第二章 変わっていく環境

第019話●変わる二人の世界

 週刊KAKUKAWAの反響は、早緑さみどり美愛みあに関しても雨東あめひがし晴西はれにしに関してもほとんどが肯定的なものだった。


 雨東への肯定的な反響は、単行本やコミカライズの増刷という結果をもたらした。さらには、インタビューの中で「いろいろな所と仕事をしてみたい」と言及したからなのか、原稿の依頼やインタビューの申し込みなど、多種多様なアクションにもつながった。水曜の夜に届いていたメールを見るとどれも「KAKUKAWAの専属だと思っていた」という記載があったので、これまで仕事が来なかったのはそういう誤解もあったかららしい。

 水曜夜の段階では、仕事の幅が広がりそうだと喜んでいたのだが、木曜日に大学から帰ってメールを確認するとメールフォームから送られてきた未読が100を超えていて、なおどんどん未読が増えていく。とても俺一人ではさばききれない状況になってしまった。


 翌金曜日、朝一で、一旦全てKAKUKAWA経由にできないか白子さんに相談してみたものの「ライバルとなる出版社からの依頼は関与できないからマネージメント的なことはさすがに無理」という考えてみれば至極当たり前の回答。そんな話を未亜とのランチの時にぽろっとこぼしたら、その日のうちに太田さんからRINEが来た。曰く「雨東先生がよろしければうちでその辺のマネージメントをしますよ」と。

 大崎おおさきエージェンシーは総合芸能プロダクションだけあって、所謂文化人ともマネージメント契約をしているそうで、サイトを見たら確かに割と有名な評論家や作家が何人か名を連ねている。早緑美愛と一緒にマネージメント出来た方が、例えばインタビューなどで二人を同時に起用したいという意向に対して対応が楽になるという事務所側のメリットもあるそうだ。


 白子さんに相談するとKAKUKAWAとは専属契約をしているわけではないから問題ない、契約窓口を大崎にしても影響はないとのこと。両親のほうは諸手を挙げて賛成してくれた。今後のことも考えて、基本的にグッズ類の契約コントロールなんかも含めて一次窓口と契約交渉は全部おまかせすることにして、大崎エージェンシー所属の文化人タレントになる契約を結ぶことになった。「文化人スポーツ選手セクション」という文化人の担当部門に籍を置くことになるそうで、本来はそのセクションの人がマネージャに付くらしいのだけど、今回は雨東が早緑美愛の交際相手という状況から担当マネージャは「アイドルセクション」担当の太田さんということにしてもらえた。大崎側の社内決済の関係で現時点では仮契約となり、社内の契約決済を経て、正式な本契約となる。建前としてはNGが出る可能性はもちろんあるのだけど「これまでの実績からまず問題ないですよ」と太田さんにはいわれた。いずれにしても一週間足らずで目途が立って良かった。


 太田さんは本当にすごい人で、仮契約をした途端、それまでに来ていた様々な話をたった一日で整理した上、俺にとってメリットのありそうなものをチョイスして話を進めるかどうか、確認までしてくれた。驚いたのはそうした依頼の中にこれまでライトノベルに手を出していなかったマツノキ出版から週刊誌に掲載する短編の依頼があったこと。依頼をしてきた小林さんによると今後はライトノベルにも進出する予定で、準備を進めているのだとか。KAKUKAWAと並ぶ大きな総合出版社であるマツノキ出版側からのオファーはとても嬉しく、ここぞとばかりに専門誌を出すなら連載させてください、とお願いをしてしまった。


 しかも太田さんは、仮契約と同時に営業もはじめていて、次々と仕事を斡旋してくれる。結果として、KAKUKAWA以外でのファンタジー系短編読み切りやいままでだと畑違いだったエッセイなど、書き物の仕事を増やすことが出来た。また、これまで縁もゆかりもなかった女性誌やファッション誌、結婚情報誌などからの取材も打診が届いている。


 仮契約ではあるものの現時点で契約関係はすべて大崎エージェンシーがやってくれることになっており、その辺の業務負荷が無くなったのも大きく、いままでよりも仕事を受けやすくなった。本当に太田さんに足を向けて寝られない。


 例の物件は未亜だけでなく俺の方の報酬からも引き落とせることになったので、無事に折半出来るということに。保証人も事務所との契約で指定する法定代理人で代替するので物件側では不要ということになった。その後、社内決済も2日程度で終わり、本契約の発効は、入居タイミングにあわせた7月1日ということで落ち着いた。


 そしてなにより雨東よりもすごかったのは早緑美愛の方だった。

 チャートのベスト10に入り、中野のライブを満席にしたとはいってもアイドルとしてはまだまだ駆け出しというランクだった早緑美愛が、インタビュー掲載翌日、いきなり各配信サイトのデイリーシングルランキングで単品売りの各楽曲が上位を独占。そのままブルウォールチャートのウィークリーランキングでもシングルTOP10を独占、アルバムTOP10は1stから3rdまでの全アルバムでTOP3を独占するなど、目に見える反響が大変なことになっていた。

 太田さんによると仕事の依頼もたくさん来ているそうで、できるだけ受けるようにしつつも期末試験やライブツアーの準備も考えて、正直断らないといけない仕事も多いとのこと。嬉しい悲鳴を上げていた。


 二人の交際を楽に進めるためのインタビューがこんなにも二人の世界を変えるとは思わなかった。さすがにもう想定外の事態は起きないから大丈夫だろう。着実に進もう。

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