第142話○へべす配信翌日の大学にて!

「早緑様の配信良かった……。」

「さみあん素敵だった……。」

「日向夏さんとさみあんの掛け合い良かった……。」


 水曜日の大学。ランチを食べ終わった途端、朋夏と志満と明貴子が遠い目になっている。というか、朋夏は自分が配信主だったじゃないの!?


「ねえ、この3人どうしたの?」


 サークルに顔を出していた瑠乃が席へ来るなりあきれ顔で尋ねた。


「昨日、早緑未亜が日向夏へべすの配信にゲストで出たのを見ていた3人が配信の余韻に浸っている、らしい。」

「本当に好きなだね、3人とも。」

「瑠乃は早かったね。」

「うん、退会届だしてきただけだから。」

「瑠乃さん、サークル辞めるんだ。」


 朋夏の隣に座っている慧一くんが真面目な顔をして聴いている。うん、確かにこの二人はランチで毎日隣に座っているね。あっ、それはともかく、話の続きだ。


「別にやりたいことができたから、ね。」

「そっか。まあいいタイミングだったのかもね。」

「慧一くんは続けるの?」

「あっ、近々俺も辞める予定。最近一人暮らしをはじめて、実家の近くでやってた週一のバイトも辞めたんだ。」

「勉強に集中する感じ?」

「勉強も頑張るけど、年明けからちょっと別のバイトをはじめるんだよ。割とハードだからサークルは無理なんだよね。」

「もしかして二人って同じサークルだったの?」

「あれ?未亜さん、知らなかった?瑠乃さんと俺、同じ音系おんけいだよ。」

「そうだったんだ。パートは?」

「二人ともボーカル。だけど、ね……。」

「ねえー。」


 なんだろう?


「なにかあったの?」

「演奏がいまいちでさ。上手いんだけど、上手いだけっていうか。」

「なんか、テクニックだけを追求しちゃってるよね。」


 ああ、そういうことってあるんだなあ。学生サークルだもんなあ。


「私は高校の時に組んでいた軽音部のバンドが良かったからそれと比べちゃってね。」

「いまでもやらないの?」

「みんな別々の大学で、ギタリストとドラマーは楽器やめちゃったんだよね。」


 瑠乃もいろいろとあったんだなあ。


「瑠乃のバンドよかったもんね。」

「明貴子ちゃんって、瑠乃ちゃんと同じ高校?」

「そうだよ。高校の頃からの腐れ縁。」

「腐れ縁って、明貴子はまったく。」

「でも、文化祭のポップの文章とか書いたよね。」

「あれは感謝しているけどねー。」


 明貴子がポップとか書いたらなんかすごいよさそう。


「へえー。明貴子さんって高校の頃は部活してた?」

「私は最初漫研で、絵が全然上手くならなかったから二年から文芸部。」


 明貴子、前に聞いた話の流れのまんま部活まで変えてたんだなあ。


「みんな、部活とかやってたんだなあ。」

「圭司はやってなかったの?」

「俺は帰宅部だよ。そういう慧一は?」

「軽音部だった。文化祭のステージでトリもやってる。だけど、まあ過去の話だよ。幸大は?」

「俺は美術部だよ。学校では油彩画描いて、家ではペンタブでデジタル絵を描いてた。」

「そういえば、幸大くん、私が実写配信してたときにファンアート送ってくれたっていってたね。」

「うん、送って、紹介してもらった。怖いもの知らずで本名で送っちゃったよ。」

「えっ、本当!?アーカイブで確認してみようかな。いつくらいか憶えてる?」

「うん。というかあまりに嬉しかったんで、その回のアーカイブ、ブクマしてる。なんかみんなにそういうのはずいけど……。」

「恥ずかしいことじゃないって!私もエンジェルちゃんにチャット読んでもらった回、お気に入りしてあるよ!」

「そうか、それならいいんだけど。ちょっと待ってね。……これだよ。27分あたり。」

「どれどれ……。あっ、これか!これ憶えているよ!」

「私も見たいなあ。」


 彩春の画面を除くと素敵な絵が表示されている。でも、この絵、どこかで見たことがあるようなないような。


「あれ?」

「えっ、これって。」

「ん?おや?」


 圭司と朋夏と明貴子がほぼ同時につぶやいた。


「どうしたの?」

「あっ、ごめんね。なんでもない。」

「あ、いやなんでもない。多分気のせい。」

「うん、わたしも。なんかごめんね。」

「それならいいけど。」


 彩春が何かを思いついたように質問する。


「幸大くん、いまでも絵を描いてるの?」

「描いてるよ。ファジケって判るかな?」

「年に二回有明でやってる日本最大の同人即売会でしょ?」


 志満って、そっちも詳しいのか。


「あそこで二次創作のイラスト集とか出してる。あっ、エッチいのじゃないぞ!?」

「えー!いま描いてるのも見てみたい!」


 朋夏が食いついた!


「ちょっと待って。……ほら、これ。」


 幸大くんが鞄からタブレットを出してきて、画集を見せてくれたけど……。あれ?やっぱりこの絵、確実にどこかで見たことがある。彩春が確信した顔になった。なんだろう?


「……幸大くんってペンネームなに?」

「あれ?前に話してなかったっけ?帯屋おびやわたるって名前だよ。」


 帯屋わたる!?衝撃の事実!!!!!あっ、雨東せんせーも朱鷺野せんせーも見事に固まっている!!!!!


「あれ?帯屋わたる先生って、もしかして、あの毎回シャッター前で待機列が大行列の!?」

「志満さん、知ってるの!?」

「私、ファジケ、サークル参加だから。甲冑謳歌島の島中で細々とBL頒布しているよ。」


 志満って、そっちの趣味があるのか!朋夏が話を引き継ぐ。


「あのさ、帯屋わたる先生って、雨東先生の表紙と挿絵描いている人だよね?」

「そうだよ。小説絵のメインはみなと港湾こうわんさんの『港湾こうわん刑事でかシリーズ』だけどね。最近だと朱鷺野澄華さんの『愛しのあの人は黒猫になった』の表紙と挿絵とかも描いたな。」


 おっ、彩春が続けて質問をするのかな?


「えっ、それじゃあ、幸大くん、湊先生とか雨東先生とか朱鷺野先生とかに逢ったことあるの?」

「それはないなあ。打ち合わせに来て欲しいってよく誘われるんだけど面倒くさくて。」

「そうなんだー。逢っていたらどんな人か聞きたかったのに。」


 彩春、湊先生はともかく、あとの二人はよく知っているじゃないの!?


「そういや、雨東さんのせまじょ5巻の打ち合わせに呼ばれていたなあ。面倒だけどいってみるかなあ。」

「幸大くん、それは是非とも行くべきだよ!」


 あっ、朋夏が強く薦めはじめた。それって、朋夏、驚かせたいだけだよね?でも、幸大くんはたぶん薦めている理由を別の意味で捉えてるっぽい。


「朋夏さん、そんなに雨東先生がどんな人か気になる?まあ、気が向いたらいって、会えたらどんな人だったか教えるよ。」

「うん、是非ともお願い!」


 ありゃ、雨東せんせーも朱鷺野せんせーも固まったまんまですよ。なんか関係者多過ぎだよね、ここの人間関係。まあ、それですごく楽しい日々だからいいんだけど。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 今日の三限は流通論と現代の経営なので、それぞれで授業を受ける。私はレッスンが入っているので心療内科へ向かう圭司にRINEを飛ばして、そのまま大崎スタジオビルへ向かう。演技レッスンもだいぶ上級編になってきて、先生に褒められる。あんなに演技ができなかった私が、こんなにも演技できるようになったんだから本当に嬉しい。


「あっ、百合ちゃん!」

「こんにちは、早緑さん!」


 レッスンが終わって、更衣室で着替えているとちょうどこれからレッスンを受ける百合ちゃんが入ってきた。RINEではまめにやりとりしていて、レッスンの進捗は太田さんに聞いていたけど、逢うのは本当に久しぶり。


「これからレッスン?」

「はい、今日は歌唱レッスンです。」

「内部試験の勉強もけっこういい感じだって、太田さんに聞いたよ。」

「大学にも受からなきゃなので、いろいろと頑張ってます。」

「何か手伝えることがあったらいってね!」

「判りました!ありがとうございます!」


 百合ちゃんと軽く話をして、大崎ビルまで行ってビルに止まっているタクシーに乗って家へ帰る。ご飯を食べて、新しいソファでのんびりしているときに今日の話を出してみる。


「今日は驚いたね。」

「驚いたなんてもんじゃないよ。まさかそんなところでつながりがあるなんて想像もしてなかった。」

「まあ、太田さんに相談だね。」

「実はさっきRINEで相談したら打ち合わせで会えそうなら、白子さんには事前に話をしておいた上で、そのときに暴露するのがいいと思うっていわれたよ。」

「そうなんだ!?」

「うん。下手すると話を直接しても信用しない可能性があるから、って。」

「あー、なるほどね。太田さんもいろいろと考えてくれるのは本当に助かるよね。」

「本当だよ。1月には打ち合わせが入ると思うからまた相談しつつ進めるよ。」


 慧一くんも芸能人にはないにしても何かやってそうだし、全然関係なく集ったのに何らかの関係がありそうな人たちが集まっていたというのは本当に面白いなあ。志満と華菜恵は何もなさそうだけどね。えっ、ないよね?

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