と二人だったんだけど、なんか話していてすごく居心地が良くてね。けっこう価値観が近いことも判ったし、そのうちになんか『あっ、この人とお付き合いしたいなあ』って。もう恥ずかしいなあ!慧一の番!」

「ものすごいはずいんだけど、朋夏と同じでフラ語がきっかけだなあ。」

「なんかそういう所も同じっていいね。」

「あとは明るくて活発な感じだけど、俺と同じで実は奥手だったっていうのもすごい共感したかな。」

「えっと、二人とも初カレカノ?」


 二人は目を合わせたあと同時に頷いた。


「えー!ごめん意外だった!」


 と驚いた顔をしているのは彩春さん。二人は高校からの付き合いだけど、ここまでのプライベートはさすがに知らなかったんだな。


「どっちから告ったの?」


 そう聞いてきたのは明貴子さん……って、その手に持っているメモはなに!?


「それは俺からだよ。」

「今日告ってくれるかなあって、なんか予感はあったんだけど、本当にしてくれるとは思わなくてね!」

「それでどんなシチュエーションだったの?」

「お台場のレストランで食事をしたあと、海浜公園まで歩いて、レインボーブリッジを見ながら腰掛けて。もうロマンティックだったよー。」

「ふむふむ。どんな言葉で?」

「それは内緒って、明貴子!?何をメモしてるの!?」

「あっ、ちょっとね!ないしょ!」


 それ、絶対に創作で使う気でしょ!?売れっ子作家はこういう所でも取材を忘れないんだなあ。俺もメモできる小さなノートとペンを持ち歩くかな。


 そのあとも二人への尋問は続く。まとめると実はこれまで何度か二人だけで出かけていた。昨日の夜にお台場で慧一が朋夏さんに告白した。今日の午後に話をしていて、やっぱりみんなにはちゃんと伝えようということになって、急遽声を掛けた。ということらしい。


 本当に二人が幸せそうで嬉しいなあ。カレカノって強制されてなるものでも空気に流されて作るものでもないけど、幸せな空気って一緒の空間にいると本当にほっこりしてくるよね。度々未亜と顔を合わせてニコニコしちゃったよ。二人とも末永くお幸せに!

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