第079話●嬉しいサプライズ

 未亜がとんでもない映像をたくさん用意してくれて、驚きとともにとても嬉しいサプライズとなった。まさかファーストアルバム発売記念CDショップ店頭ミニライブや伝説のサンセットシティ噴水広場ミニライブ、俺が高三の時に開催されたファンクラブ限定シークレットライブの映像が見られるなんて思わなかったからだ。そもそもその辺が資料映像とはいえ、ちゃんと残っているところに太田さんのすごさを感じる。


 ちなみにサンセットシティ噴水広場ミニライブが伝説なのは、初めはガラガラでほとんど人がいなかったのに早緑美愛が歌い始めると足を止める人が増え、最後の3曲目を歌い終わったときには周辺で魅入られている人からたくさん拍手が贈られたからだ。あのライブからファンになった人も多く、早緑美愛のキーポイントとなっているライブだが、映像商品にはなっておらず、まさか見られると思わなかったので、3曲目の時点ではつい涙ぐんでしまって、未亜に優しくなでてもらってしまった。少し恥ずかしい……。


「資料映像っていう割にはなんか全体的にかなり映像がきれいだよね。」

「詳しいことは判らないんだけど、大崎ライブクリエイティブの人が必ず二人で来ていたからちゃんとした映像なんだと思う。」

「家庭用ビデオとかじゃないんだ!?多分プロ用の機材だろうからそりゃきれいだよな……。」

「そういえばロケとかで使うような感じのカメラだったなあ。」

「それは確実にプロ用の機材だね……。」


 ファンクラブ限定シークレットライブは資料映像なのにカメラアングルが3カ所くらいある。


「ファンクラブ限定シークレットライブってカメラ一台じゃないんだね。」

「あー、それは本当はファンクラブ限定で販売する予定だったから。」

「あれ?そうだったんだ。」

「うん。シークレットライブって11月の下旬だったでしょ。映像自体はいま見てもらっている感じで年末くらいには出来ていたんだ。そのあと年明けに3枚目のアルバムを出したんだけど。」

「『私発あなた行き』の頃?」


 3枚目のアルバムを出した直後に「私発あなた行き」という曲がラジオのリクエスト番組で話題になって、ブルウォールチャートにランクインしたことがあった。


「そう。ブルウォールチャートのデイリーに入ったのは圭司も知ってると思うんだけど、あれでファンクラブの会員が激増してね。急にこんなに会員増えるなんて思っていなかったらしくて、事務処理に人手が必要になって、販売の準備が出来なくて、シークレットライブの映像はそのままお蔵入り。」

「そうなのか、もったいないなあ……。」

「いま改めて出してもいいかもしれないよね。」

「俺はそう思うなあ。」


 ほかにも貴重なミニライブの映像などを堪能していたらいつの間にか外は暗くなりはじめていた。


「もうだいぶ暗くなってきたね。」

「そろそろ、ディナーが届くよ。」

「頼んでおいてくれたんだ!」

「うん、作ろうかとも思ったんだけど、手料理はもう普通に披露しているからね。前に頼んで美味しかった宅配のコースディナーにしてみたよ。」

「どちらにしても嬉しいよ、ありがとう。」

「どういたしまして!」


 それからまもなくディナーが届いた。

 前に頼んだ肉料理専門店肉バルだけど、前回よりもなんか豪華だ。


「前より豪華だね。」

「うん、アニバーサリープランっていうのがあったからそれにしてみたよ。」

「なるほどね!」


 二人で食事をしていると未亜がこちらをニコニコしてみている。その顔を見ていて、ちょっといたずら心が沸いた。未亜の方の皿にある付け合せのポテトをフォークで刺して未亜の目の前まで持っていった。


「はい、あーん。」


 未亜が目を丸くして驚いている。


「どうした?」

「えっ!?あっ!あ、あーん……。」


 ポテトを食べた未亜は判るくらい顔を真っ赤にしている。


「初めてでしかも不意打ちは……。」

「いや、ちょっとやってみたくなって。」


 未亜は目にもとまらぬ早さでこちらの皿にあるポテトをフォークで刺して……。


「はい!あーん!」


 うっ、俺もやるの!?


「あ、あーん……。」


 うわー、これは!


「どう?美味しい?」


 未亜がニヤニヤしてこちらを見ている。


「う、うん、美味しい……。」


 うん、これはとても照れるんだな……。でも、照れている未亜を見たいのでまたやってみよう。


 そんな感じで美味しい食事を堪能して、リビングのソファーに二人で並んでコーヒーを飲んでいると「ちょっと待ってね」といって未亜が部屋に戻っていった。すぐに戻ってくると手には小さな包みを持っている。


「はい、これ、誕プレ。」

「えっ。」


 未亜がきれいなリボンに包まれた小さな箱を出してきた。


「開けていい?」

「もちろん!」


 リボンをほどいて、包みを丁寧に開ける。中から出てきたのは……。


「これ、『ニシマチ』のパスケース!しかも前に買った財布と同じデザインのだ。」

「うん、付き合うことになった日、『ニシマチ』でショッピングをしていたときにね、圭司がなんかお財布とパスケースのどちらにするか悩んで、結局お財布にしたみたいだったから。」

「確かに両方ほしかったけど、財布だけにしたんだよ。よく憶えていてくれたね……。」

「もちろん!だって、あのときはもう圭司のこと好きだったから!誕生日のプレゼントにしようって密かに思っていたんだ。」

「そか……。こんなに嬉しいプレゼントはないよ。」

「そんなにこのパスケースがほしかったんだ。」


 ちゃんと思いを伝えるんだ。


「それだけじゃないよ。付き合う前から今日まで、未亜の思いはずっと俺にまっすぐ向けられているんだっていうことが本当に嬉しいんだ。未亜と出会えて、未亜を好きになって、未亜と付き合って、未亜を支えて、そして未亜が支えてくれて、本当にありがとう。愛しているよ、未亜……。」

「圭司……。」


 俺は顔を近づける。未亜の目がそっと閉じる。唇が触れる。そのまま抱きしめて、大丈夫、何も気にすることはない……気持ちの赴くままで……。

 ……初めて、深いキスを俺からすることが出来た。

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