第44話 間一髪の救助
時はほんの少しだけ遡る。
「くっそ〜、何も木に突っ込むことはねぇだろ……」
ジュダルは頭に乗った葉っぱと枝を取りながら
「アニキが無理矢理この森に着陸させるのが悪いッスよ〜……」
「馬鹿かお前、街中に降りたら俺達みたいな不法侵入者なんて即捕まるだろうが」
ニコルの発言にジュダルは呆れながら答える。
彼らは、本来『虹の蝶』の為に用意されたワイバーンに乗り込むことで、
「来てやったぜぇマキナ、そして『虹の蝶』、覚悟しやがれぇ……よくも俺をコケにしてくれたなぁ!!」
下衆な笑顔を浮かべるジュダル。
彼には復讐を果たすことしか頭に無い。
「う〜ん」
そんなジュダルをよそに、ニコルはしきりに後ろを気にしていた。
「どうしたんだよ、モンスターでもいたのかよ?」
「いや、今乗ってきたワイバーンが心配で」
「はぁ? んなのどうでもいいだろうが」
「でも流石に可哀想ッスよ、泉で置いてけぼりなんて」
「るせぇな。あんなのでも騎乗用なんだ、ほっときゃ勝手に帰るだろ!」
「そ、そうっスか」
「そんなことより『白銀の翼』復活の手助けが出来るのをありがたく思うことの方が大事だ。炎剣が俺の手元に戻れば、お前の闇ギルド在籍って汚点が消えるんだぞ?」
「はっ、そうだったッス!!」
ニコルは目をゴシゴシ擦った。
「お前にはその盗賊スキルで頑張ってもらわねぇと困るんだよ。俺の為にも、何よりお前自身のためにもな!」
「はいッス!!」
「絶対、炎剣を奪い返すぞ!!」
「取り戻すッス!!」
「極悪ギルド『虹の蝶』を叩き潰す!!」
「ペチャンコにするッス!!」
「こうしてジュダル様の名が再び王国に響き渡るのだ!! ハーッハッハッハッハッハッハー!!!!」
大笑いするジュダル。
ニコルは膝を付き、拍手で応えた。
「オイラも頑張るッス!!」
「それでいい。来る前も言ったが、成功したらサブリーダーにしてやるよ」
「はいッス!!」
「よし、まずは『虹の蝶』のヤツらを見つけるぞ!」
ジュダルは歩き出す。
誰がお前みたいなマヌケをサブリーダーにするか。炎剣が戻ったら用済みだ、闇ギルド在籍記録が割れてんなら衛兵に突き出して報酬金でも貰うとするか。
悪意に満ち溢れた表情を浮かべるジュダル。
ニコルはその顔に気付かないまま、獣耳をぴょこぴょこ揺らしながら着いていくのだった。
そんな中、2人はモンスターに遭遇した。
「……お?」
ヂュー!
――キバネズミ、
発達した牙を持つ鼠のモンスターだ。
「よしニコル、お前が倒せ」
「へ、オイラッスか?」
「そうだ、お前の腕前がどんなもんか見てやる」
「わかったッス!」
ニコルは鞄からクローを取り出し、右手に装備する。
「てぇい!」
間合いを詰め、クローによる一撃でキバネズミを倒した。
「やるじゃねぇか、そこそこだがな」
「低級の獣モンスターとは故郷の森でよく戦ってたッス!」
すると、茂みから更に3匹のキバネズミが現れる。
「よし、アイツらも倒せ!」
ジュダルはというと、遠くの木の陰に隠れながら指示を出していた。
「あのー?」
「何だよ」
「アニキは戦ってくれないんスか?」
「俺は、その、あれだ……」
今の自分ではどんな敵にも勝てない、という事は流石のジュダルも理解していた。
現に、同じネズミ系モンスターであるヒネズミにも勝てていないのだから。
「この程度のモンスターの討伐なんて余裕すぎて話になんねぇ。弱すぎて
「
「ああ、だからさっさと倒して俺の異常を治せ!!」
苦しい言い訳だが、ジュダルは勢いで押し切った。ニコルは言われるがままに3匹のキバネズミを倒す。
そして更に新たなキバネズミが現れる。
「アイツらもだ!」
「は、はいッス〜!!」
矢継ぎ早に現れるキバネズミ、その全てをニコルが対処した。
そんなことが繰り返され、数十分が経過した。
「……もう疲れたッス〜!!!!」
一段落着いたニコルは森の真ん中で大の字に寝転がった。
「俺の許可なくへばるんじゃねぇ!!」
「だってぇ、オイラだけがモンスター倒してアニキは見てるだけじゃないですかぁ」
「いいから早く立ちやがれ、いつモンスターが襲ってくるかわかんねぇんだぞ」
「次はアニキが倒してくださいッス〜!」
「テメェが倒せ、このジュダル様の言うことが聞けないのか!」
「……実はアニキ、炎剣が無いと何も出来ないとか言わないッスよね」
「うぐ!」
あまりに図星だった。
「単純にキバネズミを恐がってるように見えるッス!」
「は、はああ!? 何言ってんだお前は!? だったらそのクローを貸せ! モンスターなんざ楽勝に決まってんだろうが!」
ジュダルはニコルからクローを受け取り、右手に装着する。
「少しちいせぇが、まあいい」
「壊さないで下さいッスよ。爺ちゃんから貰った大事な物なんスから」
「壊すわけねぇだろうが、俺はジュダル様だぞ」
すると、視界の先に大きな2本の角を持つモンスター、フォレストホーンの群れがのっそりと横切った。
「へへ、デカブツが現れたな」
フォレストホーン達は首を下ろし、各々が草をむしゃむしゃ食べ始める。
さっきまで使えてた武器だ、壊れるわけがない。
ジュダルは駆け出し、フォレストホーンのお尻にクローを突き立てる。
「くらいやがれええええ!!」
バキン!
クローの爪は簡単に折れた。
「はあああん!? 何でだよおおお!?!?」
「オイラの大事なクローがあああ!?」
2人はそれぞれ悲鳴を上げた。
「ガラクタじゃねぇかよ、クソが!!」
ジュダルはクローを取り外し、投げ捨てた。
「ああ、やめて下さいッス!」
「このノロマのデカブツが!!」
そして無防備なフォレストホーンを蹴り上げる。
「うう、オイラの武器が……はっ!?」
ニコルは落胆しながらクローを拾い上げると、とある事に気付いた。
「ア、アニキ! このモンスター、もしかしたらランク変異種かもしれないっす!?」
「ああん?」
冷や汗を流しながらニコルは続けた。
「オイラの故郷の森にも近い見た目のモンスターがいるッス、下手に刺激すると村に
「知るかそんなこと!」
ニコルは後ろからジュダルを抑える。
「今ならまだ間に合うッス! 絶対大変なことになるからやめてくださいッス〜!!」
「クソがぁ離せぇ!!」
ニコルを無理やり振り解き、ジュダルは再度フォレストホーンを蹴り続ける。
「こいつめっ! こいつめっ! こいつめっ!」
すると、
蹴られていたフォレストホーンの鼻息が荒くなり、眼が赤く光る。そして額から新たな一本の角が生え、立派な3本角の頭を高く上げた。
ブモオオオオオオオ!!!!
フォレストホーンは咆哮を響かせる、
他の個体も同調するように角が生え、その場の全てが激昂状態となった。
「ん、どうしたんだこいつ?」
ジュダルは能天気に呟く。
「あわわ、大変ッス……!!」
フォレストホーンが散り散りに走りだす。
その中の1体は、ジュダルの身体を直撃した。
「ばらああ!?!?」
「ア、アニキィ!」
彼は敢えなく吹っ飛ばされた。
しかし、偶然当たりどころが良かったのか、ジュダルは即座に立ち上がる。
「ひいいいいいい!?」
そして、ニコルを置いて走り去った。
「ええ!? アニキィ!!」
どんどん距離は遠ざかり、この場にはニコルと1体のフォレストホーンだけとなった。
ブモオオオオオオオ!!!!
「うわああああ!!!!」
目が合ってしまったニコル、
そのまま彼はフォレストホーンに追いかけ回されることとなった。
「はぁはぁ……」
そして、
どれだけの時間が経っただろうか。
ニコルにはもう脚の感覚はほぼ無かった。
ブモオオオオオ!!!!
フォレストホーンは未だにニコルを目標に捉えていた。
「もう、無理ッス……」
ニコルはペタンと座り込む。
そんな彼を目掛けフォレストホーンの突進が迫る。
一瞬、炎の揺らめきが見えた。
「……へ?」
それはフォレストホーンの首筋を彩ったと思うと、その巨体が力なく倒れる。
ぱっくりと裂かれた跡を見て、ようやく斬撃による物だと理解した。
「生きてるか?」
亡骸の横に1人の白髪の少年がいた。
年季を感じさせる亜麻色の外套、七色の蝶の紋章、そして。
「え、炎剣......まさか!?」
右手には灼熱の魔導武器、炎魔剣イフリートが握られていた。
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