第107話○朋夏の反応

「おはよー!」

「おはよう、未亜。」


 火曜日の1限は「現代のマーケティング」が入っている。春学期に受けた「マーケティング論」を受けてからの受講が望ましいと書いてあったのでこちらは秋に受けているけど、そんな流れなのでいつもの8人がみんなそろっている。


「未亜、朝から元気だね。」

「うん、昨日ちょっといいことがあってね。」

「いいなあ、あっ、そういえば私もいいことがあったよ!」


 朋夏のこともだいぶ理解してきたのでなんとなくそのいいことが判るような気がする。圭司も判っているようで静かに見守っている。


「朋夏のいいことって?」

「明貴子!よく聞いてくれた!早緑様のライブが決まったんだよ!その上、雨東先生の第五巻発売まで決まって!今日は盆と正月がいっぺんに来た感じだよ!」

「……朋夏って本当に好きだね。」


 彩春は相変わらずあきれているようだ。

 そういえば、さすがに外伝とオーディオブックの件は触れなかったね。あれは朋夏が企画して進めているから事前に知ってたもんね……。


「ライブ、今度こそ行きたいなあ。」

「横浜だけは運良くいけたけど、今回こそ3日とも行きたい!」


 朋夏、そんな気合い入れなくても私の持っている招待席あげるからね!?


「雨東の作品も楽しみだな。」

「外伝も出るって書いてあったな。外伝は書き下ろしでオーディオブックも出るんだってな。それも楽しみだよな。」

「さすが、升谷くん!外伝だけじゃなくてオーディオブックの脚本も雨東先生の書き下ろしだからね。かなりいいものになりそうだから楽しみにしているといいと思うよ!」


 朋夏!まだ脚本の件は公開されていないよ!


「もう、朋夏は好きすぎてすっかり雨東先生の担当編集者みたいになってるね……。」


 彩春!ナイスフォロー!さすが!


「ほら、そろそろ授業始まるぞ。」


 圭司もナイスアシストだよ!朋夏は雨東先生かれ早緑美愛わたしの件になると冷静じゃなくなるから、今度気をつけるようにいわないとだなあ……。


 授業そのものはいつも通り問題なく終わる。2限と3限は圭司と私だけ一緒の授業だけど、ランチはいつもの8人で食べる流れなので2限の終わりで2限が空きコマになっている朋夏にRINEを送る。


 [いまどこにいる?}

{ろくちかにいるよ。まだ空いてる。]


 6号館地下へ行くと珍しく朋夏一人だった。


「あー、こっちこっち!」

「場所取りありがとうね。」

「うん、それよりさ。さっきはごめんね。」

「何の話?」

「オーディオブックの件。ついうっかりしていたよ……。」

「ああ、そういえばそうだな。飯出さん、イエローカードだね。」

「うん、反省しています……。」


 朋夏は反省しているみたいだからこれ以上の追求は止めておこう。と思っていたら彩春とかもやってきた。でも、今日は瑠乃がいない。


「あれ?瑠乃は?」

「あー、なんか、サークルの方に用事があるって。」

「瑠乃、サークルやってたんだね。」

「音系らしいけど、あまり参加率は高くないね。」


 やっぱり、瑠乃と明貴子はけっこう仲が良いなあ。柳内くんがニコニコしながら彩春に話しかける。


「岡里さん、昨日、日向夏さんの配信見たよ。なんか久しぶりにあのノリを楽しませてもらったよ。」

「あっ、見てくれたんだ!へべすと配信するとついつい昔のノリになっちゃうんだよね。」

「へべすって?」

「明貴子は、私が前にVTuberやってたって話をしたときいなかったか。私ね、少し前まで西陣つむぎっていう名前でVTuberやってたの。」

「そうだったんだったんだね。」

「うん、そのときに仲良かったのが、日向夏へべすっていうVでね。へべすはいまでもVやってるんだけど、私は声優になったから一応事務所に話をして、OKもらったんだ。」

「なるほどね。」

「それで、へべすも同じ事務所に入ってくれたおかげで、マネージャさんが『これからは新人声優として名前を売るためっていうことで事後報告で教えてくれれば自由に出ていいよ』っていってくれたから時間を見てちょくちょく出るかも。」

「マジで!それはうれしい!」


 柳内くんって、本当に彩春の大ファンなんだなあ。

 ちなみに実はこの件、二人から裏話を聴いてて、彩春のマネージャである大石さんは「同じ事務所だし、声優として宣伝になるから、彩春がいいならノーギャラでも好きにしてくれてかまわない」って、いったらしいんだけど、朋夏はちゃんと仕事としてギャラを出すって交渉したそうだ。「仕事として私の配信に出てくれれば、昔のノリをリスナーに楽しんでもらえて、私は気兼ねなくウルギフもらえて、いまは収入が厳しい彩春に少しでも収益回せるからね、みんなお得なんだよ」って、そのあと二人きりになったタイミングでこっそり教えてくれたけど、そういう所が朋夏のいいところだと思うし二人が単なる友達ではない「戦友」みたいな関係だっていうのが垣間見られてけっこう好きなんだよね。


「ねえねえ、朋夏。彩春がVTuberの話をしはじめたら急に静かになったね?」

「えっ!?明貴子、そうみえるの!?盛り上がっているのが楽しいから黙って聞いているだけだよ!?」

「朋夏、彩春の親友だし、やっぱり配信とか見るの?」

「うん、もちろん!」

「じゃあ、昨日の配信も見たんだ?」

「えっ!?うん、もちろん!楽しかったよね!」

「朋夏も見てくれてるんだね。ありがとう!」

「そりゃあ、もちろんだよ!」


 あっ、見かねて彩春がフォローに入った。


「じゃあ、今度日向夏さんと彩春の出ている配信があったら一緒に見てみたいな。」

「えっ!?うん、機会があったらそれも面白いかもね!」

「よろしくね!」


 明貴子も興味を持ったのかな?でも、出演していると一緒に見られないけどどうするんだろう?なんか後で「どうしよう!?」って相談がありそうだなあ。彩春をちらっと見るとやれやれという顔をしている。瑠乃がこちらへくるのが見えるので、この話題もそろそろ終わるだろうから、あとで話をしてそれぞれの担当マネージャに相談するのが一番かもね。

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