第42話
彼女は無言で書類を眺め、ややあってこちらを向いた。
「『教徒番号』が記入されていませんが」
「ああ、それ何かよくわからなくて」
「…………」
世間知らずを見るような眼をされたが、実際世間知らずであるのだから致し方がない。
「教徒番号とは、教団に籍を有するすべての方が持つ番号です。あらゆる分野の手続きにおいて、個人の情報の開示や提供に使われます」
マイナンバーかよ。
「いや、そういうのは特に」
あるわけないだろ。
「教徒なら全員付与されているはずですが。宗門人別改帳を確認してまいりますので、所属されている教会名と洗礼者を教えてもらえますか」
「あ、そういうのないです。教徒じゃないんで」
すると受付さんは目をそらして、
「それでは、申請は受理できません」
…………?
「どういうことですかね」
「ですから、こちらの『職業希望申請書』は受理できないということです」
「トモノヒ教徒でないからですか?」
「はい」
あっさりしっかり、断言してくれちゃった。
「それおかしくないですか?」
これはさすがに俺も異議ありである。
「ここって公共施設ですよね」
「そうですが」
「特定の宗教団体に入ってないと使えないなんておかしいですよ」
「はぁ……」
「何言ってるんだこいつ」みたいな顔された。
「規則なので……」
なんともお役人の鑑のような対応である。
「その規則のどこに正当性があるのか教えてください。そうじゃないと筋が通らないでしょう」
迷惑そうだが、こっちもたまったものではない。あんなイカレ宗教に入るくらいならもう一度死んだ方がマシである。かといって、このままでは無職継続である。頼りにしてた神殿ポジのここが門前払いなら詰むわけだ。
「規則ですから……」
とりあえず規則言っとけモードに入った受付は背後に目をやる。すると奥のデスクで事務仕事をしていた一人が何かを察して立ち上がり、わきの扉を開いて消えていった。と思えば、甲冑をがっつり着込んだ屈強な男を二人ばかりともなって戻ってきた。
あ、これアカンやつだ。
「いやーそうですねー。規則ならしょうがないですよねー」
これ以上深入りしたら最悪また死ぬ。
前世の経験から俺は素早く手のひらを返し、
「それではこれで」
とっとと逃げた。
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