第033話●テスト漬けの一週間

 今週は水曜日からいよいよ大学に入って初めてのテスト週間が始まる。今週と来週前半は未亜も仕事やライブ準備をほとんど外してもらえたので、今日は履修要覧シラバスで試験期間前のリサーチをしている。


「地理学は一応試験あるけど、全体評価の70%がレポート点と授業中にやった小テスト、残り30%が期末試験だな。」

「それなら二人ともレポートも小テストも評点良かったから試験はそんなに気合い入れなくていいね。」

「多文化共生論はどうなってる?」

「それは試験が100%だから対策しないとだめ。」

「これはノート見て振り返りだな。でも授業内容がわかりやすいのが良かったよ。」

「あの先生、すごいわかりやすいよね。」

「具体例とか事例とかがたくさん出てくるだろ?抽象的な話だとわかりにくいからそういうことをしてくれるとわかりやすくなるんだよ。」


 履修要覧シラバスを見ながらちゃんと対策すべき科目を洗い出していく。試験週間といっても試験の評点割合がかなり低くなっていたり、逆に試験でほぼ一発勝負だったり、教員によって試験の重みが全然違う。高校の時のテストとは内容が全然違っていて面白い。


 ネット小説で中学や高校を舞台にしているものが多くて、大学を舞台にした作品が少ないのは、現役高校生だと大学の仕組みがよくわからない、というのもありそうだと思ったりした。ハイファンタジーだとこの辺が適当な設定でも問題ないから楽だけど、その分、一度決めた設定はちゃんとメモをしておかないと前後で矛盾が出てくるんだよな。


 そんな感じで対策をしながらいよいよ試験期間に突入する。試験期間初日一番最初の試験は一番の課題だったフランス語。


「どうだった?」

「未亜のおかげでなんとかなったよ……。」

「圭司って何でも出来そうだけど、外国語は本当に弱いよね。」

「英語もフランス語もダメ。高校はなんとかギリギリ指定校推薦が取れるように頑張ったけど、本当センスがない。」

「それが意外。」

「未亜は語学、すごいよね。」

「自分の歌う曲の歌詞を書きたくて、フランス語とドイツ語はフレーズとして入れたら良さそうだなって思って、高校の時から勉強しているからね。」

「語学は強制割り当てなのに偶然同じ時間に入ってくれたので助かったよ。秋学期でどうなるか判らないけど……。」

「あーそれね。なんかいろいろと裏技があるみたい。」

「そうなの!?」

「うん。だからもし違う時間になっちゃったらそれをやってみよう!」


 未亜とはほとんど一緒の科目を取っているけど、専門科目は一部違うものを取っている。それが水曜日三限の「流通論」と「現代の経営」だ。


「流通論が一番大変だった……。朋夏が一緒じゃなかったらやばかったかも。」

「現代の経営もなかなかハードだったよ。岡里さんと二人で終わったあと思わず苦笑いしちゃったよ。」

「私、後期は現代の経営取るつもりなんだけど、なかなかハードみたいだね。彩春もそんなこといってたし。」

「小論文がくせ者だよね。内容をしっかり理解しておかないと一文字も書けないから。」

「来年広告論を取りたいから両方押さえておかないとだめなんだよね。」

「未亜も広告論取るんだ?」

「うん、広告論の先生、専門がソーシャルマーケティングで、結構権威だから芸能生活に役立つと思って。大学もそれで哲大ここにしたからね。」

「やっぱりそこか。俺もTwinsterで炎上騒動があるとテレビで解説に出てくるのをみて、哲学館選んだから、ほかにも同じ理由で選んでいるそっち方面の人もいるかもな。」

「そういえばほかの四人も広告論取りたいっていっていたから、もしかしてみんな芸能人だったりしてね。」

「うーん、さすがにそれはなさそうだけどなあ。」


 二日目からは一般教養と専門科目が並ぶ。


「哲学の授業が細かくたくさんあって、その中から2単位は必修とか本当にやめて欲しい……。」

「まあ、だからね。」

「だとしてもだよー。」

「哲学って結構面白いと思うんだけどなあ。」

「それは圭司が物書きさんだからだよー。感性で生きている私にはちんぷんかんぷん。」

「まあ、哲学は確かにややこしいかもしれないな。」


 ちなみに試験最終日は、早緑美愛ライブツアーのチケットが7月18日の一般販売まですべて全滅だった飯出さんにつきあって、デンキトファミレスディナーをごちそうになった。参加者はいつもの6人と飯出さんが仲良くしているひいらぎ瑠乃るのさんと御園生みそのう明貴子あきこさんも加わって8人。柊さん、御園生さんとじっくり話したのは初めてだったけど、けっこう話しやすかった。秋は一緒に授業を受けようって盛り上がっていたからこれからは8人グループになるのかな。

 それにしても、ファミレスとはいえ、全員分出せる飯出さんは、ツアーへ全部行く時間が取れることも考えると芸能人というよりも割といいところのお嬢様なのかもしれない。


 そんな感じで一週間をなんとかこなした。

 やけディナーのあと、二次会でカラオケへ行くという6人と分かれて、家にたどり着くと開放感からつい大きな声が出る。


「終わったー!」

「終わったな。」

「別の意味で終わったっていうことになっていないことは祈るしかないよね!」

「多分大丈夫だと思うけどな。」

「8月末にならないと成績発表されないからそれまではお預けだね。」


 そう、成績の発表は8月末。それまでは何も出来ないけど、未亜も俺もおそらくは単位を落としたなんてことはないはずだ。


「いったん忘れるのが一番だと思うぞ。」

「うん、そうする!もうライブまで時間もないし!」

「いよいよライブだなあ。スケジュール見たけど本当に目一杯入っているな。まだしばらくご飯とか洗濯とかゴミ出しとかは任せろ。」

「本当に助かる、ありがとう。一人暮らしだったら家の中は荒れ放題だったと思うよ。」

「アイドルの一人暮らしは汚部屋になりがちっていううわさを聞くからやばかったかもな。」

「ツアーが終わったらしばらくやるからね。」

「まあ、お互い様だよ。気にせずファンのために全力で、な!」

「うん!」


 二人でちゃんと通じ合って前へ進めているから問題はない。大丈夫、いい感じだ。

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