第30話 射撃対決、海竜の銃弾!


「よし、今日はあれでも試すか」


 そして無事にクエストを達成させた後、

 マキナはギルド修練場の奥にある射撃場に足を運んでいた。


「ん?」


 どうやら先客がいたらしい。

 黒い艶のある長髪、そして黒いマントの後ろ姿。


「……」


 『虹の蝶の死神』ネイルショットだ。

 スコープ越しの的に集中しているらしく、マキナには一切気付いていない。


 バンッ!

 バンッ!

 バンッ!


 3つの銃声と共に前の3つの的が破壊された。

 即座に5つの的が生成されるが、ネイルは動揺する様子もなく全て撃ち抜いた。


「……」


 スコープから目を離し、銃身を上げる。


 まるで銃が身体の一部になっているような自然な動きだ、一切の無駄がない。


 俺も始めるか。

 マキナは【収納】で魔導銃を取り出す。


 ーー海竜砲リバイアス

 海の王の名を冠する、青い銃身を持つ魔導銃だ。


 マキナは魔力の通ったパネルを操作し、訓練レベルを設定する。

 入力を終えたマキナは射撃位置に立ち、リバイアスを構え、集中する。


 即座に的が出現する、数は3。


 ドンッ!!

 ドンッ!!

 ドンッ!!


 重い銃声が響く、続けざまに的が5個出現する。


 ドドドドンッッ!!


 マキナは冷静に見極め素早く射撃する。


 結果、

 設定された全ての的を撃ち抜いた。


「ふぅ......」


 リバイアスを下ろし、息を吐く。

 もう少し難易度を上げてみるか。


 すると、左側から視線を感じた。


「……」


 ネイルが鋭い目付きでマキナをみていたのだ。


「え?」


「……」


 彼女は顔を背けると、パネルでマキナのレベルより1段階高く設定、再度射撃訓練を開始する。


 いきなり的が5個出現した。


 ババババンッ!!!!


 それを即撃ち抜くと、更に8個、10個と1度に出る量が増えていく。


 全て撃ち抜いたネイルはマキナの顔をチラリとみる。表情は分かりづらいがその分、目は誇らしげに見えた。


「……!」


 どうやら射撃に関しては譲れないものがあると見た。


「勝負、ってことか?」


 ネイルはコクコク頷く。

 マキナの腕前を見て、競い合いたくなったらしい。


「あまりそういうのは好きじゃないけど……逃げるのも違うよな」


 マキナはこの勝負を受けることにした。

 ネイルの行った訓練の更に1段階上のレベルに設定し、射撃を開始。


 ドドドドンッ!!!!


 全弾命中、決して低くないレベルをマキナは難なく乗り越えた。


「......!!」


 ネイルは負けじとパネルを触り、レベルを更に上げる。


 そんなことが幾度となく繰り返され……。



 ◇



「で、こんなことになっちゃったわけ」


「ああ」


 ステラの問いにマキナは冷静に答え、自分の後ろを振り返る。


「すげぇ……未だにどっちも外してないらしいぜ!!」


「どっちがすごいんだろ、マキナさんかな?」


「射撃でネイルと渡り合えるなんて、マキナさんすごい!」


 射撃場の後方には団員達が集まっていた。

 マキナとネイルの競い合いが1人の団員に目撃され、それがあっという間に知れ渡った結果だ。


「マキナの勝ちに今日の報酬分賭けるぞ!! 頼むぞ〜!!」


「それは困る! 俺ネイルに全財産注ぎ込んだんだぞ!!」


 遂に賭けが行われるまで皆がこの勝負の結果に注目していた。


「ここまできたら勝つしかないね、頑張れマー兄!」


 掌サイズの小さな旗をひらひらと振るアリア。


 バババババババンッ!!!!


「ネイルが決めたぞーーっ!!」


「おおおおおおおお!?!?!?」


 ネイルは遂に最大のレベルをクリアした。

 魔導銃を回転させ背中に仕舞うと、マキナの方をチラリと見た。


「君にこれが出来るかい?」と言いたそうな目だ。


「やっぱりネイルちゃん凄い……!」


「マキナ、ここが正念場よ!!」


 ステラはマキナのバシンと背中を叩き、発破をかける。


「いてて……ま、精一杯やってみるよ」


 マキナは背中をさすりながら射撃位置に立つ。

 パネルを操作し、レベルを最大に設定する。


 訓練開始、的が出現する。


 ドドドドドドドンッ!


 数、タイミング、距離、全てが不規則に現れる。マキナはそれを瞬時に見極め、リバイアスで撃ち抜いていく。


「やっぱすげぇ……!」


「ちゃんと離れた的から優先して撃ってる……一定時間で的が消えることを考慮してるんだ」


「それをあんな一瞬で判断してるのかよ!?」


 ざわざわと動揺するギャラリー。


 そして終盤に差し掛かる。

 出現頻度が更に上がり、当ててはいけない的、2発当てないと消えない的も混じってくる様になった。


 しかしマキナはそれらも全て見極めていく。


 ドドドドドドドンッ!!


 よし、もうすぐ終了だな。

 もうこれ以上のレベルは無いから打ち止めか。


 その時、

 生成された新たな的が、射撃場前を埋め尽くすように現れる。

 今までで一番の数だ、その数はまだ増えていく。


「うわぁ!?」


「これも最大レベルの仕様なのか!?」


「いや、ネイルの時はなかったぞ!?!?」


 短時間でパネルを酷使してしまったため、設定した訓練システムに異常が起きたのだ。


 レベルでいうと最大を優に超えている。


 しかし、

 目の前の異常に対し、今のマキナには中断するという感情よりも、


「全部撃ち抜かなければ……!」


 という感情が働いた。


 マキナはリバイアスのロックを解除する。

 キィン! と音が鳴ると本体が前後半分に分かれ新たにトリガーが展開、2丁の魔導銃に姿を変えた。


 リバイアスは2つの魔導銃が組み合わさった姿だったのだ。


 ドドドドンッ!!

 ドドドドンッ!!

 ドドドドンッ!!

 ドドドドンッ!!

 ドドドドンッ!!


 2丁それぞれで的を判断し、対象の的全てを撃ち抜いた。


 「ふぅ〜、疲れた……」


 マキナがリバイアスを連結させ、元の状態に戻す。


「おおおおおおおお!!!! あれを全部撃ち抜いたのかよ!!」


「すげぇ!! ネイル以上の魔導銃使い始めてみたよ!!」


「俺の全財産がぁ!?!?」


 ギャラリーからドッと歓声が起こる。


「すごいよ、流石マー兄だね!!」


 アリアは駆け寄り、マキナの腕を掴むと上下にぶんぶん振りだした。


「まさかここまでやるなんてね……びっくりしたわ」


 ステラは唖然としながら言う。

 すると、彼らに革靴の音が近付いてくる。


「……」


 ネイルがマキナの前に立ち、黙ったまま右手を差し出す。どうやら認めてもらえたらしい。


「凄い射撃の腕だ、『虹の蝶の死神』の腕は伊達じゃ無いな」


 マキナも右手を差し出し、握手で答える。

 そんなネイルはマキナの持つリバイアスにチラチラと目を向ける。


 「……見たいのか?」


 コク、とネイルは頷く。

 魔導銃士として、魔導銃のリバイアスが気になるらしい。


 マキナはリバイアスを手渡す。


 「〜〜!!」


 ネイルは目を輝かせる。

 そして触り心地、細部の構造までを心ゆくまで堪能したのだった。

 それからというもの、ネイルは『虹の蝶』に現れる頻度が多くなり、マキナと魔導銃について語る姿が度々目撃されるようになったのだった。

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